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そもそも、根本的な問題だった。歴史の改竄だ。
シェリーは項垂れる。ラフテリアのことは完璧に隠蔽されている。
ラフテリアが初めてシェリーに接触した時に散々、人に対する怒り、憎悪、愚かしさを言い。ツガイに対する愛情、愁い、後悔を言いたいだけ言って去っていった。白い謎の生命体の話からも初代聖女はラフテリアで間違いはないはず。
なのにカイルは初代聖女をスピリトゥーリ聖女と言った。これは白い謎の生命体曰く、強者の番をつけてみたんだけど失敗しちゃったテヘペロって、いっていた2代目聖女の話じゃないのか。
「初めて魔人化した人物は?」
「4千5百年前の今は滅んでないカウサ神教国のマリートゥヴァ王太子妃だけどそれがどうしたの?」
それ、ラフテリアが殺したという王太子、その番の王太子妃じゃないか。そこの記録は存在をしているのにラフテリアの存在の記録がない。初代聖女であり、この世界で初めて魔人化した聖女ラフテリア、魔人ラフテリア。
これって一から説明しないとわからない話じゃないか面倒臭い。
「面白い話をしているじゃないか。ワレも混ぜてくれないか。」
突然声が降ってきた。扉の中から、シェリーが結界で封じている、部屋の中から声がする。
カイルがシェリーを片手で抱き、扉から距離をとる。
「シェリー、結界が解けているの?」
「いいえ。元々こういう仕様です。魔人となっても理性というものは残りますから、コミュニケーションをとることはできますので、出入りが出来ないだけです。何が琴線にふれて破壊行動に出るか分からないので閉じ込めています。」
そう閉じ込めているだけなのだ。確認してみよう。
スキル
地獄の牢獄
中からも外からも7日間は絶対出入りが不可能となる異空間を造りだし、対象物を閉じ込める。ただし、高魔力が維持には必要なため施行者が結界に魔力を供給し続けるか、高純度の魔石が必要。
閉じ込めるだけって、意味あるの?
そう最後のいつもの突っ込みの一文。その一文のとおり、閉じ込めるだけの結界なのだ。
だから、中にいる人物は扉の外に自分以外の魔人がいることに気がついていたし、魔人とシェリーの話も聞こえていたし、先ほどの会話も聞いていた。本当に何の意味があるのかと言いたい仕様である。
「破壊的衝動は押さえられていますか?無理ならこのまま対応します。」
「それは大丈夫だ。それよりも先ほどの話に興味が湧くな。」
「そうですか」
シェリーはカイルから離れ、扉の前に立つ。
「この部屋に入っていいのは誰ですか?」
「そこには誰がいるんだね。」
「ご存じの方はご子息のグレイシャル様に閣下の第1夫人の弟のスーウェンザイル様。そして、わたしシェリーミディア。最後にカイザール様この人には面識はないと思います。どうされますか?」
「みんな構わないよ。」
大公閣下の返答を聞き後ろを振り返る。グレイとスーウェンは立ち直ったようだ。シェリーは風の魔法を使い、直接三人に声を届ける。
「一つこの部屋に入るのであれば条件があります。番に関すること、番を苦しめたものに関することは絶対口に出してはなりません。何が切っ掛けで破壊行動に繋がるか分からないので、スーウェンさんは転移魔術の準備は常にしておいてください。」
そう言って正面を向き、シェリーは骸骨の扉に手をかざす。
「『スキル強制解除』」
骸骨の扉がひび割れがおき、一気に砕けた。その下から、大公閣下が療養で使用していた部屋の青い扉が顔を出したのだった。
青い扉を開けば黒髪の黒いタールを流し込んだような目をした20才ぐらいの大公閣下がテーブルでお茶を飲んでいた。
「お久しぶりです。閣下、ここの住み心地はいかがでした?」
「なかなか快適ではあった。しかし、骸骨にメイド服とは斬新だな。まあ、問題はなかったか。」
大公閣下の口振りだとまるで骸骨にメイド服を着させ、人と同じように身のまわりの世話をしてもらったかのようだ。
「それは良かったです。」
「まあ、座りたまえ。」
大公閣下に勧められ4人はテーブルに着く。
「さて、先ほどの御仁のことを聞きたいのだが、どのような方なのだ。」
シェリーは考えるどこまで話してよいのか、真実を話してもよいのか、だが疑われてしまえばそれが真実と証明すべきことはできない。
「前提条件として、これはわたしが知っているだけでそれを証明しろと言われても真実だと証明することはできません。」
「構わない。」
「まず、先程カイルさんが言っていたスピリトゥーリ聖女は2番目の聖女です。そして、マリートゥヴァ王太子妃も2番目に魔人化した人物です。」
「では初代は誰なんだ。」
「聖女ラフテリアそして魔人ラフテリア。初代聖女と初源の魔人はラフテリア様です。」
「そんなものどの歴史書でも見たことがないぞ。ラフテリアの記載があるのは大陸の名前のみだ。」
「そのようですね。恥ずかしながら、わたしは基本的な学がないのでそのあたりは分かりませんが、ラフテリア様はこことは違う、今はラフテリア大陸とよばれるところに暮らしていました。そして、こちらの大陸から教皇と殿下が聖女を迎えに来て、聖女を教会に受け入れました。権力者というのはどの時代も変わらないのか、聖女を王家に取り込もうとしたのです。ここで問題なるのが、聖女の幼馴染みの番と王太子の番であるマリートゥヴァ王太子妃だったのです。」




