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「カイル。それはダメだと思うぞ」


 業務補佐官のニールが眉間を指で揉みながらカイルを諭す。


「ん?何が?遅れてきたことか?」


しかし、カイルは何が悪いのか全くわからないという感じだった。


「全部だ。全部。カイルお前いくつだ?遅れてきたら、まず謝ってから、遅れた理由を言って理解してもらうべきだろう」


「今年で75だね。それに今まで遅れてきても誰も何も言わなかったよ。時間にうるさいのはシェリーぐらいじゃないかな?」


 時間にうるさい。確かにシェリーにはその傾向が見られるようだ。そもそも時間の管理は教会から鳴らされる鐘の音が基準だったりする。聴き逃がせば、今が8刻なのか9刻なのかわからず、日が昇っているから朝で沈めば夜だと言う感じで、おおらかと言えば聞こえいいが、適当だったりするのだ。


「だから、カイルさんと組むの嫌だったのです。年上のクセに常識知らず、一度も時間通り来ないで、予定通りに物事が運んだ試しがない。相性が悪すぎです」


 そう文句をいうシェリーは話し合いのため通された会議室でタワーになっているパフェをルークに食べさせてもらっていた。

 ルークは姉のご機嫌取りのため、せっせとタワーのパフェを切り崩している。


「それにニールが引きずってでも連れて行けって言うからさ。別に間違ったことしてないよ」


「それはものの例えだ。今回の依頼は早急に対処が必要だから、シェリーのわがままを聞いている暇がないから、連れていけという意味だ。明日には必ず王都を出ろ。あと、他人のタグは勝手に触るな。常識だろ」


 ニールは言葉の解釈を履き違えるなと言わんばかりに、カイルを諭す。そして、注意もすることも忘れなかった。


「知ってるよ。でも、あそこまで頑なに否定をするシェリーを連れ出すには仕方がなかったと思うけど?」


 だが、カイルは己の行動の正当性を口にした。その言葉を聞いたシェリーは、ニールに視線を向け、今回受けた依頼の取り消しを求めた。


「ニールさん。今回の依頼は他の人に回してください。謝罪も反省もないのにやってられません。信用のない相手と組むと事故に繋がりますから」


「シェリー、説明しただろう?この依頼は突如として出現したダンジョンの調査兼魔物の間引きだとな。上位ダンジョンが示唆されるから、強靭な力業でダンジョンを進んでいって、シェリーのマップ機能で記録していかなければならないとも言ったよな」


 ニールはシェリーでなければならない理由を述べる。


「では、Aランクのエミリーさんと組みます。女性2人で仲良く行けそうです」


「エミリーは番ができてハネムーン中だ。だから、この件で対応できるのが、カイルとシェリーしかいない。わかったら明日には出発しろ」


 (つがい)休暇。これはどの職業でも認められる休暇だ。だが、種族によってその期間はまちまちなので、今すぐに、番ができたというエミリーが戻ってくることはない。

 ニールから依頼受領の取り消しの否定をされたシェリーは項垂れてギルドを後にした。

 外はもう、日は暮れて群青色の空には東から月が昇ろうとしていた。

 ルークを学園まで送って行くとシェリーは言い張り人工的な光が照らす石畳の上を二人で歩く足音が周りの雑音に消えていく。


「姉さん、無理して冒険者をしなくてもいいよ。これからは寮での生活になるし、お金だって、あの父さんからもらっているよね。だから 、姉さんは好きに生きてもいいと思うよ」


 ルークは前から思っていた。早く独り立ちして、姉を自分から解放しようと。そのために13歳から18歳まで入学試験を受けることができる王立騎士養成学園を受け、最小年齢で合格しようと。

 平均15歳で合格ラインに達する難関試験を13歳で受かったのだからルークは相当努力をしたのだろう。

 ルークの思いを知ってか知らずかシェリーは立ち止まり空を見上げた。


「ルーク。それはダメなのよ。負の精算は()の代で終わらせなければならない。それには冒険者という職業が適しているのよ。そして世界の意思は私を絡め取ろうと動くでしょう。だから私は気軽に行動できる職業を気にっているわ」


 決意を宿す桜色に揺らめく瞳の先には満月と弓形の月があるだけだった。





 ところ戻ってギルドの個室でニールは煙草をふかしていた。


「なあ。カイル、あんまり嬢ちゃん怒らすなよ。竜人族と違って人族は成長が早いから子供扱いは程ほどにしないと本当に嫌われるぞ」


 ニールの目の前に座っているカイルはご機嫌に酒を飲んでいる。


「ニールは知っているか?シェリーの目に映る者はルークと敵視した者だけだと」


 この言い方だとわざとおシェリーを怒らせていたかのように聞こえてしまう。己を認識させるために怒りを買ったと。


「そんなもの始めからわかっている。カイルはシェリーが絡むとおかしくなるのも知っている。もう一度確認するが番じゃないんだろ?」


「違う。誰もが言う高揚感というものは感じないからね。何て言うのかな俺をピンクの目に映してほしいって感じかな?それにシェリーの方も変わらないし」


 やはりカイルはわざとシェリーを怒らせていたようだ。だが番ではないと言いつつその言葉に含まれる内容は番を否定する言葉とは矛盾している。


「言葉だけ聞いてると番への独占欲にしか聞こえないがシェリーもルークのことしか態度変わらないしな。あの無表情がデレデレになるのは」


「エミリーがうらやましいよ。この世界で唯一の番に巡り会えるなんて」


 番はこの世で唯一の存在。一生巡り会わずに今生を終える人達が多い中、己の唯一に会える人は皆の憧れの存在となる。


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