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翌日の行程も今まで通り、町や村の跡地によるが途中から街道を外れ勇者のいるところを目指すのだ。
街道を外れ道無き道を行くこと1刻1刻。
今まで灰色の世界と表現していいほど、枯れた大地に焼かれた大地が続いていたが、目の前には緑の森が突如として存在している。まるで、境界線でも引かれたかのように、くっきりと大地が別れていた。
「カイルさん、一応聞いてみますが、ここで待っててくれませんか。」
「え。嫌だよ。」
「ですよね。ここから勇者がいる隠れ家に入ることになるので、この森には迷いの魔術が掛られているのと、勇者から攻撃を受けると思います。わたしが色々面倒なのでここで待ちませんか。」
「それを聞いて、余計について行こうと思ったよ。」
「はぁ。」
やっぱり無理だった。確実にややこしくなることが決定されてしまった。
「手を出して下さい。意識的に誘導されると思いますので、わたしの行動を疑わずに着いて来て下さい。そして、攻撃されてもこちらからは決して手を出さないで下さい。」
「わかったよ。」
シェリーはカイルの利き腕を封じる意味で右手を掴みとり森の中を進んでいく。
カイルは舞い上がっていた。今まで、己からシェリーを求めたことはあっても、シェリーから求められたことは無かったのだ。
500メル程進んだところに真新しい焚き火の後を見つけた。
「ここに迷い込んだ人がいるみたいですね。何が目的か知りませんが、関わりたくありません。」
「まあ、これだけ緑に溢れていたら、何かあるかもとは普通思うからね。」
シェリーはそのまま森の中を進んで行く。森が切れているのか木々が逆光で影になり、その先が明るい光で照らされている。森の端まで出るとその先には空が広がっていた。正確には森が切れ崖になっている。しかし、シェリーはそのまま進み続ける。
「シェリー」
カイルが声をかける。
「問題ないです。」
シェリーは答え、崖の先へ足を踏み出す。シェリーが落下し、カイルも浮遊感を感じたと思ったら、足は地面に着き、目の前には、花畑が広がっていた。後を振り向いても崖はなく先ほど通ってきた森があるだけだった。
ここまで強力な魔術を広範囲で張り続けられるものだろうか。
正面から殺気を感じ、無意識に剣を構えようと手を動かすが、シェリーに両手で右手を掴まれていて剣を取ることができない。
「手は出さない。殺意は向けない。」
シェリーが強く発言する。
正面から美しい花畑を舞散らせながら、剣撃が飛んでくる。シェリーはその衝撃波と言っていい攻撃を右手で打ち軌道を変える。
スキル
最小の盾
防御範囲はとても狭いが、どんな攻撃でも跳ね返すことができる。
これ、使い勝手悪すぎない?もう少し頭使えば?
次々に打ち込まれる剣撃に花畑は無惨な姿へなっていった。何度目かの攻撃の直後、光が陰ったかと思われたとき二人の上に漆黒の剣が差し迫っていた。シェリーは頭上で剣を素手で受け止める。
「久しぶりやな。佐々木さん。大きゅうなってからに。」
関西風に訛った声が降ってきた。目の前には身長が180セルメルぐらいの黒髪の起伏が乏しい顔に、目付きが悪い黒い目の20歳ぐらいの青年が黒い剣を肩に担ぎ立っていた。
「なんで、そない胸くそ悪うなるパッキンの髪なんや」
シェリーの髪をぐしゃぐしゃに撫でる。シェリーはナオフミの手を払いのけ、髪を整えながら
「あなたの心に手を当てて考えれば分かることです。」
ナオフミは腕をくみ、首をかしげ
「わからんわ。」
「母さんに会いに来たので会わせて下さい。」
「なんや。男つれて挨拶にきたんか?お父さんはゆるしまへんで。」
「めんどうくさい。聖女の証をもらいに来ただけです。」
ナオフミはカイルに視線を向け
「おれのビアンカに男を近づけるのは嫌やな。あんた、佐々木さんのなんや。」
「ササーキ?」
カイルは知らない名前を言われ困惑する。どうやらシェリーの事をさしているようだが
「あー。なんやったっけ?」
「この世界での名前は名乗ってませんよ。シェリーです。」
シェリーは改めてナオフミに名を名乗る。
「シェリーちゃんかわゆい名やな。でシェリーちゃんのなんや。」
「番です。」
「そーかそーか。それなら案内しちゃるわ。」
ナオフミはシェリーとカイルに背を向け、凄惨な姿になった花畑を歩きだした。
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補足
180セルメル=180cm
パッキン=金髪
勇者ナオフミは言語翻訳スキルがあるためそのまま日本語で話しています。なので他の人にはこの世界の言葉で聞こえますがシェリーは日本語が理解できるので、関西弁で聞こえます。




