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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気

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 シェリーが先頭で進みだして4半刻(30分)後、登る階段と下に降りる階段があるところにたどり着いた。

 その階段は広い通路から人ひとり分しか隙間が開いていな通路の奥にあったのだ。これは中々見つけられないだろう。

 それも、この上の5階層から降りてくることがあれば、6階層を素通りできてしまう作りだった。


「え?こんなところに階段があったんだ」


 ルークはそれは見つからないと不満な表情をするが、その言葉にカイルはクスリと笑う。


「ルーク。ここに来るまでに25箇所ぐらい階段を素通りしている」


「え?」


 それは驚きもするだろう。2刻(4時間)歩きまわって一つも見つけられなかったのだ。


「ルークの視野は狭すぎる。今まで一対一でしか相手をしてこなかったからだろうが、こういうダンジョンでは、全視野を注視しなければならない。特に一人でいる場合は背後から襲われることもあるからな」


 カイルからそう指摘されて、確かに今までの訓練で剣を向ける相手は正面しかいなかったと思い至った。


「どうすれば、いいのですか?」


 そう言われて、カイルは苦笑いを浮かべる。竜人族と人族とでは種族が全く違うのだ。己が行っていることをルークができるかと問われればできないだろう。


「俺は人族ではないからな。シェリーはどうしているのかな?」


 カイルは人族であるシェリーに聞いてみる。シェリーはというと、刀を鞘に収め、鞄にしまっていた。


「私はスキルを使っているので、参考にはならないです」


 シェリーもルークに教えることは無理だと言っている。逸脱した力を持つ者は普通というものはわからないものなのだ。


「ルーちゃん。それは経験で身につけるものじゃないかな?気配だったり空気の流れだったり、その場で感じないとわからないことはあると思うの」


 シェリーは自力で身につけろと言っているのだ。確かにその場に立たないとわからないこともあるだろうが、それを指導する者は普通は必要だろう。ここはルークに剣を教えたライターに教えを請えばいいと言うべきだったのではないのだろうか。


 シェリーはそう言って、階段を登りだす。この6階層に降りてきた階段と同じような石造りの階段だった。




 階段を登ってたどり着いた場所は、大きな泉の畔だった。その泉の周りには木々が立ち並び強い日差しを遮っている。しかし、その強い日差しも大分傾いているかのように、地面には木々の長い影を作っていた。そして木々の先には広大な砂漠が広がっていた。


 今日の一日が終わろうとしていた。ダンジョンの中でも一日を感じることができるとは、ユールクスのこだわりが見て取れる。


「これがオアシス?」


 ルークは物語でしか読んだことのないオアシスを見て目を輝かせていた。水辺で影の中にいるからか、5階層に降り立った時と違い、さほど暑さを感じないと、ルークは辺りを見渡していた。


「そうね。あそこにある転移の陣で4階層に行けるのよ」


 シェリーは泉の木陰の中にある円形に光るものを指して言った。

 そこには、白く光る円がただあるだけだった。


「ねぇ、姉さん。ここで野宿ってできる?」


 しかし、ルークはシェリーに野宿はできるのかと聞いた。それも目をキラキラさせて。


「アルバンの冒険物語にあるオアシスで一晩過ごすと妖精に会えるっていう話」


「ルーちゃん。それは物語の話よ。ここはダンジョンだから、妖精はいないわよ。ユールクスさん、いらないことをしないで下さいね」


 最後のシェリーの言葉はボソリとユールクスに向けて言った。ユールクスなら簡単に妖精もどきを作り出しそうだと、シェリーは牽制したのだった。


「それにお姉ちゃん。野宿の用意はしていないの」


 そう、シェリーはテントは持っているが、テントの中はワンルームマンションの仕様のオリバーに作ってもらった、拡張機能付きテントなのだ。


「それに野宿ってゆっくり休めないのよ?」


 ルークに諦めてもらおうとシェリーは言葉にするが、そのルークの顔が段々と落ち込んでいく姿を見て、シェリーの方が折れてしまった。

 ルークの笑顔がシェリーにとっては一番なのだから。


「わかったよ。ルーちゃん。ここで野宿しましょう」


 その言葉にルークは笑顔になる。




 火を囲み食事を取っている姿をルークは想像していたが、シェリーは鞄から地面に敷く厚手の絨毯を出し、その上にテーブルと椅子。それから魔道ランプ。簡易コンロと次々と便利なものを出してきている。どこにそんな物を入れていたのかと言わんばかりの物の量だ。


 なんだか、野外に一部屋が作り出されてしまっている。ルークとしては、物語で読んだように何もなく星空の下で過ごすというイメージだったのだ。


 そして、簡易コンロでいつものように料理をしているシェリー。食材もカバンから、これでもかというぐらい出してきていた。


 作られた食事もシェリーが作るいつもと変わらない食事。ルークからは何かが違う感が醸し出されている。


「ダンジョンの中でもシェリーの食事が食べられるなんて幸せだね」


 カイルはご機嫌でシェリーの食事を口にしている。その言葉の意味はルークに理解されないままだった。

 旅の野宿ではこのような食事は取れないことをルークは知りもしないのだから。



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