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「うっ!」
シェリーの言葉にうめき声を上げたのは、魔道具を作っているユーフィア自身だった。
「魔術の基礎がなってなくて、ごめんなさい」
突然のユーフィアの謎の言葉に困惑しながら、クストとマリア、そしてセーラがユーフィアを励ます。
「ユーフィア。魔術はすごいぞ」
「奥様。奥様の作り出す物は素晴らしいものばかりです」
「奥様!落ち込むことないです!」
しかし、シェリーがその三人の言葉をぶった切る。
「ユーフィアさんの魔術の基礎がなってないのはわかりきっているので、謝らなくていいです」
ユーフィアもシェリーと同じくここではない世界の基準が幼少の時からあるからこそ、ユーフィアでしか作れない物を作れているのだ。そして、ユーフィアはユーフィア自身で勉強し、今に至るのだ。彼女は無知ではなく、独自の基準を用いているだけ。
だから、この世界の魔術の基礎という意味ではなっていなのだろう。
「おい!これ以上ユーフィアを貶めるというなら、相手になるぞ!」
クストのイライラ度が増しているのか、この部屋の圧迫感が更に増した。エルフの女性はというと、ガタガタ震えながら『もうやめて』と言葉を繰り返している。
「貶めていないですよ。ユーフィアさんは物を創り出すという点に置いては、神より祝福を得ていますので、何も問題にはなりません。師団長さん、少し落ち着いてもらえません?話ができないではないですか」
「嬢ちゃんがそうさせているんだろうが!」
本当にクストがいるとまともに話ができないと、シェリーは再びため息を吐く。これは押さえつける人物が必要とシェリーは手を空いている方向に突き出す。
「『亡者招来』」
そこに顕れたのは、仏頂面で不機嫌な感じを隠そうとしていない黒狼クロードの姿があった。
「あ゛?今度は何だ?」
火に油を注ぐが如く、部屋に満ちている圧迫感が増していった。これにはエルフ族の女性も耐えきれず、ソファにもたれかかって気を失ってしまった。
「クロードさん。カントリーマ○ムのチョコ味で、そこの目つきの悪い師団長さんの相手をしてもらえません?」
「カントリーマ○ム!!」
シェリーの言葉に反応したのは交渉しているクロードではなく、ユーフィアだった。シェリーはユーフィアの言葉を無視して更に続ける。
「そこの師団長さん。獣人の域を逸脱しましたよ」
「ほう」
「なんで、テメーがその事を知っている!」
シェリーの言葉を聞いたクロードは興味津々な目をクストに向ける。そして、クストの首根っこを掴んで、叫んでいるクストを連れて部屋を出ていった。
機嫌の悪い二人が出ていったことで、部屋の空気は普通に戻っていく。シェリーは鬱陶しいクストが居なくなったことで、これで話を進める事ができると思っていると
「シェリーさん、カントリー○アムがあるのですか!」
「問題児!なぜその事を知っているのですか!」
「あれ、どう見ても『雷牙の黒狼』だよね!どういうことかな!」
ユーフィアが、ルジオーネが、イーリスクロムがシェリーに詰め寄って来た。
話が進まない。
シェリーは舌打ちをしながら、鞄から小さな袋を取り出し、ユーフィアに投げ渡す。この世界にはないプラスチック製の袋だ。
ユーフィアは驚きの目で袋とシェリーを交互に見ている。
次にシェリーはルジオーネに視線を向ける。
「ダンジョンマスターと知り合いなので」
その一言で終わらした。イーリスクロムクロムには
「本人ではなく、ただの幻影です。気にしないでください。話の続きですが「「ちょっと待って!」ちなさい!」····ちっ!」
そう言って、話の続きを話そうとすると、納得できない二人から止められてしまった。ユーフィアはというと口をモゴモゴさせている。
「ダンジョンマスターと知り合いってどういうことですか!」
「幻影っていうよりも実体があったよね」
「それは後でいいですか?師団長さんが居ない間にさっさと話を進めたいのですが?」
番のユーフィアの事になると、如何せん話が進まなくなってしまうので、黒狼クロードに相手をしてもらっている間に済ませてしまおうと、シェリーは二人からの質問を後回しにする。そして、出来ればそのまま有耶無耶にしてしまおうという魂胆だ。
「話を戻しますが、召喚者がユーフィアさんの残した書物だけを読んで独学で創り上げたモノがコレになります。ユーフィアさん説明をお願いします」
シェリーはユーフィアに灰色の液体の説明を求めた。恐らくシェリーとは違う観点でこの【隷属の触媒】が視えているはずだ。
「えっと、これはなんと言いましょうか」
ユーフィアが歯切れ悪く言い始める。
「この制御石というか、今は液体なのですが、人の脳に直接入り込んで、人の意思をこの制御石が奪って、体を制御しまうのです。ですから、ただ単に命令を聞く人が出来上がってしまうのです。恐らくどんな理不尽な命令も実行してしまうでしょう」




