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夕方やっと陽子のダンジョンから出ることが出来たシェリーは·····いや、ダンジョンの中央部からダンジョン内の自宅に戻ることができたシェリーはルークの前で恋する乙女が如く、両手を胸の前で忙しなく動かしながら、ルークの様子を伺うようにチラチラと視線を動かし、言葉を探している。
「あ、あのね。ルーちゃん」
その姿をシェリーの5人のツガイたちが見ている。そう、5人。涙をポロポロ流していたシェリーと離れたくないと4人が言ったのもあるが、陽子が彼らに修行をつけるのを一時中断したいと言いだしたのだ。
『ちょっとダンジョンを改装するから、時間をちょうだい』
と、今のままでは力のゴリ押しをされて、結局無意味だと陽子は悟ったようだ。そのために、ダンジョンの改装を決めたのだろう。
だから、この場にカイル以外のグレイ、スーウェン、オルクス、リオンの姿があるのだ。
カイルはいつもどおりニコニコとしている。だが、グレイはシェリーの姿にかわいいと萌えていた。スーウェンはシェリーの姿をみて固まっている。オルクスはもじもじしているシェリーのところに行こうとして、カイルに首根っこを掴まれその場から動けないようになっている。リオンは初めて見る存在を睨みつけていた。
そんな5人がシェリーの背後にいる状態なので、ルーク自身も戸惑っている。
「ルーちゃん。ごめんなさい。お姉ちゃんが悪かったの。ルーちゃんには何も縛られることなく幸せになって欲しいって思っていたから、幸せの邪魔になりそうなことは教えていなかったの」
シェリーとルークの父親が違うこと。
他に兄弟がいること。
それはシェリーとルークとが姉弟であることには変わりはないのでルークに余分な情報を与えてないという判断をした事を謝ったのだ。
「姉さん謝らないで、今回の事で僕も色々考えることができたから」
そう言ってルークはカイルに視線を向ける。
「カイルさん。僕なりに考えてみたのですが、僕はこれで良かったと結論付けました。それに目標もできましたから」
「そうか」
ルークの言葉にカイルは一言だけ答える。その手にはオルクスの首根っこを掴んだままだが。
「姉さん。僕、思い出したんだ」
ルークは自分の機嫌を伺うように不安そうにしている姉であるシェリーに再び視線を向けた。
「強くなりたかった理由。僕が奴隷商人に捕まったとき、姉さんが助けに来てくれて、凄く凄く嬉しかったんだ。だから姉さんのように成りたいって」
ルーク自身が力を求めた理由をシェリーは初めて聞いた。ルークはあのオリバーの所為か、母親が居ない所為か、聞き分けの良い子供だった。
ルークが5歳の時に起きた事件の後、オリバーに教えを請いていたのは知っていた。勉強も率先してやるようになった。勉強はシェリーが教えると色々問題が出てくるので、冒険者ギルドで知り合った一番マトモそうなニールに相談したが、ルーク自身から力を手に入れようとしたきっかけを聞くことは今回が初めてだったのだ。
「だから、休みの間ライターさんのところに通おうと思うんだ」
「え?」
ルークの言葉に感動していたシェリーの思考が停止する。
「やっぱり、魔導術だけじゃだめなんだ。剣も使えないと、それはやっぱりライターさんじゃないと教えてもらえないと思うんだ」
シェリーが固まっているがルークは気にせずにそのまま話を続ける。
「シェリー姉さんが一度だけ銀髪の人と戦っているのを隠れて見ていたことがあるんだ」
その言葉にシェリーはハッとなる。佐々木が真夜中に行っていた訓練のことだ。銀髪として一番にシェリーの頭の中に浮かんだのは暴君レイアルティス王だ。
「すごかった。とってもすごかった。剣と魔導術が。僕には殆ど分からなかったけど、父さんが横で今どういう術を使って、どうシェリー姉さんが応戦したかと教えてもらっんだ」
オリバー!!
オリバーはシェリーの···いや、佐々木の訓練をルークに見せて、魔導師の戦い方というものを教えたようだ。しかし、オリバーがルークにそのような戦い方を教えたかといえば、教えてはいない。ある時から、オリバーはルークに魔導術を教えるのを止め、後は自分で魔導術を極めろという感じだった。魔導術に関して天才的なオリバーならまだしも、その才能を全て引き継だわけではないルークでは無理な話だった。
「ライターさんならその銀髪の人みたいに剣と魔導術を使って戦うことができるから、僕はまだまだ教えてもらうことがあると思うんだ」
だから、ルークは教えを請えば、教えてもらえるライターを頼ろうというのだろう。
「あ、でも姉さんと約束した。旅行には行くからね」
その言葉にシェリーは舞い上がった。本当はルークに大嫌いと言われて旅行の話は諦めていたのだ。しかし、ルークの口から旅行に行くという言葉を聞けて、嬉しそうに笑った。




