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「さて、それはどうであろうな」
シェリーが納得できないという言葉にミゲルロディアは疑問を投げかけてきた。
「既に魔王が存在していると仮定すれば、筋は通っておるかもしれない」
「魔王!ってどこまで話が進んでいるんだ?」
途中から話に参加した炎王からすれば意味不明だろう。いつもであればシェリーはそんな炎王を無視するのだが、ここにはミゲルロディアがいる。
「ああ、それは私が勝手に思っていることだ。この国の中枢と言って良い公都に的確に攻撃を仕掛けてきたのだ。これは魔王が存在し、襲撃してきたのだとな」
「知識があるということか。人という集団を知っていれば、どこを潰せば一番打撃が与えられるか理解しているということか」
炎王もミゲルロディアの意見を否定することはなかった。これは次元の悪魔と戦い、その後統率された完全体の悪魔と戦った炎王も同じように感じたということなのだろう。
「あいつら人の心を折るのが好きだったからな」
そう、知識があるということは、人がどうすれば苦しむかを理解しているということだ。
「それで閣下。筋が通っているとはどういうことでしょうか?」
炎王が納得したところで、シェリーがミゲルロディアに質問する。
「ああ、恨んでいる国に対して、それ相応の数を送り込んできたというのであれば、考えうると」
恨んでいる国に応じた数を送り込んできたというのであれば、ギラン共和国に対して相当の恨みを持っているということになる。
「マルス帝国の現状はわからないが、ラース公国とギラン共和国、それにシーラン王国は先の討伐戦に参加した国だ。しかし、炎国は討伐戦には参加してはいない」
ミゲルロディアの言葉にこの場にいる者たちは言葉を返すことなく聞いている。
言われて見れば、その三国は討伐戦に参加していると言えるが、ギラン共和国は国民を戦いに参加させずに物資支援という形を取っていたはずだ。
なぜ、そこにギラン共和国に対して一番多く次元の悪魔を送り込むという選択肢になったのだろうか。
「戦いに参加していない国には仮に1体の次元の悪魔を送り込んだとして、この三国を壊す勢いで送り込んできた意図だが、結局のところは本人にしか、わかりかねないだろう。だが、先の討伐戦の何かが引き金になっているということは予想ができる」
所詮、本人の思いは本人にしかわからない。
討伐戦で一番英雄という存在を生み出し、生き残った者が多かったシーラン王国。
聖女と女神ナディアの神人が魔導師として参加したラース公国。
物資を戦場に送り込み、賢者の作りし回復薬等で支援してきたギラン共和国。
魔武器を開発し、魔力が少ない人にも戦える力を用いて参加したマルス帝国。
そして、神の加護を用いて人とは逸脱した力を持ち魔導師として参加したグローリア国。
この5カ国が討伐戦に参加し、何者かを魔王にするほどの恨みをかったということだ。
「何者かということは、それこそ神にでも尋ねなければ、わからないことだろう。しかし、それは答えてくれぬであろうな」
「なぜでしょうか?閣下」
「以前の時もナディア様に、魔王とは何かとお伺いを立てたが、あのような異物は排除すべきとしか言われなかった」
神という存在は必ずしも人の視線では物事を考えてはいない。それはシェリーもよく理解していることだ。
「いや、もう少し聞き出そうとはしたのだが……まぁ……なんというか。別のことを言われてな」
恐らく白き神の愚痴でも言い始めたのだろう。
「参考にどのようなことを女神がおっしゃったのか聞いてもいいか?」
光の女神ルーチェの本心にシェリーの所為で触れてしまった炎王が、女神ナディアの言葉に興味を持ったのだろう。ミゲルロディアに質問したが、その周りの者達は女神ナディアの白き神嫌いを知っているため、わざわざ聞くほどでもないという雰囲気だった。
「いや、当時は理解できなかったのだが……」
そういう切り出し方をしてミゲルロディアは答え始める。
「あれなら、魔人の方がよっぽどマシだとか、気持ちが悪すぎるとか、世界に歪みを与えているって理解できないのかとか、いくら手を出さないという誓約があったとしても、アレを排除するぐらいいいとか、いっそのこと誓約に引っかかって痛い目にあえばいいとか……」
魔王とは何かという問いの答えというより、魔王という存在を全否定する言葉だったようだ。その中にもやはり、白き神への愚痴と思われる部分が入っていた。
人の世界に直接手を出すことは、何かとペナルティがあるようだ。しかし、白き神はシェリーと通じて何かと口出しをしてきたということは、その誓約にも穴があるということなのだろう。
例えば、己が使徒として定めた者に応えることは出来るとか。だから、白き神はちょくちょくシェリーにちょっかいを掛けていたのかもしれない。
 




