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 勇者の隠れ家から3日かけて、公都グリードにたどり着いた。その間、国境沿いや街道沿いの町や村、城郭都市1つと中核都市1つを浄化し、焦土化した地域を抜け、そこから一直線で公都グリードまで来た。


 公都の外門で確認作業をされたがグレイの連れということで特に問題なく通された。昼過ぎだが行き交う人はあまり見かけない。

 シェリーはシーラン国の王都やマルス帝国の帝都を見たことがあったので、そのようなイメージと比べるといささか活気がない感じがする。


 グレイに案内され、たどり着いたのは郊外にある1軒の離宮だった。青を基調としている建物で回りの 木々と小さな泉が涼やかさをイメージされているのか夏の暑さが少しましなような気がする。


「ここで父上は静養している。」


 グレイはそのまま建物に入り奥へと消える。

 シェリーは建物の入り口に立った。しかし、足を進めることができない。建物の奥から黒いもやが立ち込め、内部の構造が全くもって分からないのだ。


「シェリー、どうかした?」


 カイルがこれ以上進まないので声を掛ける。

 

「先にこの建物の中央に当たる部分に連れて行ってくれますか。」


「また、何も見えない?」


「どうした。」


 グレイがいつまでたっても建物に入って来ないので不信に思い戻ってきた。


「先に建物に聖域結界を施します。この建物の中央付近に案内してくれますか?」


「ああそれなら今から行く部屋の近くになる。」


 グレイはそう言って、また、建物の奥へと消えていった。


「シェリーじゃ行こうか。」


 カイルはシェリーの手・・・もとい腕を絡めシェリーに歩くように促した。

 歩くこと数分、隣に歩くカイルの動きが止まった。うっすらとしか見えないグレイが指をさしながら、


「大体この辺りが中央付近だ」


 その言葉を聞いたカイルがシェリーをその場所に誘導していく。シェリーは床に膝を付き、地に向けて魔術を発動する。


「『サンクチュアリ』」


 金色の光をまとったシェリーが聖域結界を発動させ、黒い靄は徐々に薄まり、廊下の白い壁があらわになった。


「大公閣下の部屋に案内をお願いします。」


 シェリーは立ち上がり、グレイに大公の部屋に案内を頼む。


「何があったのか。」


「この建物の中には人々の心の悪といいますか、闇といいますか、そのようなモノが建物の中に溜まっていたのです。この国の現状を見ますと人々の心が大公閣下に向けられてしまうのもわかります。」


「じゃ、これで父上の病も治るんだな。」


「そうだといいのですが。」


 シェリーは言葉を濁す。

 グレイは青い扉の前に立ち止まった。扉の前には二人の兵士が陣取っている。


「ここが父上の部屋になる。だれか父上を訪ねて来ているのか。」


 グレイは扉の前の兵士に声を掛ける。


「はっ。只今、第一夫人と第三夫人が見舞いにいらしておられます。」


「母上達が?少し別の部屋で待たせてもらうか。」


 グレイが扉の前から離れようとしたとき、突然、中から扉が開かれた。出てきたのはグレイによく似た30歳ぐらいの女性だ。金髪に金色の三角の耳が頭から顔を出しており、金色の瞳からは涙が溢れていた。その美しい女性がグレイにすがり付き


「シャル帰ってきたのですね。聖女は。大公の妹君には来ていただけましたか?」


「母上、叔母上には来ていただけませんでしたが、叔母上を訪ねて来られていた、今代の聖女に御足労いただけました。」


「今代の聖女?」


 女性は辺りを見渡し、シェリーに目をつけた。


「あなたが今代の聖女ですか。早くこちらに来て大公を治してくださいまし。」


 女性は強引にシェリーの腕をつかみ部屋の中へと連れ込む。中には、数人の使用人と、ベットの横の椅子に銀髪で紫紺の瞳の美しい20歳程のエルフ族の女性が座っていた。

 ベットの横まで連れて来られたシェリーはベットの住人をみる。目が窪み、頬が痩け、赤髪に白髪が混じった70歳ぐらいの人族の男性が横になっていた。その男性を見た瞬間シェリーには手が付けられないことを悟る。男性自身から悪心の靄が滲み出ていたのだ。

 この症状を一度だけ見たことがある、番を失ったことでおきる魔人化だ。この状態の人に浄化を掛けても細胞一つ一つにまで悪心が染み込み、その人自身を浄化してしまい何一つ残らない。だからこの状態で死をいただくのが一番いいのだ。

 何もしないシェリーに苛立ちをあらわにした金狼の女性がシェリーの髪を掴み。


「早くしなさい。早く治しなさい。」


 とベットに押し付ける様に引き倒おそうとするが、女性は部屋の端まで飛ばされ、シェリーはカイルの腕の中にいた。


「呼び出しておいてこの扱いはなんだ?」


 カイルは殺気をあたりにぶちまける。


「母上がすまない。」


 グレイがシェリーに頭を下げる。


「大公閣下が番を亡くされてどれぐらいたちますか?」


 シェリーがいきなり質問する。


「父上の番?」


 グレイが首を傾げる。


「言い換えます。大公閣下が大切にしていた女性が亡くなられてどれぐらいたちますか。」


 使用人達も金狼の女性もシェリーの言葉に唖然としていた。まるでそのような人物はいないと言わんばかりに。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

補足

 実年と見た目の年齢は違います。特に獣人・エルフは顕著に表れます。話の内容で年月と見た目の年齢の計算が合わないことがあります。



誤字訂正しました。報告ありがとうございます。

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