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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
24章-1 魔の大陸-魔女への依頼

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「陽子さん、もう終わったのですか?」


「もう、バッチリ。フィアちゃんのお土産をごっそり持って帰ったよ。これで喜んで貰えるって尻尾を千切れんばかりに振ってて、もう陽子さんは涙が耐えなかったよ。ぷぷっ。帰ったらフィアちゃんは赤い鉱石に夢中!」


 どうやらシェリーの思惑通りユーフィアはアルテリカの火に夢中のようだ。


 陽子がダンジョンでの様子を語っていると、裏庭の中央から土埃が舞い上がってきた。それをスーウェンが結界を張って避ける。土埃の間から黒い大きな獣の影が見えることから、クロードはカイルからの攻撃に対抗する為に獣化をしたようだ。


 しかし、直ぐに『ギャイン』と声が辺りに響き渡る。土埃が晴れると、そこには黒い獣を素手で押さえ込んでいるカイルの姿が現れた。


 流石に獣化していようが、Lv.200超えの竜人の力には敵わなかったようだ。


「おお、竜の兄ちゃんすごいね」


「はぁ。私達が4人で向かっていっても手足が出なかったのに、素手ですか」


 シェリーの上からスーウェンのため息が降ってきた。そして、裏庭の中央からカイルがいい笑顔で黒い獣の首根っこを持って巨体を引きずりながら、こちらに戻ってきた。


「いい加減離せ!俺、お前に何も言っていないじゃないか!この仕打は酷すぎるぞ!」


 クロードが叫んでいる。しかし、カイルは黒い獣を地面に押さえつけて言葉を言い放つ。


「シェリーに謝れ」


 地獄から響いて来たような恐ろしく殺気がこもった声だった。


「あ?俺は本当の事しか言っていない。謝ることなんてないし、なんでそんな事でお前が怒るんだ?」


 黒い獣は押さえつけられながらも、意味がわからないと抵抗する。シェリーに頭を下げるのが余程嫌なのだろう。


「クロワンコくん。素直に謝っておきなよ」


 陽子はカントリー○アムを頬張りながら言う。それに対し黒い獣は鋭い視線を陽子に向け悪態をついた。


「あ゛?だから意味がわからないって言ってるだろ!」


「うーん。私にはわからないけど、この世界では自分の番の事を悪く言われたら、腹が立つらしいよ」


「は?番?」


 あまりにも予想外な返答をもらったクロードは獣化を解き人型に戻った。それでもなお、カイルに押さえつけられている。


「え?この嬢ちゃんと竜人が」


 クロードが目にしている光景と真逆の事を言われ、戸惑っているようだ。


「そうそう、だから素直に謝った方がいいよ」


 陽子はにこにことして言っているが、シェリーを膝の上に乗せているスーウェンから不機嫌な声で訂正される。


「ヨーコさん。それでは、私は関係ないと言わんばかりな言い方ですね」


「およ?そんな事はないよ」


 確かに陽子は直接的な言葉は言ってはいない。しかし、怒っているカイルのみがシェリーのツガイであるかのようにもとらえられる言い方だ。


「は?」


 陽子とスーウェンの会話から何かおかしいと感じたクロードはシェリーに視線を向けるが、そのシェリーはと言うと自分は関係ないと言わんばかりに、何処からか持ってきた雑誌を開いて眺めている。


 そして、何かを理解したのかクロードはシェリーに向かって言った。


「ああ、お前。あの神に(もてあそ)ばれているのか!」


 クロードの思考回路は曲がりながらも、ある意味正解を導き出していた。その言葉に我関せずの態度を取っていたシェリーの視線がクロードを捉えた。シェリーの視線をうけたクロードはゾワリと肌が粟立つ。距離を取ろうにもカイルに押さえつけられている為、動くことが適わない。


 シェリーは眺めていた雑誌をテーブルに置き、スーウェンの膝から下りる。


「ええ、そうですね。全くそのとおりです」


 クロードの言葉を肯定しながら、近づいて行くシェリーは笑顔だった。シェリーとしてはとても良い笑顔だった。しかし、それが異様に恐ろしい。


「あ、いや。ちょっと待て。おい!竜人。手を離せ!」


 クロードは己の身の危険をヒシヒシと感じた。所詮、己の身は現し世に存在しないモノだとしても、これは危険だと。


 シェリーは右手に魔力を纏い、それを高圧に圧縮し、クロードに近づいて行く。


「クロードさんもご存知かと思いますが、神という存在は身勝手ものです。ええ、面白ければいいと言っている存在がいることも事実です。私の様な矮小の身としては贖う事などできません。受け入れがたい事も受け入れなければならないという理不尽さ」


 魔力の圧縮が高まり、シェリーの右腕は青い炎に包まれた。


「落ち着け!俺が悪かった」


 クロードはおざなりに謝罪の言葉を口にするが、シェリーの歩みは止まらず、クロードの側で立ち止まった。


「安心してください。クロードさんしか被害が及ばないようにしますから」


「全く安心できねぇー」


 その言葉を最後にクロードは世界の記憶の海へと還っていった。そのクロードが存在した場所は、いつか見た『龍の咆哮』が放たれた時とは違い、地面が焦げていただけだった。




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