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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

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 遠くの方で物が破壊される音を聞きながら、シェリーとカイルは冒険者ギルドを出ようとしていた。

 そこに後からシェリーの横を通り抜けて出ていこうとする者がいた。カイルはシェリーを抱き寄せ、後から来たものを避けようとしたが、シェリーはというと、横を通る者に対して足を引っ掛け、行く先を妨害した。


 普通ならシェリーはそんな暴挙には出ない。急いでいるのだろうと道を開けるのだが、シェリーはカイルに抱き寄せられながらも足を引っ掛けるという所行にでたのだ。


 そして、足を引っ掛けられ倒れている者を見る。薄い青い髪が地面に広がっており、呻きながら立ち上がろうとしている女性がいた。そう、シェリーが先程治療したエルフの女性だ。


「そんなに急いで何処に行くつもりですか」


 シェリーはエルフの女性に対し、警戒感を顕にする。国に戻ろうというならまだしも、彼女からは安心できる場所に戻ろうという雰囲気は感じられない。そもそも、自ら望んで奴隷になるように誘導されたのだ。自ら戻ることはしないだろう。では、この場から一刻も早く立ち去りたいのだろうか。


「アキオ様の元に行かないといけませんの!」


 アキオ?!思ってもみない名前がエルフの女性から出てきた。シェリーは抱き寄せているカイルの手を引き離し、女性の側にしゃがみ込んだ。


「それはクソ迷惑な物を作っているハルナ・アキオですか?」


 立ち上がろうとしている女性を下から覗き込むようにシェリーは話しかける。その目の瞳孔は開き、エルフ族の女性を見ていた。


「ひっ!あ、アキオ様は素晴らしい御方ですわ。わたしのような者でも優しくしてくださいます。言葉には少々不自由しておりますが、素晴らしい魔道具をお作りになります」


 プライドの塊だと言っていいエルフ族が人である者を庇う発言をしている。これはかなりハルナ・アキオと近しい人物のようだ。

 シェリーは思ってもいなかった人物に行き当たり、内心ほくそ笑んだ。名前しか分からなかった人物の実状を知る者が転がり込んできたのだ。


「それで、どうやってマルス帝国に戻るつもりですか?元奴隷の貴女が?」


「それは勿論、転移でですわ!」


 このエルフの女性はハルナ・アキオの近くにいて一体何を見てきたのだ?シェリーは呆れたように再度、女性に尋ねる。


「転移の入国は全て監視されているのに?それでマルス帝国に入国しようものなら、第16部隊と第17部隊の混成部隊に捕まりますが、それでも転移で帝国に転移で戻りますか?」


 女性はシェリーの言葉に震え上がった。マルス帝国の軍に奴隷が捕まりでもしようものなら、どのような扱いをされるか経験済なのだろう。


「そ、そんなことありえないですわ。転移を追跡するだなんて」


 彼女はきっとシャーレン精霊王国から出たことがないので、知る由もないことなのだろう。マルス帝国がどのような形であろうと、国の出入りを監視していることを。


「あり得ない?貴女、ユーフィア・ウォルスの名を聞いたことがないのですか?」


 マルス帝国にいたなら必ずと言っていいほど、その名を聞くはずだ。


『ユーフィア・ウォルス』


 数々の魔道具を作り出し、かの討伐戦で大いに活躍した魔武器を作った人物の名であり、古くからの帝国の悪しき習慣と言うべき奴隷の捕獲と隷属に大いに貢献した人物の名だ。


「ええ、存じております。アキオ様の教本を書かれた方の名でありますわね。誰にも解けないような暗号文で書かれていましたが、天才的なアキオ様の手にかかれば、そんなもの直ぐに再現されましたわ」


「·····」


 シェリーは言葉もなく立ち上がった。目の前のエルフの族の女性の頭の中は、いったい何が詰まっているのかと疑ってしまった。


 アレが?あの拙い子供の落書きのような陣が再現した物だと?

 思わず鼻で笑ってしまいそうになった。


 シェリーは女性の手首を掴み、床に魔石を落とした。そして、陣を発動させる。転移の陣だ。

 いつもながら、何も言わずに転移をしようとするシェリーの行動に慣れたのか、カイルも素早く転移の陣に入り込んだ。

 そして、シェリーたちはモルディールの街から姿を消した。




 転移で現れた先は王都メイルーンの第一層内のナヴァル公爵家の前だ。普通ならこんな横暴なことはしないが、これはユーフィアの罪であり、知らなければならないことだ。

 シェリーはエルフの女性を無理矢理立たせて、玄関先まで引っ張って行き、玄関扉のノッカーを叩く。


 少し待つとバタバタと足音をさせながら近づいて来た人物が扉を開けた。


「シェリーさん!いらっしゃいませ~!今日はどの様な御用ですか?」


 ユーフィア付きの侍女である狐獣人のセーラがシェリーを出迎えてくれた。しかし、これは侍女の仕事ではないだろう。

 ただ、セーラがここで出迎えてくれたことにシェリーはほっと胸を撫で下ろす。ユーフィアの番である第6師団長が出てこようものなら、一悶着あった事は確実だった。



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