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「ルーちゃん。ここのダンジョンマスターの拘りで、攻略する者のレベルによって、ダンジョン内が変化するの」
攻略者によってダンジョン内が変化するとは、どういうことだろうか。
「カイルさんもそれが分かっていたから、階層から階層までの移動しか先頭に立って進んでいなかったでしょ?ルーちゃんが攻略者としていたときは、スケルトンしか出てきていなかったけれど、私が刀を持った瞬間に出現する魔物が変化したでしょ?
7階層に降りる階段も暗闇でわかりにくかったかもしれないけれど、通路の横にあったのよ?普通は隠されたような場所じゃないの」
どうやら、ルークが攻略しようとしていた6階層は初心者仕様になっていたようだ。それが分かっていたシェリーとカイルは、敢えてル言葉巧みにルークを先頭に立たせて進ませたのだった。
「そうだよー。シェリーちゃんの言うとおりだよー。シェリーちゃんと竜人くんが攻略者になると、君は付いて行けなくて、置いてけぼりにされちゃうだろうねー」
「ついて行くだけなら、行けると思うけど?」
シェリーとスイの言葉にルークは不服そうに反論する。強い人がいるのは理解しているし、Sランクのカイルや姉であるシェリーよりも実力がないのも理解していた。しかし、後を追うぐらいできると口にする。
ルークは自分の持っている力に自信を持っていた。それは学生にしてみれば過剰な力を身につけていた所為でもある。剣術にしても魔術にしても、学生としては逸脱していた。ルークの剣の相手ができるのは教師ぐらいだった。
だから、ルーク自身は自分の力に対して、一般的に通用すると思っていた。ダンジョンに行きたいと口にしたのも自分の力を試したいがための言動だったのだ。
しかし、いざダンジョンに入ってみると、冒険者たちから聞いていたものとは、かなり違っていた。
聞いた話では、森自体がダンジョンであったり、洞窟がダンジョンだったり、はたまた要塞がダンジョンであったりと、面白おかしく話をしてくれたのだ。
まさか、息が苦しい程の暑さが襲いかかり、自分の身の丈の何倍もありそうな魔物がいたり、洞窟のような地下に入ると鼻が歪んでしまうかと思うほどのニオイが充満しており、周りは薄暗く先が見通せない。そんな中で戦うとは思ってもみないことだった。
だから、普段なら2刻如きではへばることはなかったにも関わらず、息切れを起こし地面に膝をついてしまったのだ。
だが、後を追うぐらいならできるとルークは思った。例え、自分よりも高レベルな人たちだろうと、自分の足ならついていけると。
シェリーはルークの言葉に困った表情をしたままだ。ルークのレベルは30だ。冒険者のランクで言えばCランクに成れるだろうかというぐらいのレベルであった。確かに一人前の冒険者と言うことはできるだろう。しかし、経験が圧倒的に足りない。
レベル30というのも、ルークの剣の師であるライターが騎士養成学園に入学に際し、レベル20は最低必要だからとレベル30まで鍛えあげたに過ぎないのだった。
突然、『あっ』とスイが声を上げた。スイは不満気なルークに提案をする。
「じゃ、ここはシェリーちゃんが結界を張っているから、魔物は入ってこれないからねー。君はここで見ていて、シェリーちゃんと竜人くんがダンジョンのフィールドに出るとどうなるか見学してみるといいよー」
魔物の外見をしているスイに、入れないはずの結界内に侵入され、勝手なことを提案されたシェリーは不機嫌な視線をスイに向ける。
「何を言っているのですか?翠さん」
「ダイジョーブ。アマツ様作『水晶球』があるから、王宮まで行って屍の王をぶっ倒して戻ってくればいいよー」
そう言いながら、地面から一抱え程ある丸い透明なボール状の物が出てきた。これは以前祭りの広場で見かけた映像を映し出すもののようだ。
ここにも天津の遺産が残っていたようだ。
これにより遠くの映像もここに映し出されるのだろう。これはユールクスの指示なのだろうか。スイの個人判断で天津の遺産が自由に使えるとは思えない。
「マスター様が屍の王を倒したらいいものがあるよーと言っているよー」
これは確定だ。ユールクスがドロップアイテムにそれなりの物を出すから、行って来いとシェリーをこの場から追い出そうとしているようだ。
「ユールクスさん。勝手に話を進めないでもらえますか?っ!」
シェリーはここには居ないユールクスに文句を言うその場から、足元が光っていることに気がついた。
「いってらっしゃ~い」
スイはいきなり地面が光りだした事に驚いているルークの横で、にこやかに手を振ってシェリーを送り出している。
「ユールクスさん!や····」
シェリーが文句を言っている途中でその姿はカイルと共にその場から消えてしまった。
「姉さん!」
「大丈夫だよー」
いきなり姿が消えてしまったシェリーを探すように辺りを見渡すルークに、スイは気楽な感じで安心するように言うが、その周りの創られたばかりの人魚や妖精たちはクスクスと笑っている。
「うんうん。あたしも覚えがあるからわかるよー。マスター様に認めてもらいたくて頑張ってねー。死んだ事があるんだー」
いきなりスイは大丈夫ではない話をしだした。死んだ事がある。では、目の前のスイは何だというのだろう。
「あたしたちはマスター様に創られたモノだからねー。死んでも生き返るけど、君たち人はそうじゃないよねー。アマツ様にすっごく怒られたの。命は一つしかないと普通は生き返らないと、だから大事にしなさいってね。時には進むより引くことも大事なんだって、4刻ぐらいネチネチと言われたんだよー」
これはスイの愚痴だったのだろうか。最後の一言でいい話が台無しになってしまった。




