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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

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「シェリーさん。遅くなってしまって、ごめんなさいね」


 ユーフィアはシェリーに遅くなってしまった事を謝ってから再びシェリーの向かい側に腰を降ろした。


「いいえ。構いません。師団長の邪魔が入る前に手短に話させてもらいます」


 今この屋敷内にクストがいるのだ。必ず邪魔をしに戻って来るだろう。シェリーの言葉にユーフィアは苦笑いを浮かべてうなずく。


「ユーフィアさん。あのエルフの女性をここで預かって欲しいということには意味があります。放置すればあの女性は再び帝国へ戻って行くでしょう。奴隷だった女性が再び帝国に戻る。ユーフィアさんならあの女性のたどる道がわかりますよね」


 シェリーの確信的な言葉にユーフィアは顔を曇らす。 


「奴隷から解放されたのなら、帝国に戻る必要はないですよね?必ず戻るとは限らないでしょ?」


 ユーフィアの疑問は最もだ。わざわざ嫌な思いをした帝国に戻る必要なんてないと。

 しかし、シェリーは首を横に振る。


「あの女性は自ら望んで奴隷になったのです。わかりますか?自ら望んだのです。一人の生命の引き換えに」


 ユーフィアの息の飲む音がシェリーの耳をかすめた。この事をシェリーが口に出さないとユーフィアの頭の中には奴隷とその奴隷を作り出すために犠牲になった者がいると気が付かないでいたのだ。


「恐らくエルフの女性は見た目がいいことから、召喚者の世話係兼教育者として付けられたのではないのかと予想できます。エルフ族は、魔導術の心得があり、魔道具は簡単な物なら作れる知識はあるでしょうから。で、帝国の真意はどこにあると思いますか?」


「····???」


 シェリーの話が一気に飛んでしまった。エルフの女性が世話係として、教育係として帝国に使われていたことまではわかる。しかし、そこで帝国の真意と来た。


「依存です。ユーフィアさんが魔道具という物に生きる意味を見出したように、召喚者にとってこの世界の知識を与える女性は彼にとって居なくてはならない存在になるでしょうし、エルフの女性にとっては過酷な状況下で自分を頼りにしてくれる存在がいれば、そこに自分の生きる意味を見出す。まぁ、これは私の予想でしかありませんが、遠からず当たっていると思いますよ」


 何もわからないところで生きることは、あまりにも心が壊れそうになるほどの不安を抱えるものだ。それを互いが互いに生きる意味を見出すことで、己を保とうとした。


「ある程度絆ができたところで引き剥がす。ていの良い人質の出来上がりです。ああ、勿論、召喚者にとってのですよ」


 ユーフィアの顔色が真っ青を通り越して、真っ白になってしまっている。ありえないと言いたいところだろうが、相手は帝国だ。奴隷に人権などありはしない。いいように使われ捨てられる。


「今回の実験で、エルフの女性をこちらに連れて来ていたのは、召喚者にお前が不甲斐ないとこの奴隷が「止めて!止めて!もう、止めて!」····はぁ」


 ユーフィアがシェリーの声を遮り、耳を塞いでイヤイヤと首を横に振り出した。そして、遠くから何かが破壊される音も同時に聞こえてきた。時間切れだ。


「マリアさん」


 シェリーはユーフィアの前に立ち、シェリーから庇うようにいるマリアに声をかけた。


「エルフの女性に召喚者よりユーフィアさんの方が素晴らしと教えて、魔道具の作成の基礎を叩き込むようにしてください。」


 シェリーを睨みつけていたマリアが、シェリーの言葉に驚きの表情をしたあとに、任せろと言わんばかりに深く頷いた。

 忠犬ならぬ、忠狼の心をくすぐる言葉にマリアの尻尾が大きく揺れていた。きっと、ユーフィアの素晴らしさをどう伝えようかと思案しているのだろう。


「それではお邪魔いたしました」


 そう言って、シェリーが立ち上がった瞬間に、入り口の扉がぶっ飛んだ。


「ユーフィア!何があった!!」


 ユーフィアの叫び声が聞こえたことにより、クストが駆けつける。そして、立ち上がっているシェリーを強く睨みつけた。

 シェリーはその姿に再びため息を吐き出す。


 ツガイという者は本当にツガイのことだけしか見えていないと。

 己の行動がツガイにとっていい事とは限らないと理解しない目の前の男に不快感を感じる。いや、母親もそうだったのだ。

 ツガイというモノはなんて···


 シェリーの目が塞がれ、真っ暗になってしまった。


「シェリー、帰ろうか」


 カイルの声がシェリーの耳に響いていた。目を塞いでいる手を取り、下におろす。


「もう一箇所寄ってから帰ります」


 いつもは直ぐに帰ろうとするシェリーが、別のところに寄ると言った。しかし、その言葉に待ったをかける者がいる。それは勿論クストだ。


「おい!待て!ユーフィアを泣かせて俺が許すとでも思っているのか?」


 クストはシェリーに近づき、ただでは帰すまいと手をのばすが、その手はカイルによって弾かれる。


「銀爪、邪魔だ!どけ!俺はそこのクソガキに用があるんだ!いつもいつも俺のユーフィアを泣かすクソガキに!」


 そこまで泣かせてはないと、シェリーはユーフィアを見るが、マリアがその前に立っており、今のユーフィアの状態は確認できない。


「ユーフィアさんは幸せものですね」


 シェリーは何気なく口に出してしまった。口にするつもりはなかったのに、出てしまった。


「あ゛?!そんなもの当たり前だろ!」


 クストは当たり前だと言う。その言葉にシェリーは寂しそうに笑った。だが、その姿はフードの奥に隠れ、口元の笑みしかわからない。その笑いがクストの癇に障った。


「何がおかしい」


 唸り声が混じったクストの声が室内に満たされる。番であるユーフィアが馬鹿にされたと感じられたのだろう。




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