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勇者ナオフミとその子供たちが聖女ビアンカを支えている。シェリーはその中に入ることはない。血縁はあるが家族ではない。
勇者の番狂いで大陸の6分の1を破壊してその後始末をせずにそのままにしていることが許せない。聖女を囲い、世界の人々の悪心の塊をそのままにしていることがゆるせない。外の世界に無関心で自分達だけ平和に暮らしていることが許せない。
シェリーは奥歯をギリリと噛み締める。あの啓示がなければ一生会うつもりはなかった。
シェリーの手が握られた。見上げればカイルが心配そうな顔をしている。
「行きましょう。」
シェリーは背を向け出ていこうとする。
「おい。待て。母ちゃんを泣かしておいてどこに行くつもりだ。」
ユウマがシェリーの背に投げ掛ける。
「わたしにはやるべきことがあるのですよ。」
「母ちゃんより大事なことなんてない。」
ユウマはシェリーに突っ掛かり、腕を振り上げ顔を殴る。
「ユウマ!」
ナオフミがユウマを諌めるように叫ぶ。
シェリーは避けることができたが、わざと殴られた。口の中を切ったのか鉄の味がする。
「ユウマ・コジマ。小嶋 佑真。キミはこの箱庭しか知らない。ここにいれば小嶋さんに守られて幸せね。キミは死ぬまでここに居続けるのかしら?もし外の世界に出るなら覚悟をしておきなさい。」
「何を覚悟する必要がある。俺は強い。父ちゃんに認められる程強い。」
「この世界の人族に黒髪、黒目の者は存在しない。いるとすれば勇者コジマ ナオフミの血族のみ。」
「それがどうした勇者の子だと自慢じゃないか。」
「カイルさん」
シェリーはカイルの目を見て問う。
「この世界の人は勇者の血族だと知ったらどうすると思いますか。率直な意見でお願いします。」
カイルはナオフミを見るがナオフミは苦虫を潰したような顔で黙っている。
「正直、関わりたくないね。大陸の6分の1を破壊した勇者の血を引くものなんて、人によれば家族の敵だといって向かって来そうだよね。」
「魔王を倒した勇者だぞ。敬うことはあっても、殺されることはない!」
ユウマが叫ぶ。
「ねえ。母さん。わたしは石を投げられるなんて日常茶飯事でしたよね。ときには魔術で攻撃されることも、悪魔と呼ばれることも。」
「そうね。町に買い物に行くといろんな人から暴力を振るわれて帰ることになりましから、わたくしは外に行かなくなりましたわ。それにここに居れば誰も来ないから怖い目に合わなくてすみますもの。ナオフミが作ってくれたここが一番安全ですわ。」
ビアンカは外に行けば子供が悪意ある視線にさらされる事を知っているため、ここから出るつもりはないと言い切る。
「そんな。」
「まあ。小嶋さんと母さんは聖人なので、ただ人であるキミたちのほうが先に老い死んでいく。ここから追い出される心配はしなくてもいいですよ。」
よかったですね。とシェリーは微笑む。
「佐々木さんそないに意地悪いわんといてーな。」
「小嶋さん、後数年で気がつくことですよ。自分達が親より年を取っていくことに。
そのとき、ここに残る選択しをすると思いますか?そのとき外に出て人々から悪意ある視線にさらされながら、普通に生きていけると思いますか?
それとも死ぬまでここに閉じ込めて自分達の置かれた立場を隠し通しますか?」
「ほんま性悪いな。」
ナオフミは泣きそうな顔でいう。
「それがあなたの罪。あの次元の悪魔と同じ扱いをうける黒の悪魔と言われたあなたの罪。13年です。13年たっても草木が生えず荒野が広がり、人が住めない土地を作り出し、そのまま放置をした。」
「これ以上父ちゃんをいじめるな。」
ユウマはまたしてもシェリーに殴りかかる。
しかし、今度は手のひらで受け止める。
「なぜ、わたしがあなたたちの後始末をしなければならないのですか?100年持つはずだったのです。それが、あと10年もない。誰のせいですか。」
「何が。」
「自分達だけが幸せならいいのですか。わたしはこの12年間、時間の許すかぎり各地の浄化をしてきました。わたしの犠牲の上にあなたたちの幸せがあることをわかっているのですか。」
シェリーは感情的にはならず事実を淡々と述べる。
「何のことだ。」
「ユウマ。だまっとき」
ナオフミがユウマを止める。
「父ちゃん。」
「黙れ。俺が悪いんや。すまんかった。どうすればよかったんや。」
「過去には戻れませんよ。そうですね。せめてこの国の浄化は母さんにしてほしいですね。」
「外に行くのは嫌。」
ビアンカがすぐさま否定をする。
「だって母さんの兄が大公なのでしょ。この国の姫でもある母さんが夫の不始末を処理してもいいのではないのですか?それに、活性化された魔物の討伐は勇者様にお願いしましょう。今、次元の悪魔が出現してもまだザコしかいないでしょうし、一人で対処できるでしょう。」
「親をこき使うつもりか?」
「自分の後始末をお願いしているだけですよ。あと、現実がよくみれてよいでしょう。」
シェリーは満面の笑みで勇者ナオフミを見上げた。
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