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もし、悪魔が早期に出現するとすれば、一番はやはりグローリア国だ。あの国の現状は最悪と言っていいほどひどい有様だ。国の3分の2があの勇者の手によって焦土化している。
しかし、今現在シェリーがあの国に足を踏み入れることは皆無と言っていい。あの国は幼いシェリーにとって受け入れがたい事があまりにも多くありすぎた。
あの国の現状を知る術はシェリーにはない。だから、あの国に悪魔が出現したかどうかはわからない。
次にラース公国だ。これも一番の要因は勇者のやらかしたことが元凶と言っていいだろう。シェリーが知る限りあの国は2度悪魔の出現が認められ2回ともシェリーが対処している。
3番目としてはマルス帝国だ。あの国は長年の人々の苦しみや嘆き恨みがたまりに溜まっている。しかし、帝国は人の出入りは厳しく制限されているので、他国に悪魔が出現した情報は流れることはないだろう。
この3カ国が今の現状で悪魔が出現する確率が高い国なのだ。しかし、人々の悪心となる要因の少ないギラン共和国で悪魔の出現が確認されたとなれば、話が違ってくる。
これの意味することは悪魔が出現することができる歪みが各地に存在しているということになる。
大陸の北部一帯なのかそれとも全土なのか、思ったよりも完全体の悪魔の出現。そして、魔王の出現が早まっているのだろう。それに各地で見つけた不安要素もある。
だから、西に行けか。アリスの助言が得られればこの先の未来に対する対処も可能だということだ。
「はぁ。わかりかりました。いえ、現状がわからないことがわかりました。ここでの事が終わりましたら、向かいます」
『ああ、そうした方がいい』
そう言って、ユールクスはダンジョンの中に消えていった。
シェリーはユールクスが居た場所を見つめる。ダンジョンマスターである彼の全ての行動の源はダンジョンを守ること。シェリーすらコマとして使おうという事なのだろう。
目線を外し、赤い鉱石に視線を移す。それに近づいていき亜空間収納の鞄に入れていく。
「シェリー、次は西に行くの?」
カイルが赤い鉱石を手渡しながら聞いてきた。どうやら、抱える程の大きさの鉱石を集めて持ってきてくれたようだ。
「そうですね。もう少し後でもいいかと思っていたのですが、仕方がありません」
シェリーは鉱石を受け取りながら答える。
「なんだか共同作業って感じだね」
カイルは渡しながらニコリと笑う。その言葉にシェリーは腐った魚の目を返していた。
結局、裏ダンジョンの最下層の50階層まで、カイルが一人で対処し、最終ボスであるヒュドラもサクリと倒してしまい、シェリーは本当に道案内をしただけに終わった。
以前一度だけシェリーはカイルにスキル『聖人の正拳』で本気の攻撃をしたことがあった。そのときは思ってもみない程の攻撃力があった事に内心驚いたが、やはり、超越者の域になると別格だと思い知らされる。フォルスミス・フラゴルしかり、オリバー・カークスしかり。
今まで、カイルは何かと余裕で対応していたようだが、真剣に事を構えるとココまでの差を見せつけられるのかとシェリーは内心苦虫を噛み締めた。
そして、今は冒険者ギルドの2階の受付けに併設されている休憩所でカイルの膝の上にシェリーは座られ、出されたお茶を飲んでいた。
目の前には目をキラキラさせた2階担当の受付けの女性がシェリーに茶菓子を差し出している。
「早く戻って来ないかなぁ」
耳元でカイルにつぶやき聞こえた。思ったよりも早く50階層を攻略し、表の3階層で仮眠を取ってから冒険者ギルドに戻って来たのだが、他の4人はまだ戻ってきていなかった。
しかし、今はお昼を過ぎた時間帯なのだが、あまりにもギルド内が静かすぎた。いくら昼時でも少なからず人の出入りはあるはずだ。けれど、ここに戻ってきてからは人の声が全く聞こえなかった。
「このお菓子、炎国から取り寄せた特別なお菓子なのです。チョコレートと言う魅惑のお菓子なのです」
そう言って女性が差し出しているお菓子は茶褐色の色を纏っている丸い塊だ。太平洋の真ん中にある島土産に似ている見た目の物だった。確かあれは外国の土産なのに日本人が作ったものだったよなと思いながら、一粒取り口に放り込む。口の中でコリッと木の実を噛む食感が甘味と苦味と混じりながら広がっていく。
炎王······本当に島土産そっくりじゃないか。ぱくり?いや、異界のことなので別にいいのか?
シェリーはチョコレートの事はまぁいいかと思い、先程から気になっている事を目の前の女性に聞いてみた。
「ギルド内がとても静かなのですが、もしかして定休日とかだったりしました?」
冒険者ギルドに休みの日があるとは聞いたことは無いが、もしそうなら、休日出勤させてしまっているのだろうかと思い尋ねてみたのだ。
すると女性はニコニコにながら
「今日はお祭りの日なので、冒険者の皆さんはそちらの方に行っているのですよ」
と当然のように言ってきたのだった。




