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「魔人がこの国に……ですか?それはナディア様が許してくださるかが、問題ではないのでしょうか?」
シェリーはこの国で一番認められなければならない存在の許可が必要ではないのかと、ミゲルロディアに問う。
「ふむ。確かにナディア様の許可は必要かもしれぬが、あの方の望みはこの国の安寧だ。私が国主の座に戻ることを認めてくださったのであれば、魔人がこの地に住まうことを認めてくださるだろう」
魔人であるミゲルロディアが言うと説得力がある。しかし、シェリーとしてはあまり乗り気ではないのだろう。ミゲルロディアの話を受け入れるとは言ってはいない。
「その話をするとラフテリア様が興味を持つかもしれませんが……」
シェリーはラフテリアと話すのが嫌なのだろう。若干顔を顰めている。
「何故、そうなる?ラフテリア様は基本的にロビン様のことしか興味ないはずだが?」
シェリーの隣を歩くミゲルロディアもシェリーと同じく顔を顰めている。ミゲルロディアはかなりラフテリアに対して苦手意識があるらしい。
「そのロビン様が自由に行動できるようになりましたので、世界の為になるとわかれば、首を突っ込んできそうな気がします」
「ふむ。それは……」
ミゲルロディアは言葉を止めてしまったが、面倒だという感じがありありと見て取れる。
「先にロビン様に話をつける方が一番いいとは思います。……が、その場にラフテリア様も居そうな気がしますので、結局ラフテリア様が興味を持たれると思いますので、そうなった場合、閣下に対応をお願いする流れになりますね」
「ふむ。……少し冷えてきたな。さっさと終わらせて、戻るとしようか」
ミゲルロディアは問題を先送りにする選択をしたようだ。雪が積もっていく景色を見て、やるべきことを先に終わらすことを口にする。
ただ、そう言いながらも、ミゲルロディアの頭の中では、どうすれば一番いいのかの答えは出ているのだった。
「あっ!」
遠くの方からシェリーたちの姿を確認して声を上げる者がいた。
「シェリー!三体の次元の悪魔を倒したぞ!」
そう言って駆け寄って来たのは、オルクスである。オルクスがいた場所にはグレイがこちらを見て立っていた。さきほど『あっ』と声を漏らしたのはグレイであり、ミゲルロディアの姿を認め、声が出てしまったのだ。
「そうですか」
オルクスの報告にシェリーは、何も感情もなく答え、オルクスの背後にあるモノを見ていた。
そこに新たにモノが追加されていく。それはスーウェンとリオンによって追加されていた。
「オルクス。貴方は一番役立たずでしたよ」
スーウェンがオルクスが言った言葉と違うことを言った。いや、オルクスは自分が倒したとは言ってはいない。
「獣化できれば、俺が倒していた!」
「かもしれない妄想ではなく、事実を言え」
例え、レベル100を超えたとしても、次元の悪魔の硬い皮膚と強靭な肉体を斬ることは難しい。オルクスは獣化という力を手に入れれば、そのあともう一歩という境界を超えることができると言い張っているが、リオンは報告をするのであれば、事実を言えと指摘する。
「二人共、グレイが居なければ、魔眼に操られて、同士討ちをしていたことを忘れていますよね。リオンも人のことは言えませんよ」
スーウェンの事実を言葉にした刃が、オルクスとリオンを襲った。その言葉に息が止まったように微動だにしなくなる二人。
その二人を無視するようにグレイがミゲルロディアの前に立った。
「父上。お久しぶりです」
己と外観の年齢が変わらなくなった父親の目の前に立つグレイは若干震えているようにも見える。
「お願いがあるのですが……」
グレイはタールを流し込んだような全てが黒い目を見て、願いがあると言う。
「なんだ?」
ミゲルロディアはグレイのこの姿が珍しいと言わんばかりに、口元を歪ませて苦笑していた。
大公の座に付いてからというもの、直接ミゲルロディアに対して意見を言う者は限られていたので、新鮮味があるのと息子のグレイの成長が喜ばしいのだろう。
「ナディア様のダンジョンの使用許可をいただきたいのです」
以前からグレイは魔眼に耐性がない彼らに対して危険性を何度も口にしていたが、今回のことで、流石に早急に魔眼に対する耐性が必要だと思ったのだろう。女神が一族の者の為に用意した、魔眼の耐性を得るためのダンジョンの使用許可を願ったのだ。
普通であれば一族の者しか使用できないが、特別な理由があれば外部の者でも使用許可が出る。勇者ナオフミのようにだ。
「何を言っている?」
ミゲルロディアはグレイの言葉に疑問を投げかけた。
「ナディア様から出向くように何度も神言があったと伺ったが、まだ出向いていなかったのか?」
違った。女神ナディアから催促を受けているのに、まだ訪ねていなかったことへの疑問だった。
しかし、それはシェリーが行くのを嫌がったので、グレイの所為ではなかった。




