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「私があの女性を利用しようとした結果、こちらにご迷惑をおかけしてしまったようで、すみません」
シェリー自身、エルフ族の女性に対して、マルス帝国に侵入する目的に使おうとしていたことも事実だが、この世界に召喚された『ハルナ アキオ』という人物に対して、全てが終わった後のこの世界で生きるための手助けができれば良いと考えての行動だったのだ。ナオフミのように、この世界を恨みながらも番であるビアンカと共に暮らせていけるように、彼にも手を取り合って生きる人物がいるのであればと。しかし、この話から行くとエルフ族の女性を利用するためにこの国に送られてきたようだ。
シェリーの思惑が外れ、その女性がいることでナヴァル家に迷惑をかけてしまったことをシェリーは謝った。しかし、セーラは大したことがなかったように言葉を返す。
「シェリーさんが謝ることはないですよ。奥様もその考えには同意されておりましたし、シェリーさんがこちらに連れて来なければ、きっと暫くの間王城に客として迎えられていたことでしょう。なんせあの猊下の側近のお嬢様だったので、下手に扱うことはできませんからね」
あの猊下···それはオリバーにボコボコにされたスーウェンの父親のことだろう。側近ということは、あの話し合いの場にいた誰かの娘だったということか。
「しかし、師団長さんには申し訳ないことをしました。何かお詫びをしたほうがいいでしょうね」
シェリーは流石に、マルス帝国の者達の侵入が王都中心の第一層内で起こってしまったことの要因を連れてきてしまったことは申し訳ないと思っていた。
シェリーがお詫びとして出した物は、ユーフィアの目の前にあった。
「こ···これは!」
ユーフィアはワナワナと震えながら、出された物が山になっている姿を見ている。その横ではシェリーのことを睨みつけているクストが存在していた。
「ポテチにポッ○ー、キット○ット、なんてことでしょう!夢にまで見ていたお菓子の山が現実に!」
シェリーはクストにお詫びをしなければと言いながら、ユーフィアの目の前でお菓子を次々を取り出して、山のように積み上げて、今回ご迷惑をかけたお詫びとしてユーフィアに差し出したのだった。
「おい、これの何処が詫びなんだ」
クストが唸り声を混ぜながら、シェリーに疑問を投げかける。確かに見慣れない異界の菓子のパッケージは怪しいものにしか映らないだろう。
そんなクストをシェリーは無視をして、ユーフィアに声をかけた。
「ユーフィアさん。ユーフィアさんのお勧めを師団長さんの口にでも突っ込んで上げてください。でないと不審物として取り上げられそうですよ」
不審物。ユーフィアにとって見れば先程言っていたように、夢にみるほど食べたいと思っていた魂の記憶の存在だ。
そのお菓子を不審物として取り上げられてはたまらないと、ユーフィアは一つのお菓子を手に取り、中身を取り出す。
「クスト。あーん」
そう言ってクストに差し出されたものは、細い棒状の全体的に黒いが一部が持ち手のように白いモノだった。
クストはユーフィアの行動に固まってしまった。
「ユーフィアさん。チョコレートは炎国とギラン共和国にしか出回っていないので、最初からはキツイのでは?」
「え?チョコレートがあるのですか!フィーディス商会の商品にはありませんでしたよ!」
シェリーに言われユーフィアはクストに差し出していたポッ○ーを口に咥え、ポリポリと食べだす。
「黒い食べ物は普通は忌避されるでしょう」
シェリーに指摘され、ユーフィアはまた一本ポッ○ーを食べる。
「こんなに美味しいのに?よく仕事で行き詰まったときに、ポッ○ーを食べながら考えているとアイデアが降ってきたのですけどね」
ユーフィアは何かを懐かしむようにクスリと笑った。人が思考能力を回転させる為に必要な行動はそれぞれだ。ユーフィアにとっては甘いものを食べながらリラックスして考えるのを好んでいたらしい。
ユーフィアはまた一本取り出し食べる。
「シェリーさん。またこれも炎王からいただいた物なのですか?」
ユーフィアは少し寂しそうに尋ねた。便利なものを作り出してきたユーフィアにとって唯一再現できないものが食べ物だった。
「そうですね。よい取引相手です」
「羨ましい」
ユーフィアは炎王との伝手がないことに、羨ましいと言葉にしているが、炎王自身はユーフィアと接触しようとしたものの、全て隣で固まっているクストによって握り潰されたのだ。
だが、そのことはシェリーは口にしない。炎王とユーフィアとの縁が必要であれば、強制的に世界が介入してくるだろうが、そうでないのであれば、活発に行動する炎王と引きこもりのユーフィアが会うことはないだろう。
「ユーフィアさん。そこの固まっている師団長さんにチョコレートを突っ込んで起こしてもらえません?今日は師団長さんにも聞いて欲しい話があるので」
シェリーに指摘され、自分の横で固まってクストを見たユーフィアは赤いパッケージを手に取り、中身を取り出して2つに割った。一つはユーフィアは自分の口に入れ、片割れをクストに差し出したのだった。




