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「現状は、魔王が既に存在し、各国に対して宣戦布告をしてきたということでいいのでしょうか?」
シェリーが大まかに情勢をまとめる。とは言うものの、だからどうしろということなのだろうか。また、各国から人を集めることを示唆しているのか。
「しかし帝国の動きもわかりません。最悪、帝国と魔王が結託している可能性も視野にいれておくべきかと」
とんでもない言葉に、この場にいる者たちの視線がシェリーに集中する。
「佐々木さん。それはいくらなんでも考えすぎではないのか?」
シェリーの突拍子もない言葉に炎王は苦笑いを浮かべて返す。それはまるで帝国が魔王を生み出したかのように聞こえてしまう。
「それはどうでしょうか?シーラン王国では次元の悪魔から襲撃を受けるほんの少し前に、帝国からと思われるミサイル攻撃をうけました」
「ミサイルって存在したのか?」
「“みさいる”とはなんだね」
二人の国の重鎮から別々の問いがシェリーに投げかけられた。勿論、ミサイルの存在を確認したのは炎王だ。
「言い換えると『魔導弾』です。目標物に向かって飛来する魔弾で目標物にあたると爆発し、中に仕込んでいるスクリュー型の鉄の破片が飛び散る仕様です」
シェリーが王都メイルーンを雨のように降り注いだ魔弾の説明をしていると、ツガイである5人の機嫌はみるからに悪くなっていき、シェリーの向かい側に席についている炎王は片手を額にあててため息をついている。
「気になってはいたが、その血の跡はその魔弾を受けたからとか言わないよな」
炎王はもう片方の手でシェリーの右肩を指し示した。そう、シェリーたちは王都メイルーン襲撃のあと、そのままラース公国に転移をして、ことの対処にあたったため、シェリーの衣服には異様に血が付いたままだ。
その前に気がつきそうではあるものの、破れた外套を取り替えていたため、見た目では何事もない身なりだったのだ。しかし、先程シェリーが炎王の側に駆けつけたときに垣間見えた衣服には大量の血痕の跡がついていることに炎王は気がついてしまったのだ。
「そうですが、なにか?」
シェリーはそれがどうしたと言わんばかりの態度だ。
「異様に詳しいと思ったが、自分の身体で実験するのを止めたらどうだ?」
「その話はスキルの実用性の話であって、今回は攻撃を受けたという話です」
炎王とシェリーの話にはおかしなところが存在する。そのことに気がついたカイルが、シェリーではなく炎王に問いかけた。
「炎王。その話を詳しく説明してほしいのだが?」
「カイルさん。私の話は、今は関係ないですよね」
カイルに人材確保を邪魔された意趣返しだろうか、シェリーはカイルの質問は関係がないと遮った。
「関係なくはないよ」
関係なくはないとカイルは言い切るが、今の話は魔王と帝国の関係性の示唆をどうみるかという話のはずだ。
「まぁ、竜人の彼が気にするのもわかるよ。佐々木さんは何かと合理性を求めすぎるところがあるからな」
どうやら、炎王はカイルの味方のようだ。
「俺の魔術もそうだが、自分で術を構築する者は使いながら、調整していくんだ」
炎王は魔術創造を持っている。だからその術の完成度は使っていきながら調整していくと言っているのだ。シェリーもスキルの完成を上げる為に使用して調整していると。
「俺の場合はソルとルギアがいたからな。相手には困らなかった。佐々木さんの場合は分身の術で自分自身で試していたってやつだ」
「「「「分身の術?」」」」
聞いたことがない言葉にシェリーと炎王以外の者たちの頭の中に疑問符が飛んでいた。
よくわかっていない者たちの為に炎王は右手の親指と中指をパチンと鳴らす。
「「こういうことだ」」
炎王の背後にもう一人の炎王が現れる。その姿にシェリーはため息を吐いた。
「炎王が先にその魔術を完成させていたおかげで、私のスキルは能力の半減という使えないものしか構築できませんでした。炎王の魔術構築で、私のスキルの制限はかなりされていますよ」
再度述べるが、炎王の能力は魔術創造。そしてシェリーのスキル創造の制限が魔術として無いものをスキル化できるというもの。同じ異界から来た者同士、思考がダブるのだ。
「そこに文句を言われてもなぁ。分身に能力倍増すればよかったのでは?」
一人に戻った炎王が普通の分身ではなく、分身に能力倍増効果をつければ良かったと言うが、その言葉をシェリーがすぐさま反論する。
「それができなかったから、普通の分身に収まったのですよね。自分の能力以上のモノは作れない。私が霊獣的なものを作ろうとしなかったと思うのですか?」
「あ〜。創れなかったと、また文句を言われているのか?あれは使えないぞ。結局能力の分化だ」
「それは炎王が創り上げたモノの隙間を縫うように作り上げたので理解しています。何でも構築できるものではないと」
シェリーは炎王の魔術の構築を探るためにスキルのトライアンドエラーを繰り返して、作りたいスキルを構築していった経緯がある。
隙間を縫うとはそういうことだ。これはシェリーの血が滲むような努力のひとつにすぎなかった。




