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フェクトス総統閣下 Side
「ブヒブヒ鳴くブタ?コートドランの事じゃねぇだろな」
シドが閉じられたの扉を見ながら言っている。しかし、冷や汗が酷い。普通に話してはいたが、彼女の周りにいた者達の圧倒的な力に内心慄いていた。
あのオルクスでさえ俺の知っているオルクスではなくなっていた。この国を離れて2月程しか経っていないと言うのに。
それに、どう見てもエルフの王の血筋であるシュエーレン。そして、何度か顔を合わせたことがある炎王の血を引くグラシアール。
一番恐ろしいと感じたのは銀爪だ。噂で聞いていたが、格が違うと肌がざわめく程感じられた。
それらが、ラースであるシェリー・カークスの側にいるとなると、心胆を寒からしめられる思いだ。
「フェクトスどうした?」
俺が何も話さないことがおかしいと思ったのかシドがテーブルに肘を付きながら俺の顔を伺い見ていた。
「何でもありませんよ」
「フェクトス。俺しか居ないのだから、そんな言葉遣いをするな。気持ち悪い」
俺の立場では素のまま話すと色々問題になるから普段から丁寧な言葉遣いで話すように気をつけているというのに。
「はぁ。で、ラースの内情は聞けたのか?」
今回、シェリー・カークスをこの国に呼んだ理由だ。あの国はラースの国であり、今は問題の勇者がいる国だ。動向を注視しておかなければならない。
「ああ、はっきりと言わなかったが、ミゲルロディアは魔人化したとみていい」
「あの、ミゲルが········ラースで大きな騒動が起きたと聞かなから、すでに魔の大陸に送られたと見ていいだろうが、次の大公はオーウィルディアということか」
「それはどうだろうな、ラースの嬢ちゃんはウィルの事を大公代理と言っていた」
それはどういう事だ?オーウィルディアは大公として立つ気はないということなのか?
「ここに来て色々不安定要素が出ていたな。フェクトス」
「モルテ国か。これは無視できない事だ」
本当に頭が痛い。モルテ国が国として機能しなくなって約千年。千年前のギラン共和国は国として成り立ったばかりだった。それほどの年月だ。どう対応を取るべきか手探りで行かなければならない。
「それもだが、大陸の南側もきな臭い。サヴァン王国がそろそろヤバいらしい」
「それは、シュトラールのガキが裏で糸を引いている事だ。あの虐殺王は切れ者だ。良いように事を収めるだろう。下手を打てばクラナードとヴィーリスの姫に消されるのもわかっているだろう」
「それは恐ろしいなヴィーリスは関わりたくないなぁ。モルテの次に」
恐ろしいと言いながらもシドはニヤニヤと笑っている。きっとヴィーリスの奴らと殺りあったときの事でも思い出しているのだろう。
『楽しそうに話しているところ邪魔するが』
突然、聞き覚えのある低い声が部屋に響いた。辺りを見渡すと、先程シェリー・カークスが座っていた位置に緑の髪に金の目を持った人物が座っていた。いや、人ではなく、この国の護りの要であるユールクス様だ。
俺とシドは立ち上がり、頭を下げる。
「これはユールクス様。如何されましたか?」
『楽にしてくれ、先程の話に追加をしておこうと思ってな』
席に着きユールクス様の言葉の意味を考える。先程の話?どこの話だろうか。
『不安定要素の話だ。2週間ほど前だったか。ラースがこの国に来たであろう?』
確かにリュエルからの報告で上がっていた。ダンジョンの掃除を頼んだと。
『その時に我のダンジョンで外部と連絡を取っていてな、その時に面白い話しをしていた。悪魔が3体出現したと、その内1体は魔眼持ちだと』
「「なっ!」」
俺とシドの驚きの声が重なった。悪魔だと!最近は確かに魔物の出現が頻繁になり、冒険者ギルドにも依頼を出しているが、傭兵団にもそのことで対処をしてもらっている。その上、悪魔だと!
『ラースは黒龍を引っ張って対処に向かったようだ。その2日後だ。北の国境付近に1体の悪魔が顕れた』
衝撃的な言葉だった。30年前の再来とでも言うのだろうか。悪魔がこの国に出現しただと!
俺もシドも言葉が紡げず、固まってしまっていた。
『ああ、それは我の方で対処をしておいたから心配することはない』
「あ、ありがとうございます」
その言葉を言うことが精一杯だった。頭の中では30年前の事が次々と思い出されていく。あの時と比べて戦力はどうだ?
あの時は賢者がこの国にいた。それにより賄われていたことが多々あった。魔力をあまり保たない獣人である我々にも使える魔武器の提供。ダンジョンから生み出される神水を模倣した天水の提供。
賢者がいたから、対処できたと言っていいだろう。
人としてはどうだ?10年に渡る戦いで多くの者達を失った。友であったクロードもあの戦いで失ってしまった。
絶対的に戦力が足りない。まさか、20年で再び災禍が世界を襲うというのか。
『ラースの国のことで思うことはあるかも知れんが、まずは国事を成してほしいものだ』
「はい」
『水龍がお前達のために造った国だ。こんな事で壊すなよ』
そう言葉を残して、ユールクス様は消えていった。これは後でシェリー・カークスに聞かなければならない。
訂正します。
千年前はギラン共和国は存在していなかった。→
すみません。ギラン共和国は存在しています。『俺にとって〜』とこの辺は関わってくるのですが、完璧に頭から抜けてました。




