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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-3 冬期休暇-火種は既に落とされていた

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 ルークは彼らの話を信じられない思いで聞いていた。神が人の前に顕われるとは。


 剣聖ロビンが言っていた言葉がルークの中に蘇る。


『神々は努力をするものに慈悲を与えてくれる。気に入れば加護を与えてくれる。生半可なことでは駄目と言ったのはこういう事だよ』


 では、姉であるシェリーはどれほどの努力をしてきたのだろう。13年間共に過ごしていたが、裏庭で拳を振るっている姉がいることは知っていた。夜中に剣を振るっているもう一人の姉がいることも知っていた。時々2日ほど家を空けることもあることも知っていた。

 ルークが知るのはただそれだけだ。

 それ以外はルークに本を読んでくれたり、算学のわからないところを教えてくれたり(それ以外は無理と断られた)、家事をしていたり殆どを家で過ごしていた姉だ。


「あ、ルーちゃん。炎国に行っても直ぐに戻ってくるからね」


 ルークが姉に対し、本当に姉の一部分しか知らないことに困惑しているにも関わらず、シェリーはいつも通り炎国に行っても直ぐに戻るから安心するようにと言っている。

 そう、いつも通りだった。そうやって、いつもルークの前ではルークの姉として態度を崩さず、そうではないところでは、努力をしてきたのだろう。

 聖女というものは、そこまでの事をしなければならない存在なのだろうか。歴史上で大きな功績を残した聖女と言えば、聖女ビアンカぐらいだろうと。



 そして2日後の朝、屋敷の偶発的産物を駆逐し終わったあと、シェリーは転移をして炎国に向って行った。その同行にはカイルとリオンのみで、グレイとスーウェンとオルクスはシェリーを見送っていた。


「じゃ、俺たちは、青狼のところに行ってくる」


 そう言ってオルクスはグレイを伴って、第一層の方へ向って行く。それとは反対方向へ足を向けるのは、ルークとスーウェンだった。奇妙な組み合わせだった。いや、人の目を引く二人組だと言えばいいだろう。


 麗しの魔導師の二つ名を持つオリバーに似たルークと、教会以外では姿を見ないエルフ族、それも深い青色をまとった神秘的な美しさと言っていい容姿を持つスーウェンの二人連れだ。人の目を引き付けないなんてあり得ない。


 第2層内では、まだ良かった。この階層に住まう多くの者は貴族や豪商などであるため、朝早くから行動するものは少ない。いても高ランクの冒険者が住まいを構えるぐらいで、その者達はルークの姿を見なれているため、軽く挨拶をするぐらいだ。


 しかし、第3層に入ると多くの者達が仕事に向かうため、もしくは働いている者たちが、足を止め手を止め二人の姿に見入ってしまっている。だが、注目を集めている二人はその視線を気にすることもなく、他愛も無い話をしながら、次に来る列車をホームで待っているのだ。

 確かに西地区から南地区に行くには王都の第3層内を走行している魔道列車を利用するのが一番だ。しかし、しかしだ。朝の人が移動する時間帯と被ってしまっているのが、些か問題となっている。

 足を止める者、止めた者に何があるのかと同じく足を止める者。人々が視線を向ける先に何があるのかと、また人が足を止める。何だ何だと野次馬が集まってくる。教会前の列車を待つホームの周りには人だかりが出来ていた。


「何があるのかと思えばルーク君じゃないっすか」


 その人の海をかき分けて、問題の中心までたどり着いた者の言葉だ。その者は第6師団の軍服を着ており、鮮やかな緑の髪が印象的な一人の男性だった。見た目は人族だが、金色の瞳の瞳孔が縦に長いので、恐らく蛇人だろう。


「あ、グレットさん。おはようございます」


 ルークは知り合いなのか、第6師団の軍服を着た者に挨拶をした。


「今日はねーちゃんは一緒じゃないんっすか?」


 その人物は周りを警戒するように視線を巡らす。その姉を警戒してる口ぶりだ。いや、シェリーの事を警戒していた。

 シェリーの異常な力の一端を目の前にしたことのあるこの人物は、シェリーの存在を危険視していた。何かあれば、己では対処不可能なため、副師団長か師団長を呼びに行こうかと思案までしていた先にルークからその返事が返ってきた。


「姉は炎国に行くと言っていましたから、ここにはいません」


 ルークは苦笑いを浮かべながら、答えた。その言葉にグレットはホッとため息をつき、見慣れない二人組に視線を向ける。


「それで、お二人でどこまで行くんっすか?」


「なんだか、尋問をされているようですね。それを、なぜ貴方に答えなければならないのですか?」


 スーウェンがグレットの言葉に不快感を顕わにした。何かと己の番に対して敵視してくる第6師団のクストと同じ軍服を見て苛立ったと言っていい。


「いや、そうじゃないっすよ!」


 グレットは慌てて否定をする。エルフ族はプライドが高く怒らすと厄介のため、穏便に事を収めようと思案するも、そういう交渉事は副師団長のルジオーネに任せていたと思い、己にはありのまま言葉にするしかないと、項垂れるのだった。


「お二人が視線を集めて、人が集めてしまっているっすから、目的地まで護衛しようかと思ったっす。これでも自分は第6師団の軍人っすから···」


「え?ただ人に会いに行くだけだから、グレットさんの手を煩わすほどじゃないです」


「必要ありません」


 グレットの気遣いも美少女(?)のルークと美人エルフのスーウェンから否定の言葉を言われ、更に項垂れるのだった。



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