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広い部屋に長く大きなテーブルが中央に設置されている窓側のイーリスクロムの横にシェリーは座らされていた。
シェリーの横にはカイルが座り、その横にはクストとユーフィアがいる。シェリーの反対側のイーリスクロムの横には苦労人の宰相が席に着いて進行係をしていた。シェリーの目の前にいるエルフ族の者達を案内してきたのも、その宰相だ。
イーリスクロムからヴァルと呼ばれているのを聞いたことがあるが、他の者からはヴァランガと呼ばれていた。
正式に挨拶をしたことがないシェリーは宰相の名を知る機会はなかったが、いろいろイーリスクロムに振り回されている可哀想な人だということは、とある情報筋から聞いている。しかし、今は関係がないのでここでは語らないでおこう。
そして、目の前のエルフ。深い緑の髪に青い目の中性的な容姿の人物は族長である。
オリバーにボコボコにされた本人である。精神的な傷は癒えたかどうかわからないが、表面的には冷笑を浮かべて目の前の者達を見下しているようだ。
その族長の右側には海のように深い青色の髪に薄い青い目の女性のエルフが、左側には紫の髪と目を持つ男性のエルフが席についている。
その後ろには護衛だろうか藍色の髪と目を持つエルフが立っていた。その人物を見てシェリーは目を細める。
「この度はわざわざシーラン王国に足をお運びいただきまして誠に「まったくじゃ」」
宰相のヴァランガの言葉を遮って青い髪の女性が口を出す。さも不満そうに、美しい顔を歪ませ、目の前の者達に視線を向ける。
「なぜ、妾達が畜生の国に足を運ばなければならないのじゃ」
「本当に獣臭くてたまらんな」
青い髪の女性に続くように紫の髪の男性が顔を顰めて言う。
「ここには居とうないから、さっさと聖女と名乗る者を差し出すのじゃ」
いつまでもエルフ族が中心で世界が回っているかのように思っているのだろう。これは長命の種族である弊害だろうか。
いつまでも変わらない。いつまでも自分たちが世界の頂点に立っていると思っている。
イーリスクロムはどう出るかとシェリーは静観しようと考えていると、ガタンと椅子が倒れる音が聞こえた。そちらの方に視線を向けると、女性のエルフを睨みつけるユーフィアが立っていた。
「あなた達は以前もそうでしたよね!人をモノのように扱って!聖女様はモノではありません!」
そう言えばと、ふとシェリーは思いだした。ユーフィアに今回の会談の内容は説明していなかったなと。ユーフィアがエルフ族に突っかかる可能性を考慮していなかった。
「なぜ、コルバートの魔女がここにいるのです」
ここに来て初めてエルフの族長が口を開いた。不機嫌そうに眉をひそめ、国王であるイーリスクロムに視線を向けている。
問われたイーリスクロムは困ったような表情をして答える。
「聖女が彼女をこの会談に参加させることを希望してね。詳しいことはきいていないんだよ。説明してもらえるかな?」
イーリスクロムは隣に座っているシェリーに視線を向ける。しかし、シェリーは何も話さない。ユーフィアに関する事を、何も話し合いが始まっていない状態で説明していいのかと考えを巡らす。
やはり、得策ではないと判断し、シェリーは、目の前のシェリーを汚物を見るような目で見てくるエルフ共に視線を向ける。
「そうですね。まず、教会から聖女の存在を宣言してもらいましょう。ただし、名ばかりの聖女です。私はあなた達の為に力を使うことはありませんし、国の要請を受けることもありません」
シェリーは質問とは違う答えを口にする。その言葉に青髪の女性が美人の顔を歪めシェリーに言葉を放つ。
「たかが人族の癖に何を言っておるのじゃ!聖女は妾たちの言う通りにすればよい。黙って従えばよいのじゃ!」
「そもそも、そちらが勝手に聖女と言っているだけで、聖女かどうかも怪しいな」
紫の髪の男性がシェリーに鋭い視線を向けてくる。二人の言葉にユーフィアが口を開こうとしたとき、エルフの族長のため息が室内に響いた。
「私は魔女が居る理由を答えろと言っているのです」
やはり、一族を全滅させるまでに至った力を持つユーフィアを危険視しているようだ。
「その件は後ほど話ますので、私が言った先程の事を認めてもらいましょう」
シェリーは先程言った事を再度念押しする。エルフの族長はユーフィアの存在を排除しなければ、話を進めないという態度をとり、シェリーは聖女として認めるのが先だという態度を示す。
二人の意見は平行線だ。
そんな二人の姿にイーリスクロムは困ったなと視線を巡らす。エルフ族の機嫌を損ねることは避けたいが、シェリーが問題行動を起こすことも避けたいのがイーリスクロムの本心だ。基本的にシェリーはルークの事さえ関わらなければ、無関心なので、話し合いはスムーズに行くと思っていたが、甘かった。
ユーフィア・ナヴァルが同席すると聞いたのはクスト経由だった。理由を聞いてもユーフィアの為だとしか言わないクストに、もう少し詰め寄って聞き出すべきだったと、今頃後悔していた。




