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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
26章 建国祭

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「なぜ、空から落ちて来てるの?」


 鎧を纏ったガタイの良い人物が、ため息混じりで、地面にお座りをしている赤い毛並みの大型犬に聞いている。


「わふっ!」


 女神ナディアから可愛いという感覚だけで、獣化したグレイでは説明ができなかった。


「ぶっ!ウィル。これなんだ?こんなおかしなヤツ初めて見た」


 風竜ディスタが獣化にしては中途半端なグレイを見て吹き出している。そのことで、大型犬のグレイがワタワタと慌てだすも、上手く人の姿に戻れないのだろう。前足を上に上げて二本足で立とうとしている努力は見られた。


「ナディア様の御意向だから、あまり触れないほうがいいわよ」


 女神ナディアを崇める民としても、今のグレイの姿には同情するのだろう。可哀想な者を見る視線が、フルフェイス越しでも感じられる。


 その時立て続けに近くで地面に複数の者たちが降り立った。いや、正確には空から落ちてきたと言い換えよう。


 スーウェンは地面に着地する瞬間にふわりと降下速度を緩ませ地面に降り立った。浮遊の魔術を使ったのだろう。


 リオンもまた地面に落ちる寸前に制動がかかったかのように、急激に落下速度が落ち、地面に着地した。


 オルクスはというと、土煙を立てながら、四つん這いで地面に蹲っていた。いや、落下中は騒がしく騒いでいたが、地面が近づくと、体勢を変えて普通に地面に落ちたかのように見えた。しかし、流石猫科の豹獣人だけあって、本能が赴くまま着地したのだろう。五体満足で一番驚いているのが、オルクス自身だった。


「で、あなた達は何故空から落ちてきたのかしら?」


 フルフェイスを取ったオーウィルディアが、呆れたように聞いてきた。


「俺たちも理由がよくわからなくて」


 やっと獣人の姿に戻ったグレイが答えた。やはり、獣王神の加護はきちんと受けた方がいいようだ。


「ご主人様が転移を施行したときに、事前に得た座標を用いなかったようで、空間に投げ出された感じになりました」


 一番魔導術に対して理解しているスーウェンがグレイの言葉の補足を入れる。その言葉にオーウィルディアは雪が降っている灰色の空を見上げた。


「シェリーちゃん。どうして、そんな危険なことをしたのかしら?」


 いや、違った。カイルに抱えられて降りてきているシェリーを見上げていたのだ。


「事前に忠告したのに、文句を言われるのは心外です」


 シェリーは彼らの話を聞いていなかったので、オーウィルディアの言葉から彼らが空中に転移をしたことに対して文句を言ったと決めつけた。

 その言葉に4人が慌てて否定をする。


「「「「文句は言っていない!」」」ません」


 ここで、シェリーの転移に対して文句を言ったとされてしまえば、次から付いてくるなと言われるのは必然的だ。ここは彼らとしては絶対に否定しておかなければならない。


「文句は言っていなかったわよ。これは私の忠告よ」


 年長者として若者の愚行を諫めるようにオーウィルディアが言う。カイルに抱えられ地面に降り立ったシェリーは大きくため息を吐いた。

 危険なことは理解していると。


 シェリーは口を開こうとしたが、未だにカイルから解放されないため、自力で地面に降りようと身を捩る。しかし、竜人であるカイルがシェリーを降ろす気が無いように、抱え込まれており、シェリーはカイルを無言で睨みつけた。自分を解放するようにと。


 しかし、カイルはにこにことした笑みを浮かべ、シェリーを離す気がないようにみえる。今日一日で色々あったシェリーは抵抗するのも面倒になり、再び大きくため息を吐いて口を開いた。


「世界を平面に図式化したマップスキルを持っていますので、それとリンクさせて転移をしているのです」


 シェリーがマップスキルを持っていることは冒険者ギルドで把握されていることなので、隠す必要はない。……普通は隠すべきスキルなのだが、幼いシェリーの常識の齟齬が招いた結果なので、仕方がないことだ。


「位置情報はそのマップスキルから得られるのですが、高さの調整を今しているところなのですよ。この世界の高さの基準が空島だなんて、誰も教えてくれなかったですからね」


 シェリーは嫌味っぽく言っているが、上空の交通網が発達していないこの世界では、高度の基準など無くても問題がなかったので、誰も調べようとしなかっただけだ。


 しかし、風竜ディスタは違うことが気になったようだ。


「この世界の基準ということは、別の世界の基準というものがあるっていうことですかねぇ」


 そう、シェリーの常識の多くは()の世界の常識を用いている。だからだろう。無意識で“この世界”と言葉にしたのだ。


 その言葉を聞いたシェリーを抱えているカイルの力が強まる。己の一番の敵はあの高貴なる存在だと。


「世界が一つだけと言われましたか?」


 シェリーは質問に対して質問で返す。誰にそのようなことを言われるのだろう。その問いに風竜ディスタは答えられない。

 この世界以外に世界があるとは考えたこともなかったからだ。それは誰しも同じこと。だから世界は世界でしかないという概念に囚われている。


「この世界は白き神の世界。ならば、他の世界があって当然ですよね」


 この世界は白き神の創りし世界。ならば、他の存在が創った世界があって当然だろうと、シェリーは淡々と答えた。




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