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「ササッち。ちょっと、困った事になっちゃった。」
陽子がキッチンの入り口に立ってそんな事を言ってきた。しかし、シェリーは唐揚げを揚げ続けている。
「陽子さんが対処してください。」
淡々と我関せずと唐揚げをシェリーは揚げている。しかし、ダイニングの方から何かが壊れる音やガラスが割れる音が響いている。
「流石にこの陽子さんでも無理かなぁ。ササッち。何とかしてもらえないかなぁ?」
「私は揚げ物中なので手が放せません。オリバーを叩き起こせばいいのでは?」
「ひーっ!それは勘弁!頼み事をすると色々こちら側の被害が大きくなるから駄目!」
陽子は両腕をさすりながら、首を横に振って否定をする。二人の会話の間も破壊音と何かを叫んでいる声が途切れることはない。
「何が起こっているのかな?」
キッチンに入っていると音と声は聞こえるが、何が起こっているか状況がわからないカイルが聞いてきた。ただ、金属のぶつかる音も聞こえてくることから、剣を抜いて戦っている様に思えるが、ここは家の中、それもダイニングでそのような音が聞こえてくる自体おかしいのだ。
「捻くれた大魔導師様が実験と言う名のお遊びで作った物が暴れてしまっているのよねー。」
陽子が困ったように両手を上げて答えた。
「先程、話した陽子さん専用の防衛機能です。」
シェリーが陽子の言葉の補足のように話したが、それだけでは全くわからない。
陽子は思いついたように手の平を叩いて
「そうだ。竜の兄ちゃんがあれらを止めてくれればいいんじゃない?レベル150は超えていないと流石にキツイと思うんだよね。ササッちどう思う?」
と、シェリーに聞いてきた。その言葉にシェリーは陽子をちらりと見てため息を吐く。
「はぁ。彼らが行動不能になれば収まります。カイルさんが相手にすると家の被害が大きくなるのでやめてください。あれ、50体はいるのですよ。」
今でも壁やガラスが破壊されている音が鳴り響いている。ツガイである彼らよりもカイルが参戦することにより、これ以上、家が破壊されることのほうが、シェリーにとって避けたいようだ。
しかし、カイルはシェリーと陽子にそう言わしめた物がどういうものか気になり、鍋から少し離れることをシェリーに断ってから、ダイニングの有様を見に行った。キッチンの入り口から少し顔を出して、直ぐに戻ってきた。
「あれは何かな?鎧?」
カイルの質問に陽子が答えた。
「大魔導師様の遊び心と稼働実験中の代物でーす。」
全く説明になっていない。カイルが見た光景は何十という鎧がダイニングや外の庭にに犇めき合っていた。しかし、鎧の頭がある部分に中身の頭は存在していなかった。
兜を被っている個体もいるが、人が動かせる可動域を超えた動きをしていたので、中身に何が入っているか、わからない物だったりした。
「いつだったか、陽子さんがとある兄弟の漫g・・物語の話をしていまして、オリバーが気になったそうです。」
唐揚げを揚げ終わったのか、スープの味付けをしながらシェリーが答えた。
「そうそう、肉体を失った弟の魂を鎧に定着させた話をササッちと話をしていたんだよね。なんでその話になったんだったっけ?忘れちゃったけど、盗み聞きしてい大魔導師様がその話を詳しく教えろってやってきてね。」
陽子がニコニコと話しだした。しかし、相変わらず陽子の背中の方からは騒がしい音が響いている。
「その後直ぐに、どこからか鎧を調達してきて、ササッちに擬似的魂を作れって言ったんだよね。」
「擬似的魂?」
カイルが陽子の不可解な言葉を思わず繰り返した。擬似的に魂と言うものが作れるのだろうか。
「そんな大したものではありません。」
炊きあがったお米をかき混ぜながら、シェリーが言う。
「世界の記憶からステータスのデータだけを再構築しただけなので、意思とか理性とか本能とかそういうものは一切存在しない世界の記憶の断片です。」
「でも、アレって本人たちより絶対強いよね。人って何かしら、躊躇というか戸惑いってやつがあるけど、アレには存在しないものね。容赦というものが無く力のままに力を奮う。怖ろしいモノだよね。パク。うま!」
陽子が唐揚げを盗み食いながら怖ろしいと口にするが、そもそも・・・。
「ダンジョンマスターのヨーコさんが止められないのは何故かな?」
カイルが根本的な事を尋ねた。シェリーは陽子の為に作られた防衛機能だと言った。意思を持たない力を振るうだけの人形なのだから、上位者の命令は聞くはずだ。
「そう思うよね。何を思ってそう設定したのか分からないけど、個体ごとに指示をしないといけないのよね。悠長に一体一体に指示を出してたら、後ろから斬られるってバカでも分かるでしょ!」
「それぐらい出来ないお前が馬鹿だ。」
誤字の訂正を致しました。ありがとうございます。




