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「リオンさん。リオンさんが戦った次元の悪魔はあのような感じでしたか?」
シェリーは一度この国境で次元の悪魔と戦ったリオンに尋ねた。あのように青い血管のような紋様がある悪魔だったのかと。しかし、リオンから返っていた言葉は
「あそこまで大きくはなかったな」
だった。確かにリオン達が戦った次元の悪魔は4メル程だったので、こちらに向かってくる程巨体ではなかった。だが、シェリーの知りたい言葉ではなかった。
「戦った次元の悪魔は青い紋様でしたか?」
その言葉に炎王がハッとした表情になった。炎王はシェリーが何を問題視しているのか気がついたのだろう。
「青だったが?それが何か?」
リオンの言葉にシェリーは炎王を見る。その炎王は何かを考えるように、顎に手を置きこちらに向かってくる次元の悪魔を凝視していた。
シェリーも視線をずらし、その次元の悪魔を結界越しに観察する。そろそろ、結界と接触する次元の悪魔をだ。
怠慢な動きをしながら、赤いドーム状になった結界に黒い巨体が触れた。普通であればその巨体は弾かれるはずだ。しかし、赤い膜を通り抜けた。と、その途端。青い紋様が赤色に変化をしたのだ。
「これは···どう解釈すればいいんだ?いや、そもそも次元の悪魔自体、存在する理由がわかっていない。あの色に意味があるというのか?ん?だが、完全体の悪魔は青だったな」
炎王はユーフィアが作り出した制御石の解除が組み込まれた結界により紋様の色が変化したことに首を傾げている。そして、最後に炎王はボソリと言葉を漏らした。完全体の悪魔は青色の紋様だったと。
その言葉にシェリーは再確認の為に炎王に尋ねる。
「炎王。完全体の悪魔の紋様は青で間違いはないのですか?」
「ああ、噂話と実際に駆逐した者はそうだったし、あの幻影で映し出された者もそうだったよな」
あの幻影。オリバーが経験した完全体の悪魔と戦った事柄を幻影にして再現した時の話だ。確かにあの時の幻影も、ユールクスが作り出した悪魔も青い色の紋様だった。
完全体の悪魔は青い紋様で間違いはないようだ。
「では、次元の悪魔は赤色で間違いはないですか?」
「ああ」
炎王は肯定の返事だけをして、結界内で動きを止めてしまった次元の悪魔を観察している。
「何だ?大我の意志って」
いや、炎王は何らかの方法で次元の悪魔に施されたモノを視ているようだ。大我とは普通ならば、我執を離れた自由自在の境地という意味になる。噛み砕けば自由奔放と捉えかねない言葉だが、その様な制御石ではないだろう。では、どういう意味が込められているのだろうか。
「もしかして、これが問題点であるのか?」
ユールクスが突然結界内で動きを止めた悪魔に視線を向けたまま、シェリーに聞いてきた。
「そうですね。恐らく帝国側で次元の悪魔に何かしらの魔道具を使用して、ギラン共和国に行くように指示を出していると推測されます」
「ほぅ。帝国は恐れ知らずであるな。異次元のモノを操ろうとは」
ユールクスは顔を歪めて、動きを止めた悪魔を見る。帝国の愚かさをあざわらっているのだろうか。
「ただ、恐らくこの状態から見るに魔道具の機能の一部は結界によって解除されていますが、完璧には解除されていないようですね」
「そうか。これはこれで使えるのではないのか?」
ユールクスはおかしなことを言い出した。制御石から命令というモノを解除され、動かなくなった悪魔を何に使うというのだろう。
「戦の気配がなくなり、強さを求める者が少なくなった今現在、次元の悪魔と戦える者達がこの国にいったいどれほどいるだろうか?」
ユールクスの言う戦の気配というのは30年前から約10年間続いた討伐戦のことだろうか。
いや、恐らく水龍アマツ達が戦ったエルフとの戦い。暴君レイアルティス王が己の番を手に入れる為にエルフの王に刃を向け、エルフ神聖王国を滅ぼし、虐げられていた者達を解放した戦いのことだろう。
未だに戦いの跡が各地に残っている程の戦いだ。この時に求められた強さは、中途半端なものではなかっただろう。
「ならば、これをそのまま案山子代わりに使えば良くないか?例えばこんな風に」
ユールクスが指をパチンと鳴らすと、7メル級の黒き巨体が、結界内から消え去り、少し離れた所に現れた。ただ突っ立っているだけの次元の悪魔が移動して現れたのだ。
「シェリー・カークス。魔眼をその鬼子に使ってやるといい」
ユールクスはニヤリと笑みを浮かべ、先程炎王が言っていたことをユールクスも口にしたのだ。シェリーに、リオンに対して魔眼を使うように言ったのだ。
己のツガイであるリオンに対して魔眼を使って次元の悪魔を倒すようにと。




