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「シェリー。大したことは指示されないと言っていた割には、危険だと言っていたけど、それって矛盾していない?」
カイルがシェリーの横を歩きながら、シェリーが言っていた言葉の矛盾を指摘していた。確かにシェリーは言っていた。所詮子供に使う魔眼なので大したことは指示されないと、だがルークにはシェリーと同じ行動をさせられないほど危険を感じて、ルークには甘々な特別仕様を使ってもらっていたのだ。
「確かに矛盾はしているでしょうね。そもそも、基準がオリバー仕様です」
基準がオリバー仕様。言葉から想像すると物騒に思えてしまう。
「元々は初めから4番目の仕様で実行しようとしていましたから」
4番目。それはまだシェリーの口からは説明がされてはいなかった。勿論、カイルは聞き返す。
「4番目って?」
「結界を全力で結界を張らされ、結界を解くと魔眼鳥に攻撃されるという仕様です。結界を張るのはいいのですが、全力でというと、凄い勢いでMPを消費していくのです。そして、魔力切れ起こす直前で強制的に魔眼を解かれ、攻撃をされる。残り少ないMPでは再度結界を張ることはできず、魔眼鳥から攻撃をうけるのです。だから、MP切れを起こす前に魔眼の力から逃れないといけないのです」
言われてみればオリバー仕様なのかもしれない。普通はMPがギリギリになるまで搾り取ろうとはしない。
「それって結界を張れないと駄目ってこと?」
カイルがそもそも論としてシェリーに聞く。これは結界が張れることで、この魔眼鳥から耐性を得ようとしているのかと。
「ええ、そうですよ。結界は張れて当たり前だそうです。食材調達も素材採取も自分の意志で行動しているわけではありませんので、下手すると死にます」
またまた、物騒な事をシェリーは言い出した。それも先程魔眼鳥を持っていたときと同じような嫌そうな顔をしながら死ぬと言ったのだ。
「目的の為なら手段を選びません。目的地まで全力で移動し、その過程で立ちはだかるものがあっても強引に突破し、目的を果たす。例えば西地区で警邏を担う第6師団に止められれば、石畳を粉状に砕き西地区の一部を陥没させて、相手を行動不能にさせたり、外門が邪魔であれば、破壊して突破する。結果として第6師団と色々事を構えることになりました」
その言葉を聞いてカイルは歩みを止めた。シェリーに対する噂は多種多様あった。その中でも特に酷かったものが、西地区の陥没の話だ。シェリー自身の問題もあるだろうが、その話の裏側にはオリバーが関わっていたというのなら、納得できるというものだ。
そして、シェリーの下手すると死ぬと言うのは行動の邪魔をした側の話だったのだ。それは第6師団の者達に要注意人物指定されるのも頷ける。だから、そうならないためにもルークには優しいバージョンで実行するようにシェリーからオリバーに願い出たことも理解できた。
ということは、今回スーウェンとオルクスとリオンがその状態だということになってしまう。
「シェリー。一旦戻ろうか」
カイルは事の重大さに気が付き、屋敷に戻ろうと提案した。
「嫌ですよ。私は魔眼鳥に関わりたくありません」
「あの3人が暴れると、統括師団長が出てくるかもしれないよ?」
「ちっ!」
カイルの言葉にシェリーは舌打ちをする。面倒な筋肉うさぎと事を構えるのはよろしくない。シェリーは踵を返し、もと来た道を戻るのだった。
シェリーは第1層内のナヴァル公爵家の前に立っていた。元々早めには出ていたので、一旦引き返しても約束の時間に丁度間に合っている。
そう、早足で一旦屋敷まで戻って、そのまま裏庭に行き、グレイが『どうしたんだ?』と聞いている間にシェリーは魔眼鳥を鷲掴みにして、1つ目の目を視て命じたのだ。
「『眠れ』」
と、ラースの魔眼を使って命じた。すると頭部全体が目だと言っていい鳥の目が閉じた。そして、魔眼鳥に操られていた3人もその場で倒れ込んで眠ったのだ。
「日が暮れるまで魔眼鳥の支配下にありますので、そのままで問題ありません」
なぜ、こんなことになっているのか理解出来ていないグレイに声を掛けて、再び去ろうとするシェリーにグレイは待ったをかけるがシェリーは聞く耳をもたず、そのままナヴァル公爵家まで来たのだった。
そのシェリーの背後にはグレイに経緯を説明しているカイルとシェリーについてきてしまったグレイがいる。あの3人を裏庭に放置したまま来てしまっているのが現状だ。しかし、屋敷全体にオリバーの結界が張ってあり、凍死するほどの寒さではないので、魔眼鳥の力の効力が無くなるまで放置するという結論に至ったのだ。
誰の結論か。勿論、3人を心配していたグレイ個人の結論だ。シェリーは彼らに対して思いやりという心はないが、カイルまでも彼らに対して冷たい扱いだったのだ。
シェリーはナヴァル公爵家の重厚な玄関扉に備え付けられているドアノッカーを叩く。
しばし待つ。·····。
もう少し待つ。
誰も出てこないので再びドアノッカーを叩こうとすれば、やっと玄関扉が開いた。その向こう側には、とても不機嫌そうに眉間にシワを寄せた青狼獣人のクストが立っていたのだった。




