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「ナオフミが勇者だからか。それは一理ある」
オリバーがスパイス増々カレーを食べながら答える。一人だけ、カレーの色が異様におかしいカレーだ。
「しかし、そうでなくとも戦い勝ってきたこそ、我々が今存在しているのではないのかね」
ナオフミが勇者であることも大事だが、それ以外の者達も戦い、その戦いを制していたことで悪魔という存在を滅失し魔王というモノを倒して、この平和な世界を維持できたという事実。
その一人としてオリバーもいるという事実。
「そのとおりだ。要は魔眼さえ気をつければ問題ない」
炎王もオリバーの隣でカレーを食べながら言っている。しかし、そもそも彼らはレベル200超えの超越者だ。参考にはならない。
「だからさぁ。陽子さんの言うことを聞いて、真剣にやれば強くなれるよ!」
陽子は炎王の隣で『カレーうま!』と言いながら、目の前の彼らに言っている。
しかし、この組み合わせは異様にしか見えない。
魔導師に、一国の初代の王に、ダンジョンマスター。普通ではない組み合わせだ。
「どうやって、アレと戦うんだよ。スピードは追いつくと思うけど、アレは勇者の剣を素手で弾いていたぞ」
オルクスは無理だとは言いたくないが、どう考えても敵わない相手であることには変わらない。
「それに途中から翼が生えて空中戦になっていましたよね。かなり厳しいと思うのですが」
今は浮遊の魔術は廃れてしまい、使えても一部の者達だけだ。それもかなり扱いが難しい魔術であり、スーウェン自身も浮遊の魔術を使いながら、他の術を連発することは難しいと考えている。
「ん?普通にさっくり斬れたけどな」
炎王は首を傾げながら、オルクスの言葉に答える。
「ナオフミは遊び癖があったから、仕方があるまい。普通にドラゴンの首を一撃で斬れれば問題などない」
オリバーの普通の基準がおかしかった。硬い鱗と強靭な筋肉、硬質な骨を一撃で断ち斬ることが普通の基準だと。
「それに空中戦になるのは当たり前のことだね」
「空中戦なんて大した事じゃない。問題は魔眼の方だ」
オリバーは当たり前だといい。炎王はそんなことは問題にも当たらないと言う。彼らの基準はオルクスやスーウェンが思っているものとは全く違うようだ。
いや、それが当たり前だと思うほどオリバーも炎王も戦ってきたということだろう。
その二人の言葉に彼らは次元が違うと感じてしまった。そう、目の前の二人は勇者と共に戦った魔導師と炎国を千年という長きに渡って支えてきた王なのだ。
だから、彼らは目の前の魔導師と王を別次元の存在だと切り離す。到底、自分たちには到達出来ない領域の存在だと。
手が届きそうで届かないというのなら、その距離をつめようかと努力もできるだろうが、そうでもなく、あがいてもどうしようも無いと見せつけられてしまえば、人は諦めてしまうものだ。
「そこ!諦めたような目をしない!何のために陽子さんがいると思っているの!」
「押し付けがましいくダンジョンを攻略させるため」
「無理難題を言うため」
「理解できません」
「暇つぶし」
酷い言われようである。陽子にああしろこうしろと言われてきたことへの意趣返しだろうか。
「Noooooo!!陽子さんは経験値と一緒にある程度の能力を君たちに与えられるの!ただ、それには君たち自身に頑張ってもらって、能力に耐えうる力を付けてもらわないといけないの!」
陽子のダンジョンは特殊だ。経験値の采配は陽子のこだわり抜いたギミックの解除で決まってくるということは、陽子の采配で決まってくると言っていいだろう。
そこのダンジョンマスターである陽子が経験値と一緒に能力を新たに与えると言っているのだ。陽子に認められる攻略方法で攻略しろと言っている。
その言葉で4人はさらに遠い目をする。
「陽子さんもう諦めたらどうです?」
シェリーは彼らが手を出せないオリバーの横の席を確保して、カレーを食べている。因みにカイルは、この場にいない。彼には寸胴カレーの火の番をしてもらっている。あまり炎王を引き止めては悪いと、先にスパイス増々カレーと残り3人分の普通のカレーを作って先に食べているのだ。
「陽子さんは諦めないよ!言っておくけどササっちはドラゴンも倒せるし、空中戦も戦えるよ。君たちは、つがいのササっちより弱くていいの?ササっちはあの悪魔と戦う事を想定しているんだよ」
その言葉に4人がシェリーの方に視線を向ける。
「ああ、そう言えば佐々木さんはあの悪魔の劣化版の『次元の悪魔』を斬っている。硬さ的には変わらないだろう」
同じくその場にいた炎王が言った。炎王は魔眼対策としてシェリーに連れていかれただけだったが。
「ササっちが戦っているときに君たちは頭を抱えて震えているの?」
陽子の言葉に以前カイルから言われた言葉が重なった。
『この世界には超越者クラスはまだまだ存在する。そんな者を前に君たちは膝を折り、シェリーに戦わすのか?それって違うよな』




