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「ササッち。治療して!私のダンジョンで死人を出さないのがモットーなの!」
陽子は中身のない鎧数体に命じて、満身創痍のスーウェンとオルクスとリオンを連れてきていた。
一番酷い状態なのはスーウェンだった。左側の肩から腰にかけて無くなっていた。
次がオルクスで、左足が皮一枚で繋がっている。
リオンは意識はあるようだが、血だらけで動ける状態ではないようだ。
「まぁ。ダンジョン内と言われればダンジョン内ですが、私の家でもあります。」
その動けない4人をゴミ虫を見るような目でシェリーは眺めていた。その姿を見た陽子は慌てて言った。
「私がきちんと自己紹介しなかったのが悪かったんだよ。おちょくってエンエンを引き合いに出したのが悪かったんだよ。」
エンエン・・・炎王の名前を出してリオンをおちょくったのだろう。
シェリーはため息を吐いて手をかざす。
「『聖女の慈愛』」
グレイの折れた手足もスーウェンの肩から腰にかけて無くなった部分もオルクスの取れた足も元通りに戻った。
意識があったリオンは体を起こして、見た目にはわからなかったがお腹の部分を触っていることから怪我を負っていたのだろう。
陽子はそんなリオンに近づいて行って側にしゃがみ込んだ。
「鬼くんごめんね。改めて、『愚者の常闇』ダンジョンのダンジョンマスターをしている陽子です。よろしく。私に敵意を持つと、こうなっちゃうから気をつけてね。」
そう言ってリオンに手を差し出した。しかし、リオンは自己紹介した陽子を見て疑問を口にする。
「ダンジョンマスター?ダンジョンマスターが何故ダンジョンの外にいる。」
「それはもちろんココもダンジョンだから。てへっ!」
「は・・・?」
思ってもいないことを言われてしまったのか、リオンの思考が停止してしまったようだ。
「うぁ!!あ・・・夢?」
オルクスの目が覚めたようだ。夢見が悪かったのか、飛び起きてきた。
「怖ろしい夢だった。中身がない鎧が湧き出てきて倒しても倒しても起き上がってくる不死身の鎧が!」
夢ではない現実だ。陽子がオルクスにそのことを教える。
「豹の兄ちゃん。それ現実。」
「なに!あんな鎧が現実にいてたまるか!一国が簡単に亡ぶレベルだ!ダンジョンマスターでも作って良いものと悪いものがあるだろ!」
「あ、それササッちと大魔導師様の共同作品です。」
「陽子さん、その言い方は不快です。」
陽子の言葉に不快だと言うシェリーは自分だけ夕食を食べている。カイルの膝の上に座らされて・・・。
陽子の言葉を聞いたオルクスは立ち上がってシェリーの隣の席に座り、にこりと笑いながら
「流石シェリーだな。」
と言った。不死身の鎧を作り上げたのが番であるシェリーと陽子とでは全く反応が違っていた。
「そういう反応なんだぁ。」
オルクスの反応に呆れながらオルクスと反対側のシェリーの隣の席に座る陽子。リオンはシェリーの向かい側の席に座って、陽子を見ていた。
「このヨーコという女は危険なんじゃないのか?」
リオンが陽子を睨みながら言う。危険。ココがダンジョンだと言い。そのダンジョンマスターだと言い。不死身の鎧を自由にできる存在。そんな存在が己の番の側にいることを危険視しているのだろう。
「陽子さんとササッちは心友だよ。」
「陽子さんと利害関係は良好です。」
陽子とシェリーから否定される。そして、シェリーはリオンが一番納得できる言葉を言う。
「陽子さんは炎王と同じ変革者です。炎王が世界の認識を変革する者なら、陽子さんは獣人の意識と能力を変革する者です。」
「そうなのか!」
「そうなのぉ?」
リオンと陽子の言葉は重なった。・・・陽子自身も知らなかったことのようだ。
「獣人の意識と能力の変革か。」
リオンの後ろから声が聞こえた。グレイの意識が戻ったのだろう。起き上がって陽子の向かい側、リオンの隣の席に座る。
「もう一度『愚者の常闇』に潜れば何か変われるか?」
今回のことで一番最初に脱落したグレイだ。まだまだ足りないものがあることに気がついたのだろうか。
「変われるかって聞かれてもねぇ。やっぱササッちの唐揚げ旨っ!」
口をモゴモゴ動かしながら首を捻る陽子。そして、こちらからは見えないがパネルのようなものを操作してるように左手を動かしている。
「そもそも狼くんは特化したものを持っていないよね。基本のお手本みたいに狼族の基本的なステータス。それに比べユーフィアちゃんの旦那さんは同じ狼族だけど攻撃特化型だよね。彼のステータス凄いよー。スキルも使える魔術も全て相手をどう効率的に倒し切るかに割り振っているものね。多分君達が苦戦した鎧も一撃で倒せるよ。」
その言葉にグレイはもちろんオルクスもリオンも項垂れてしまった。




