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ルークが6階層を進みだして2刻が経とうとしていた。そのルークはというと、項垂れていた。
いや、最初の頃はよかったのだ。ただの人骨の姿をしたスケルトンが1体から3体が間隔を開けて現れてきただけで、その骨の魔物を叩き潰せばいいだけだった。
そのうち隊列を組み、様々な武器を持ち出し、魔術を使うモノも現れ出したのだ。しかし、スケルトンだといえばスケルトンだ。他の魔物と共闘しているわけではない。
そして、シェリー曰く所々に下の階層に降りる階段があると言ってたのに、全くもって見当たらないのだ。
ルークは6階層内で迷って力尽きていた。ついでに心も折れかけている。ここのダンジョンはBランク以上ではないと潜る許可が出ないとは、それ以下だと実力が伴わないからだと、ヒシヒシと身にしみたのだ。
「ルーちゃん大丈夫?だから途中で休憩をすればと言ったのだけど?」
そう、シェリーは1刻が経とうとしたぐらいでルークに少し休むように勧めたのだ。しかし、ルークは大丈夫だと言って、そのまま進んでしまったのだった。
「ちょ···っと、···厳··しい··か··な····」
大丈夫ではなさそうだ。
「じゃ、今日は上の階層で休む?」
大丈夫ではなさそうなルークを見てシェリーは今日は切り上げで休むことを勧めていた。すると、肩で息をしているルークは不思議そうな表情をシェリーに向ける。
「上の階層?」
「そう、この真上の4階層だと、あまり違和感なく過ごせるところだったと思うから、このまま上の階層に行こうね」
シェリーはルークに一つの小瓶を手渡す。オリバー特性回復薬だ。クソまずい回復薬だ。
ルークは嫌そうに受け取る。初めて飲んだときは、あまりにも喉をつっかえる不味さに吐き出してしまったほどだった。
「少し休めば大丈夫になるよ」
ルークはなんとか飲むことを拒否できないかとシェリーに言ってみたが、シェリーは首を横に振りルークに飲むように促す。
「ルーちゃん。上に行くときはお姉ちゃんが先頭に立って行くから、ルーちゃんは自分の足でついてきてもらわないと駄目なの」
シェリーは当たり前のことを言った。だから、ルークは自分の足で立ち上がる時間が欲しいと言ったのだ。その意図をシェリーがわからないはずはない。
「ルーちゃん。飲まないと死ぬよ」
恐ろしい脅し文句だ。たかが、スケルトンしか出てこない6階層から5階層を経て4階層に行くだけにも関わらず、体力を回復しないと死ぬと言い切ったのだ。
その言葉を聞いてルークは渋々、小瓶の封を切り、一気に飲み干し、すぐさま水で流し込んだ。
「ゔっ····」
ルークのうめき声が聞こえる。その姿にカイルは可哀想な子を見る目で見つめている。そう、カイルは後味の良くなる物を持っていたはずだ。しかし、中和剤と言われるものの中身は果実酒なのだ。カイルはルークに渡そうとはしていたが、中身がお酒のため、シェリーからの無言の圧力で出していた手を引っ込めたのだった。
薬の不味さに美少女といっていい顔をルークは歪めてはいるが、しっかりとした足取りで立ち上がった。
それを見届けたシェリーはルークに剣をしまうようにいい。足を動かくことにだけ専念するように言って、シェリーは黒刀を取り出し、鞘から抜いた。その刃は黒く『ギギギギィ』と鳴いている。
そして、ダンジョンの奥へと足を進めた。と、同時に刀を振るう。その刃には骨と肉がむき出しになった狼のような魔物が突き刺さっていた。
今まで、スケルトンしかいなかった6階層にゾンビの魔物が出現したのだ。
「え?」
ルークは驚きのあまり、足が止まってしまう。
「ルーちゃん足を動かして」
その間にも、次々に魔物が襲って来ているが、シェリーは黒刀で次々に斬り伏せて、足を進めていく。
薄暗く通路の狭い空間では遠くまで見通せることはないが、シェリーは次にどこから魔物が襲ってくるか、わかっているかのように刀を振るう。
それは、マップ機能を起動しているため、敵がどこから来て、道がどのようになっているか、シェリーにとってはまるわかりなだけだ。
息をつく暇を与えられることなく、襲ってくる魔物に動じることなく進んでいくシェリーを見て、以前言われた言葉がルークの中に降ってきた。
『お前の姉はお前が思っている以上に強い』
と、青狼獣人の第6師団長に言われた言葉を思い出していたのだった。




