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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気

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「おつかれー」


 シェリーとカイルは両手を大きく振っているナーガの女性に迎え入れられた。

 ここは黄金に輝く王宮の中の玉座の間と言っていい場所だった。


 玉座の下段。赤い絨毯が敷かれたその場所にスイが両手を振っているのだった。


「ルーちゃんは?」


 シェリーの第一声がこれだった。

 悪魔を倒したあとはミイラの兵は一切出てこず、ただ、王宮の最奥地点を目指していたシェリーとカイルだった。

 スイが屍の王をぶっ飛ばして戻ってくればいいと言っていたことから、屍の王とやらを倒すことが、このフィールドを出る条件だと考えたからだ。


「弟くんは今は妖精たちとお昼寝中だよー。あたし特性ハンモックを気にってくれたみたいだよー」


 どうやら、ルークはスイが作ったハンモックで休んでいるようだ。流石に徹夜は堪えたのだろう。

 その言葉にシェリーはほっと息を吐いた。


「それで、(すい)さんがなぜここにいるのです?」


 そう、スイはここで屍の王をぶっ飛ばせと言った張本人なのだ。


「あたしはお出迎え役なのよー」


 そう言ってスイは上段の玉座に視線を向けた。先程までは空の玉座だった。しかし、今はそこに鎮座しているものがいる。


 骸骨が玉座に座り、分厚い豪華なマントを羽織、骨だけの頭に王冠を被っている。

 屍の王と言えばそうなのかもしれないが、その姿を見たシェリーは腰を折り頭を下げた。


「モルテ様。お久し振りです。モルテ王の件、ご助力ありがとうございました」


 そう、死の神モルテが玉座に鎮座していたのだ。


「それで、モルテ様をぶっ飛ばせばいいのでしょうか?」


 シェリーは何処までいってもシェリーだった。


「違う!違うよー!あれは冗談だって!!」


 スイが慌てて、シェリーとモルテ神の前に飛び出る。流石に神を本気でぶっ飛ばせとは言ってないと。しかし、シェリーは神だろうが、なんだろうが、拳を振るうべきならと、刀を持っていない左手を握り込む。


『カッカッカッカッ』


 モルテ神は骨を鳴らしながら笑った。


『久しいな』


 モルテ神は瞳のない空洞の目をシェリーに向ける。そのシェリーはいつもどおり無表情な顔をモルテ神に向けている。


『礼を言わなければならないのは、こちらの方だ。我とオクスリダーが慈悲を掛けた者たちが、苦しみから解放するきっかけを作ってくれた事に感謝をする』


 神である者がただの人であるシェリーに感謝の言葉を口にしたのだ。これは異例のことだ。


『それで、君に礼をしたいと思ってな。余興を用意して待っておったのだ。蛇の者の力も中々であっただろう?』


 流石、死を司るモルテ神だ。恐らく悪魔の核を用意したのはモルテ神だったのだろう。それをダンジョンマスターであるユールクスの創造という力で本物の悪魔を再現したというところか。


『何か吾にできることで、望みを叶えてやろう』


 モルテ神はどのような事でも望みを叶えるとは言わなかった。神にはそれぞれ己の領分がある。それを侵すことはできない。モルテ神ができることは、死に関することのみ。

 どんな願いも叶えることができる存在は、ただ一柱のみだろう。


『例えば、ステルラの祝福の効果を抑えてやることもできる。困っておるのだろう?』


 神が神の祝福の効果を抑える?これは神同士の領分をいうものを侵しているのではないのだろうか。


「それは本当にできるのですか?」


 シェリーは神であるモルテ神に疑いの目を向ける。


『カッカッカッカッ。吾には出来ぬが、ステルラの上位であるオスクリダーなら可能だ』


 星の女神であるステルラより、闇の神オスクリダーの方が階級が上だから、ステルラの領分を侵せると。


「では、それでお願いします」


 シェリーが了承の言葉を口にした瞬間、玉座の間が暗転した。元々薄暗かった室内だが、何も目に映すことが出来ないほどの暗闇に包まれたのだ。


『ステルラの願いはそのままに光をもらい受ける』


 モルテ神とは別の声がシェリーの耳に届いた。そして、闇が晴れる。その場に立っているシェリーは外見上なにも変わりはしなかった。


 カツカツと王笏を付きながら、モルテ神は玉座を降りて、赤い絨毯の上を進んでくる。骸骨が一人で歩いている姿などホラーでしかないが、その者は死を司る神であり、孤独な王なのだ。死は誰にでも平等に与えられる死の神からの祝福だ。


 その死の王がシェリーの目の前に立った。


 そして、足元で唸り声を上げている者に声を掛ける。


『カッカッカッカッ。暫し待つが良い。吾はあの御方ではないぞ』


 モルテ神に跪きながら睨みつけ、唸り声を上げているカイルに声を掛けたのだった。そう、カイルはモルテ神が顕れてからずっとその場に跪いていたのだ。


『吾からは、そうだな。これを渡しておこうか』


 そう言って、モルテ神は豪華なマントの内側から小さな小瓶を差し出してきた。


『使う、使わないは君に任せることにしよう。これは吾の祝福を否定するものだ。好きにすると良い』


 モルテ神の祝福の否定。それは死を否定することと同意義である。すなわちこれは不老不死の妙薬であるということだ。


「いりません」


 シェリーはきっぱりと否定する。しかし、モルテ神はカッカッカッカッと笑いながら、小瓶をシェリーに押し付け、消えていった。


 押し付けがましいにも程がある。


 シェリーはその小瓶をそのままスイの手に握らせた。


「え?シェリーちゃん?」


「神へと至るユールクスさんにどうぞ」


 そう、死がないということは即ち世界の理から外れた者を指し示す。これは正に神という存在に当てはまると言ってよかった。



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