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翌々日、色々準備をして、シェリーはルークを連れてギラン共和国の首都ミレーテの冒険者ギルドに来ていた。ギルドの転移の間から出て、そのままルークを連れて高ランク者しか立ち入れない2階へと上がっていった。もちろん、その後ろにはシェリーの5人のツガイたちが付いてきている。
ルークはよく姉について出入りしていた王都メイルーンの冒険者ギルドとは違う雰囲気に周りをキョロキョロ見渡していた。
「ダンジョンに入りたいのですが、ギルドマスターいますか?」
シェリーは2階の受け付けの女性に声をかけた。
「マスターですか?少々お待ち下さい。あと、ダンジョンに潜る日程はどれほど予定されていますか?」
「一週間ほどで」
受け付けの女性の言葉に答えたのはシェリーの後ろにいたカイルだった。その言葉を聞いて受け付けの女性は席を外し、一つの扉に入っていった。
シェリーはギルドマスターが部屋から出てくるのを待つのに2階の休憩スペースであるソファの一つにルークを連れていき、座るように促す。
ルークは他国にも関わらずギルドマスターを呼び出す姉を見て、これもまたカイルの言っていたとおり、姉の人脈の広さの一端を思い知った。そのシェリーはというと、深くフードを被っており、表情を伺い見ることができない。
「ラースの。最近よく顔を出すな」
そう言ってシェリーに声をかけたのは、ニヤニヤと笑みを浮かべた長身の男だ。その姿は白い髪から丸みを帯びた耳がでておりに黄色の目をフードを被っているシェリーに向けている豹獣人だった。
「今日は普通にダンジョンに潜る為にきたのです。弟も潜る許可をもらいたいのですが?」
ギルドマスターのリュエルはシェリーの隣にいる少年に視線を向けた。そして、ルークを見定めように目を細める。
「これは、これは、麗しの魔導師殿にそっくりだな。それで、ランクは何になる?」
「冒険者ギルドには所属していません」
「はぁ、ラースの。何度も言っていることだが、ダンジョンに潜る許可が出せるのはBランク以上だ」
「オルクスさんはCランクですが?」
以前ダンジョンの掃除に向かわせた4人は未だにCランクなので、本来なら潜ることができないランクである。本来なら、Sランクの実力はあるが、冒険者としての依頼をこなせていないため、未だにCランクであるだけなのだが。
「ラースの。オルクスの実力はよく知っている。リオン殿下の実力もだ。だから、ダンジョンに入る許可は出せるのだ」
「では、ユールクスさん。ダンジョンに入る許可をください。お礼はとある国の古都の風景でいかがでしょう」
シェリーははじめからそのつもりであったように、何処ともなく声を掛けた。
『ラース。それも興味深いが、一つ頼み事を聞いてくれるのなら構わぬ』
何処からともなく低い男性の声が聞こえてきた。そして、リュエルの後ろから緑の髪に金の目をした人が現れ···いや、裾の長い衣服を身に纏っているが、その下から見えるのは二本の足ではなく、蛇のような胴と尾があるナーガが現れたのだった。
「なんですか?また掃除ですか?」
姉であるシェリーは普通に話してはいるが、ルークは新たに現れた存在に警戒感を顕わにした。人でも獣人でもない見たこともない存在に。
「なに。悪魔退治に行って欲しいのだ。倒すの構わないのだが、如何せん核の始末が面倒だ。燃やし切るのに5日もかかるのだ。それも『陰火の業』を消費しているから、少々割に合わん」
ユールクスは肩をすくめながら言う。ユールクスの言葉にシェリーは深く被ったフードの下でユールクスに驚きの視線を向ける。そのユールクスの前にいたリュエルもユールクスが現れた時に一歩横にズレ、頭を下げて敬意を払っていたが、思わず頭を上げ、ユールクスに信じられないという表情を向けていた。
「どういうことですか?先日も悪魔が出たと言われましたが、別の個体ですか?」
そう、ユールクスは『アルテリカの火』をシェリーが持ち去った時にもそのような話をしていたのだ。
「別であるな。どうも帝国の方がキナ臭いようだ。個人的には北の国境を封鎖したい気分だ。いつだったか、一度精霊が物理的封鎖していたことがあったが、同じことをして欲しいぐらいだ」
ギラン共和国とマルス帝国の間には高い山脈が連なっており、それが国境となっているのだが、一番北の海側の一部だけ平地となり、山越えをせずに行き来できる唯一のルートなのだ。
ただ、ここで問題になってくるのが、ギラン共和国の物流だ。はっきり言ってその北側の平地である国境がギラン共和国の大動脈と言っていい。なぜなら、東側は高い山脈が連なっているが、その間にほぼ鎖国状態と言って良いシャーレン精霊王国が存在し、南側は狂王モルテ王が治めるモルテ国があるのだ。そして、西側は海があり、今現在帝国の船から攻撃を受けるため、頻繁には船を出せない状態だ。
そこで、北の国境を封鎖しようものなら、正に陸の孤島となってしまう。
「ユールクスさん。それなら「シェリー」···」
シェリーの言葉をカイルが遮った。そのカイルに一体何だという視線を向ける。
「今回はお役目はお休み。休暇に来たのだから仕事はお休み」
カイルは真面目にユールクスの言葉に答えようとしたシェリーに、今回は答える必要はないと、首を横に振ったのだった。
ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
次回、カイルの無茶振り
(まだ、チェックが終わってないですが···)




