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「その頃のシェリーと同じ年齢になった、君は何をしている?」
自分の姉の知らない一面を聞かされたルークは下唇を噛みしめる。13歳の時の姉と今の自分。姉と同じ行動を取ることができるかと言われれば否だ。
何をしていると問われれば、学生をしていると答えるべきのだろう。当たり前のことだ。
この選択肢をルークは間違っているとは思ってはいない。
早く独り立ちをして姉の負担にならないでおこうと思ったから、騎士養成学園の入学を希望したのだ。そのために入学できる最小年齢で合格できるように努力した。そして、合格しそのまま卒業すれば、この国の騎士として、もしくは軍人として身を立てることができるのだ。
それは一種のステータスであり、生活基盤を確立することができる。ルークとしては最善の選択肢であった。
「僕は先程言ったとおり学生です。そういうカイルさんはどうなのですか?僕と同じ年齢の頃はどうされていたのですか?」
ルークは逆に質問を仕返す。それほど人に言うのであれば、カイルはどうなのかと。
その言葉にカイルは苦笑いを浮かべる。
「俺か?そうだな。勉学と公務と国の視察と兄上に半殺しにされる毎日を送っていたな」
最初の3つ程は理解はできるが、一番最後の言葉はおかしかった。兄に半殺しとはあまりにも物騒だ。
「こうむ?」
ルークは冒険者であるカイルから不釣り合いな言葉が出てきて、オウム返しのように口にする。
「ああ、番をこの大陸で探すために冒険者なんてものをしているが、身分はセイルーン竜王国の第3王子だ」
カイルから思ってもみない言葉を聞いて、ルークは唖然を目を見開く。普通はこのようなところにいるべき人物ではないと思い、戸惑うルークだが、ふと昨日言っていたカイルの言葉が蘇ってきた。
シェリーの番は『ラース公国の第2公子とエルフの族長の第3子とギランの元傭兵団長と炎国の元王太子だ』と。それにカイルのセイルーン竜王国の第3王子がはいるのだ。
今まで、何も話してくれなかった姉と父親に憤りを感じていたルークもおかしいと思ってきた。
なにが、おかしいか。姉であるシェリーの在り方だ。
カイルが話してくれた姉の姿はルークには想像もできなかった姉の姿ばかりだった。姉の番が5人いると聞かされたときは、今まで家のことをしながら冒険者稼業をしていた姉は幸せになることだろうと思っていた。
しかし、各国の、または種族の要人とい言っていい人物たちが姉であるシェリーの番だと、頭が冷えて(物理的に)再認識したルークは湧き出てきた疑問が口からこぼれ出た。
「姉さんは···姉さんは何者?」
そう言葉にしておきながら、自分の姉の事なのに何を言っているのだろうと、ルークは苦笑いを浮かべる。
しかし、ルークにとって思いもよらない言葉がカイルから出てきた。
「身分で言えばラース公国の次代大公に挙げられるだろうな。シェリーは否定しているが、ミゲルロディア大公閣下はそう思っているようだ」
自分の姉がラース公国の大公に?しかし、大公の妹が母親であって、決して直系の血筋ではないのだ。
「でも、僕は従兄弟という人に会いました。伯父さんの子供だと紹介されたので、その人達が大公につくのでは、ないのですか?」
「国によっても、種族によっても跡継ぎの条件は違うものだ。ラースの一族はその魔眼が一族を治める長の条件のようだ」
カイルはルークのピンクの瞳を指し示して言った。一族をまとめる者の条件とは各種族違うことは当たり前だ。例外としては数種族の長を勤めている炎王ぐらいだろう。
そして、カイルは天井を仰ぎ見るような動作をして、ため息を吐いてから再びルークを見て話す。
「世界から与えられた役目で言えば、6代目の聖女だ」
「せいじょ····」
これもまたルークの想像した範囲外の言葉だったのだろう。カイルの言葉をオウム返ししている。
「姉さんが聖女というのは母親が聖女だからですか?」
ルークは今現状で把握できる知識を総動員して、カイルの言っている意味を理解をしようと試みた。
「さぁ。俺にはあの高貴なる御方の事など理解できない」
カイルはとても嫌な話でもしてるかのように眉間にシワを寄せている。カイル自身、白き神のことをあまり良く思っていないので、そういう表情になってしまっているのだろう。
「シェリーは自分の立場を理解し、幼い頃から行動に移していた。だが、君には何も悟られず、普通の家族として過ごそうと努力していたシェリーを否定することは、俺は許せない」
普通。その言葉を聞いて、昨日の父親であるオリバーの言葉がルークの頭の中で響いた。
『何を拗ねているかわからぬが、シェリーにあの態度はしてはならない』
普通の家族。幼いシェリーには縁のない言葉だったのだ。姉であるシェリーはルークに同じ思いはさせまいと、自分には与えられなかった家族の愛情というものを、弟のルークに与え続けていたのだと。
そんなシェリーを否定する言葉を言うものではないとオリバーは言葉少なく言ったのだろう。
「ルーク。君は聖女を母親に持ち、聖女の姉がいるラースの血族の者だ。だが、君はシェリーを否定するほどのことを成していたか?」
ルークの立場を言葉にすれば、相当な立場になってしまっている。そこに魔導師オリバーの子であり、グローリア国の王族の血が入っているということは含まれてはいない。それはオリバーの口から言うべきことだ。
「今までのように何も知らない子供であれば、この様なことは言わない。しかし、ルーク、君は知ることを選択した。いや、してしまった。君は今までと同じではもういられないだろう」




