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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
25章-1 冬期休暇-辺境から忍び寄る影

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「陽子さん。もしかして、ここで待てとか言いませんよね」


 あちらこちらで建物が崩壊する音、爆破される音、雷鳴の音が鳴り響いている。到底シェリーがいるところまで、今すぐにたどり着けるとは思えない。


「え?そんなことは言わないよー。ここは一番真ん中だからササっちが来ているってわかるでしょ?今すぐにここにたどり着けないというなら、それは実力不足。残念だねー」


 陽子はにこにこして残念だと言う。しかし、流石にSクラス級を相手にして、今すぐに塔の頂上まで来いという方が無茶振りすぎるのだ。


「竜の兄ちゃんなら、これぐらい問題なく進めるよね」


 陽子の言葉にカイルは苦笑いで返す。そもそもSクラス級がこのようにうじゃうじゃいることがあり得ないのだ。それも眼下にはびこるモノたちは、何れも見たことも聞いたこともない魔物ばかり。


「うーん?こんな状況に陥ったことがないからね。なんとも言えないかな?それに俺の知らない魔物ばかりだ。特にアレとかな」


 カイルはそう言ってある一点を指す。そこには迷路の幅にみっちりと鱗があるモノがずりずりと動いているのが見える。しかし、大きすぎてどのようなモノかが把握できない。


「あれ?あれはササっち案のヤツだよね」


「案って、ただのヨルムンガンドもどきです」


「ヨルムンガンド?」


 カイルは再び眼下に視線を向けるが、大きすぎて鱗を持つ巨大なモノとしかわからない。


「ササっち。もどきってただの大きな角の生えた蛇だよね?あれ、誰か倒してくれないかなぁ。一番幅を取っているんだよね」


 やはり陽子はこの機に始末に困っているモノたちを処分しようとしているようだ。


「しかし、かなり破壊される音が響いているが、いいのか?」


 カイルが陽子に彼らが陽子が嫌うダンジョンの破壊行動を取っているがいいのかと、尋ねているのだ。それに対し陽子は珍しくため息を吐きながら答える。


「はぁ。いいよ。元々ここは壊れてもいいように作ってあるチュートリアルゾーンだからね」


「チュートリアルゾーン?」


 カイルは陽子の言った言葉自体の意味がわからないようだ。


「よくわからないが、ここって行く方向が矢印で示されているダンジョンに向かう通路のようなところだろ?」


 その言葉に陽子は目を輝かせ、前のめりになる。


「そう!それだけの場所!行く方向は困らないように矢印の通りに行くだけの通路!」


 どうやら下に見える巨大迷路は迷わないように矢印で示されているようだ。


「なのに、面倒だと言って壁を壊すわ、壁を登りだすわ、何処に行けばいいんだと迷子になって暴れ出すわ。獣人ってバカなのって何回も陽子さんは思ったよ」


 陽子は呆れたように眼下に視線を向ける。そこは戦場かと言わんばかりに、爆音と破壊音が響いている。


「だから、5回破壊するとこのフィールドにある塔のどれかに飛ばされるようにしたんだよ。そこから中央の塔を再度目指すように注意書きも設置したんだけどね」


 陽子の言い方だと中々うまくは行かなかったようだ。そして、陽子はハッと何かを思い立ったように、シェリーを手招きした。


「ササっち。ちょっとこっちに降りてきて」


 騎獣に乗ったままで、やり過ごそうとシェリーは思っていたのだが、何かあるのだろうかと、シェリーは豹羽を陽子がいる塔に寄せ、降り立った。

 そこは何もないただの塔の頂上だ。ただ、下に降りる階段が見えるだけ。


「陽子さん。どうかしましたか?」


 シェリーは何の用があるのかと、聞いてみるが陽子はもう少し待ってと言ったのみで視線は下に降りる階段に向けられている。


 そこから見えたのは、赤い髪だった。そう、ここに一番最初にたどりついたのはグレイだった。


「狼くんが一番だね!褒めてあげるよ!そう、これは鬼ごっこ!(魔物)から逃げてここまでくれば「シェリー!!」あー、陽子さんが褒めてあげてるっていうのに」


 グレイは陽子の言葉など聞こえておらず、番であるシェリーの姿を認めた瞬間に、シェリーの元に駆けつけて、抱きしめていた。


「会いたかった」


 グレイと感動の再会の雰囲気に陽子は微笑ましいと、にこにことしていたが、シェリーはというと、腐った魚の目をして空を見ていた。たかが一週間ぐらいで大げさなと内心文句をつけていたのだ。


 しかし、先程ルークを送りだす際に泣く泣くルークの手を離したシェリーは、一週間後にはきっとグレイと同じ姿をルークに見せていることだろう。


 さて、ここにグレイがたどり着いたのは偶然ではない。グレイのレベルは現在、レベル100には程遠いかった。そんな100にも満たないレベルでSクラスの魔物がうじゃうじゃいる所に放り込まれても、今の実力では倒しきれないことはグレイが一番理解していた。

 だから、陽子の助言を聞いて、ひたすら回避行動を取っていたのだ。そこで一番効力が発揮したのが女神ナディアの加護『女神の寵愛』だ。グレイは直感で危険を察知し、危機を回避していたのだ。


 そして、シェリー()に会うことが叶った。これは、グレイの一人勝ちだが、その後ろでは女神ナディアの微笑みが垣間見えていた。




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