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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

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「スーウェン。君は知っているはずだ。白き高貴なる御方がシェリーの幻術でその場に降り立ったように感じた事を、姿を顕しただけで、畏怖してしまう存在が同じ空間にいたことを」


 カイルの言葉を聞いてスーウェンは教会で感じた崇める神の化現を目にし、押しつぶされそうな威圧を思い出す。思わず、ぶるりと震えた。


「もう一度問うが、あの悪魔に君たちは勝てるのか?」


 答えなどわかっているのに、カイルは敢えて彼らに聞いているのだ。彼らは幻影の悪魔を前にしても一歩も動くことはできなかったのだ。敵だと認識し、己の武器を握るも戦意は折れてしまっていた。悪魔から感じる禍々しい気配に逃げ腰になっていたのだ。


 カイルに再び問われた4人は押し黙る。勝てるとは言わないが、勝てないとも言いたくない。カイルを前にして言いたくないのだ。くだらない矜持というものが、邪魔をしている。


「ヨーコさんがなぜ君たちに対して強くなるように言い続けているかわかっているのか?全てはシェリーの足を引っ張らないためだ。もう少しヨーコさんの言葉に耳を傾けるべきではないのか?」


「そのとおーり!」


 突然、陽子の声が降ってきた。そして、リビングの一角の空間が縦に亀裂が走り、そこから陽子と陽子に逃さないと言わんばかりに腕を掴まれた炎王が姿を現した。やはり床以外からも出入りが可能なようだ。

 炎王はというと、完全に項垂れていた。恐らく陽子と押し問答でもしていたのだろう。


「エンエン。説明が終わったら帰っていいよ。今回のお礼はちゃんとしたから、説明はきちんとしてよね」


 陽子はそう言って炎王の背中を押した。



 やる気の無い炎王は少し前まで座っていたソファに再び腰を降ろす。そして、大きくため息を吐いた。ただでさえ幻影の悪魔から受けた嫌悪感が拭えていないというのに。


「取り敢えず座れ」


 炎王は項垂れたまま、そう口にしたのだった。




 シェリーはというと元々4人分の料理しか作っていなかったところに、陽子に呼び出された所為で倍の8人分の料理を作らないといけないことに、苛立っていた。

 4人分というのはシェリーとカイルは勿論のこと、今回はオリバーに頼み事をしてしまった為にスパイス増々カレーをリクエストされ、戻ってきてから寒気が収まらないという炎王にカレーでよければ夕食を一緒にどうかと誘っての4人分だ。


 そして、途中まで煮込んでアク取りをしていた鍋の横で、あらたに作る為の鍋を用意をする。


 肉、野菜を大量に保管庫から出したところで、カイルが狭いキッチンに入ってきた。


「何を手伝おうか?」


 シェリーはここ最近使っていなった大型の魔道炊飯器に視線を向かながら言う。


「お米を追加で炊いて欲しいです」


「陽子さんの分も追加でお願いします!」


 キッチンの入り口から陽子が顔を出して、夕食にありつこうとしいていた。そんな陽子をシェリーはジト目でみる。


「うっ。ササっち悪かったよ。でも、陽子さんの翻訳機能がダメになっていると思うんだよ」


「大丈夫です」


 シェリーも炎王と同じ返答だった。


「ササっちとエンエンが冷たいー!」


 その間もシェリーは野菜を切って、寸胴と言っていい鍋の中に入れている。どう見ても隣に途中まで作っている鍋よりもかなり大きい。


「はぁ。翻訳機能というより陽子さんの常識と彼らの常識が違うので理解できないだけでは?」


 そう、陽子はダンジョンマスターであり、人前では姿を現さない存在である。陽子の常識は()の世界の常識であり、この世界の常識ではない。付き合いがあるのは同じく陽子と同じ世界を知っているシェリーと炎王、そして、地下で怪しいモノを造り続けているオリバーだけである。

 それは、話が通じないことも出てくるだろう。


「でも!でも!竜の兄ちゃんにはステータスのシークレットの言葉が通じたよ!」


 確かに、他の4人には通じなかった言葉がカイルには通じた。彼らとカイルと何が違うのかと言えば···。


「それは元々俺たち竜人は第2形態があるから、初めから教えられている」


 カイルが大量のお米を研ぎながら答えた。ここに来てお米という食材を知ったカイルだが、もう手慣れたものである。

 陽子曰く、ステータスのシークレットは竜人という種族では常識であったようだ。


「それで、彼らに『やる気』というモノは出てきたのか?」


 カイルは陽子が彼らのやる気を出すために行った事柄だ。しかし、陽子はステータス云々と騒ぎ出し、再び周りを巻き込んだのだ。

 カイルに問われた陽子は、へらりと笑いを浮かべた。


「失敗しちゃったかなぁ。てへ」


 カイルは彼らの今の態度を見る限りそんなことだろうとため息を吐いた。


「いやー、ポッキリ折れちゃったみたいなんだよねぇー。やっぱり悪魔は恐ろしいよねー」


 陽子は『怖い。怖い。』といいながら、腕をさすっている。


「元から彼らに何も期待はしていないので、もう放置でいいのでは?」


 シェリーは寸胴鍋に火をかけ大量の野菜と肉を炒め始める。かなり手抜きだ。これがルークに出すとなれば、カレーに3日は掛けるのだが。


 シェリーの言葉にカイルと陽子が反論する。


「「駄目だ」よ」


 二人の息の合った言葉にシェリーはため息を吐く。自分の邪魔さえしなければそれでいい。シェリーにとって彼らはそれだけの存在だ。



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