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「この草むしりはなんの意味があるの?」
魔眼に対して既に抵抗力を持っているカイルが聞いてきた。カイルはオリバーの意図がわからず、戸惑っていたのだ。魔眼の耐性をつけるというのに、草むしりとはこれは如何に?という疑問だ。
「今は偶発的産物により、見苦しくない程度に庭を整えてはいますが、昔は存在していなかったので、草むしりは毎日の日課でした。ですが、この作業ばかりに手を取られては他の事ができませんから、他の事をしたければ、この命令に対して抵抗するだろうという意味です」
この屋敷が建つ区画は第2層なのだ。そして、この屋敷の周りには貴族が王都に住むための居を構えている。見栄えが悪いということは、世間一般的に許されない。だから、日課としてシェリーは草むしりを自分の仕事の一つとしていたのだった。
だが、シェリーの仕事はそれだけではない。食事を作り、ルークの身の回りの事をして、掃除、洗濯、買い物、時間があれば裏庭で技を磨き、また食事を作る。休む暇などないぐらいの忙しさだった。
そこで草むしりばかりをしていると、全てのことが滞ってしまうのだ。それはシェリーとしては許されないことだった。
「これぐらいですと、3人で半刻ほどで終りますので、次に行くと思いますから、私は出かけてきていいですか?」
シェリーはこの3人を放置をして出かけると言い出した。
「シェリー。このまま放置は困る。それに次に行くってなんだ?」
グレイはシェリーを引き止める。こんなわけの分からない状態で放置されても、どうしていいかわからない。だからグレイは、シェリーに疑問を投げかけた。
その疑問に対し呆れたような視線をシェリーはグレイに向ける。
「オリバーが説明ていましたよね。1〜5までの段階があると。次は普通に2番目です」
「え?自動的に移行するってことなのか?」
「所詮子供が行うように設定されたものなので1から3段階目までは大したことは指示されません」
シェリーが言うように元々は幼い頃から魔眼に対する耐性をつけるために、シェリーとルークが使うように作られたものだ。日常の延長でできるものとして作られたのだろう。
「因みに2段階目ってなに?」
カイルがシェリーに聞いてみた。子供が行うように設定されたものなら、シェリーがあのように嫌な顔をするはずはない。
「夕食の材料の調達です」
ということは、買い物ということだろう。しかし、それのどこに忌避感を持って抵抗しようとする意志を持つというのだろうか。
「ルーちゃんの場合はルーちゃんの嫌いな物を買わされて、それが夕食に出されます。私の場合は肉を狩ってこさせられました。あの魔眼鳥は夜になると魔眼の効力がなくなります。指示されたモノが近くにいればいいのですが、最悪どこかわからない場所に突然放り出された状態になります」
シェリーとルークとでは使用設定が違っていたようだ。あのオリバーでも息子には甘かったということだろうか。
「3段階目は素材の調達です。ルーちゃんはここの地下の採掘でしたが、私はオリバーが欲している素材の調達でした」
この3段階目もルークとシェリーの課せられた設定の差が大きい。
「なぜ。ルークは優遇されている感じなのかな?」
カイルはシェリーとルークの差に不満があるようだ。些細なことなら、文句は言わない。しかし、治安がいいとは言い切れないが、安全な王都の中で済ませられることと、危険が伴う王都の外では、その身に降り注ぐ危険度はかなりの差が出てしまっている。
カイルの言葉にはオリバーに対する不満が現れてしまっていた。
しかし、そんなカイルにシェリーは更に不機嫌そうに答える。
「ルーちゃんをあんな危険な目に遭わすわけには行かないですよね。海の中で正気に戻ったときなんて死にかけるじゃないですか」
いや、シェリーの意向が反映されて、ルークのときはかなり優遇をされたようだ。しかし、海の中とはいったい何を採らされていたのだろうか。
「ここの草がなくなれば、彼らは日が暮れるまで戻ってはきません。私はユーフィアさんと連絡が取れましたので、出かけますから、あとは好きなようにしてください」
シェリーは彼らはそれまで魔眼に操られたままだと確信して言った。今はまだ4刻ぐらいだ。それから、日が暮れる9刻ぐらいまで戻っては来ないと言い切ったのだ。いくらなんでも日中いっぱいも自我がなく操られたままとはありえるのだろうか。
「えっと、俺はオルクスたちに付いて行くよ。魔眼の効力が解けたときの状況説明は必要だろうと思うから」
グレイは人工魔眼に操られた者達と共に行動すると言った。
シェリーが言っていたように海の中で魔眼の効力が解けてしまえば、パニックに陥ってしまう。その時のための説明要員はきっと必要だろう。




