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「取り敢えずクソ狐と面会したいのですど、可能ですか?」
全くもって見当違いなことをシェリーは言った。ここはナヴァル公爵家であって、王宮ではない。
「了解しました!このセーラにお任せくださいませ!」
しかし、セーラは心得たと言わんばかりに姿勢を正してシェリーに返答する。
「それからユーフィアさんと込み入った話がしたいです」
「それは駄犬の妨害をすればいいという事ですね!お任せください!では、中へどうぞ」
セーラは全て分かっていると頷いて中に案内した。駄犬とは恐らくここの当主である第6師団長のクストのことだろうが、仕える者としては問題発言だ。
しかし、シェリーはセーラの言葉に頷いて、エルフの女性を引っ張って中に入って行く。シェリーとしても、第6師団長の横槍はうざいので、避けたいと思うのだった。
「あら?セーラ。シェリーさんを作業場にお通しするなんて、いけないわ。散らかっていますのに」
セーラがシェリー達を連れてきたのは、ユーフィアが魔道具を作っている最中の部屋だった。これも普通はありえないことだ、客人を女主の私室と言っていい作業場に通すなんて。
「奥様。シェリーさんが込み入った話がしたいとおっしゃりましたので、こちらに連れてまいりました!」
セーラはシェリーの要望を叶えるために、ここに連れてきたようだ。
「まぁ?そうなの?散らかっていますけど、こちらにどうぞ。マリア。お茶の用意をお願いできるかしら?」
ユーフィアは壁際に控えている金狼獣人のマリアに話しかける。お茶の用意をするように言われたマリアは頭を下げ『かしこまりました』と言ってユーフィアの作業場を後にしたが、その後姿は主に命令をされて嬉しいのか、取れんばかりに尻尾が振られていた。
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給湯室 side
「マリアさん!少しお出かけしてきて、よろしいでしょうか!」
マリアの隣で茶器を温めているセーラが近所にでも出かけてくるように、許可を求めてきた。
「セーラ。客人が来られているというのに何処へ行こうとしているのです?」
ユーフィアの客人ではあるが、なにかと問題を持ってくるシェリーが訪ねてきたのだ。ただ事ではない。
きっと、とんでもない事を持ち込んできたに違いないと、マリアは警戒感を持ち、セーラに対し、こんな時に何を言っているのだと不快感を示す。
しかし、セーラは不快感を示すマリアを気にもとめず、決定事項のように言い切った。
「マリアさん!シェリーさんが愚兄に用があるというので、呼んできます!」
「セーラ。国王陛下を出迎える体制がそんな直ぐに整いません。無理です」
セーラが愚兄と示すのがこの国の王だと、理解しているマリアはすぐさま否定をする。
「えー。愚兄なんて、その辺の床に座らせとけばいいのです!では、行ってきます!」
そう言って、セーラは給湯室の窓から王宮に向かって出ていった。その姿にマリアはため息を吐く。
その内この公爵家の当主の耳に入り、騒がしくなる事は予想ができると、再度マリアからため息がこぼれ出た。
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作業室 side
シェリーの前には紅茶と茶菓子が置かれている。その置かれているテーブルといえば、ユーフィアが魔道具を作るための作業台だった。
突然来たシェリーに対してユーフィアは作業していた手を止め、こころよく迎え入れてくれた。
シェリーの座っている隣にはもちろんカイルがいるが、その反対側には突然何処ともしれない場所に連れてこられて、目の色を白黒させているエルフの女性を掴んで座らせている。
「それで、シェリーさん。今日はどうされました?」
ユーフィアはにこにことシェリーに尋ねる。それに対しシェリーは無表情で今回来た理由を話しだした。
「まずは、ユーフィアさんに紹介したい人がいます。こちらの女性はマルス帝国の奴隷をしていた女性になります」
その言葉にユーフィアはなんとも言えない表情をする。その主の姿を見たマリアがシェリーを無言のまま睨みつけるが、シェリーは無視をしてそのまま話続ける。
「この方は不具合の魔道具を作り続けているハルナ・アキオさんの事を知っているようなので連れてきました」
不具合の魔道具。シェリーの言葉にエルフ族の女性が立ち上がってシェリーに文句を口にする。
「アキオ様は素晴らしい方だと申しております!」
「という感じの方です」
シェリーはエルフ族の女性の文句には付き合うつもりはないようだ。
「それでですね。この人を預かって欲しいのです」
「何を勝手なことを!」
「ラースの小娘!また、奥様にいらないものを押し付けようと!そんなことは私が許しません!」
シェリーの言葉にエルフ族の女性は憤りを現し、マリアは怒りを顕にした。ただ、ユーフィアは首を傾げ困った顔をしていた。




