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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-2 冬期休暇-旅行先の不穏な空気

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 扉の先の階段を降りきると綺麗に舗装された地面に降り立った。目の前には広場のような空間の奥に天を貫くような建物がある。

 ルークは唖然と見上げている。天を貫く様な建物の奥には雲ひとつない青い空が見えるのだ。


「何?ここ?」


 周りを見渡しても何一つ見覚えのある物は存在しない。出てきたところを振り返るとそこだけが異質であるかのような赤レンガの建物が存在している。


 だが、ここは以前出てきたギルドの入り口とは違うところだった。


「ルーちゃん。こっち」


 シェリーはここには興味がないと言わんばかりに、ルークの手を引っ張って別の入り口に入って行こうとした。しかし、ルークはシェリーの手を引き止める。


「姉さん。ここは?」


 ルークは再度シェリーに聞いた。最もな疑問だ。地下を降りていったはずなのに、見上げると青い空があり、ミレーテの街並み以上に変わった建物が建っているのだから。手を引き止められたシェリーは凄く嫌そうな顔をルークに向け、とても低いで答える。


「虚無の街よ」


 ルークの手を引いて歩くように促すシェリー。駅の構内の5番線までシェリーは無言で歩みを進めていく。5番線のホームには既に6両編成の列車が停まっていた。

 シェリーは慣れたようにカツカツと開け放たれている扉から乗り込んでいく。

 ルークもシェリーに引っ張られ列車に乗ったがオロオロと、シェリーとカイルを伺い見ている。


 ただ、ここが本当にダンジョンなのかと聞きたかっただけなのだが、何故かそれがシェリーの機嫌を損ねる言葉だったのか、ルークは困惑していた。


 シェリーは列車に乗ると席には座らず、両開きの扉の前に立つ。


「ルーちゃんは好きなところに座って。5階層には4半刻(30分)ほどかかるから、その間に外套を羽織って耐熱魔術を施しているといいよ」


 シェリーは扉の前のまま動かないようだ。ルークはシェリーの側に立っているカイルを見るも、横に首を振るだけだ。


 ルークは王都メイルーンに走っている列車と殆ど変わらない車内を見渡す。不思議な気分だった。離れた国でも同じ様なモノがあるだなんて。


『5番線の列車はまもなく発車します』


 アナウンスが流れたあと、少し待つと列車が動き出した。こんなところも同じだ。


 そして、更に地下に向かって列車は出発した。





 列車は3つの階層を通過したが、止まることなく、5階層までたどり着いた。そこはただ、ホームがあるだけで、駅舎もなく人気もなく、広い砂漠が広がっているだけだった。

 そして、ジリジリと太陽が照りつけているかのような強い日差しが降り注ぎ、ここが本当にダンジョンかと疑ってしまうほど、砂漠の世界だった。


「ルーちゃん。好きなところに行ってくれていいのよ。ここのダンジョンは国と同じ広さがあるから、行き放題よ」


 ダンジョンの説明とは不適切な言葉の羅列がシェリーから出てきた。行き放題とはダンジョンに使う言葉ではけしてない。


 シェリーの機嫌はルークにとっていつもと変わらない感じに戻っていたので、ルークはホッと胸を撫で下ろす。


「えっと···。姉さん。普通はどう行くのかな?」


 普通。それはダンジョンを攻略するには、ということだろう。

 今現在、列車から降りてホームから移動はしていない。ただ、ルークは外套を深く被っているが暑さからか額に汗を滲ませている。耐熱の魔術を掛けておくようにとシェリーが言っていたので、施しているはずだが。


「普通は直ぐそこに見える崩れた砦から6階層に行くの。だけど、砂漠を堪能したければ、そのまま5階層を楽しめばいいと思うの」


 シェリーが指す先には砦というより、砂が盛り上がっており、砂の隙間から人が入れそうな岩の割れ目が見えるものが、広い砂漠の中にぽつんと在るようにしか見えない。


 シェリーは楽しめばいいと言うが、息を吸うのも熱い空気が入ってきて苦しいぐらいだ。楽しむどころじゃない。

 ルークは額から流れ落ちる汗を拭って、シェリーの様子を伺うが、フードの下は涼しい顔をしている。カイルも外套をまとっているが汗一つかいていない。


「6階層に降りる」


 シェリー曰く崩れた砦の向こう側に巨大なミミズの様な物体が数十体、砂の中を泳ぐようにして移動しているのをルークは見てしまい、6階層に降りるのを決断したのだった。

 あの見たことも聞いたこともない巨大な魔物を相手にするのは流石に無理だと。


 一般的にはワームと言われる魔物だが、シーラン王国の近くに砂漠がないのでルークの耳には入ることがなかったのだろう。


 ルークの言葉を聞いたシェリーは、ルークを手招きして崩れた砦に向っていく。


「6階層はありきたりな地下迷路だから、ルーちゃんの好きなように進めばいいよ。お姉ちゃんは後ろから付いて行くからね」


 またしてもシェリーから同じ様な言葉が出てきた。ダンジョン初心者であるルークにとってみれば、どちらかというと姉であるシェリーの後ろについて行って、ダンジョンというものはこういう物だと知りたいのだ。


「姉さん。僕、ダンジョンは初めてなんだけど?」


「大丈夫よルーちゃん!お姉ちゃんがサポートするから」


 シェリーはキラキラした目でルークを見て言う。


「····姉さん。僕はダンジョンを知らないから、勝手な行動はしない方がいいと思うんだけど?」


 あのオリバーの子とは思えないほど、ルークの方がシェリーより常識人だった。子供は親を見て育つとはいうものの、非常識な親を持つと、子供はその分周りを見て育つのかもしれない。


 しかし、そんなルークにシェリーは不思議そうな顔をして話す。


「ルーちゃん。初めてダンジョンに入って何も知らないのは当たり前のこと。それにここのダンジョンは堅苦しいルールなんて無いから、行きたいように行けばいいだけなのよ?」


 この『王の嘆き』は『愚者の常闇』と違って、攻略方法の指定はされていない。既に最終層の50階層は攻略されているので、未攻略層があるわけではない。ただ、ダンジョン自体が広大なので、誰も行き着いていない場所はあるかもしれない。

 だから、広すぎるダンジョンをどう攻略するかは、個人の采配で決まってくるのだった。



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