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シェリーは3度の休憩を挟んで、本当に約1日で50階層までたどり着いた。裏ダンジョンの全ての階層は薄暗い洞窟が複雑に入り組んだ作りになっているため、今どの階層のどの辺りにいるのかわからなくなるところなのだが、シェリーは普通の人が持っていないマップ機能があるため、階層から階層に一直線に進んできたのだ。魔眼を使って。
そして、50階層を進んで行った先に大きな空間に出た。今まで薄暗い洞窟の天井と壁が何となくある事が確認できる幅だったが、全くもって目視できなくなる程の空間だった。
その空間の先には仄かに光る地面があるのだった。
「水が光っている?」
カイルが不思議そうにその先の青白く光る水を見つめながら言う。
「あれが神水?」
「ええ、そうです。」
そう言いながら、シェリーは光る水に近づき、空き瓶にその水を汲んで行く。
「ふふふ、これでルーちゃんが怪我をしても大丈夫。」
シェリーはニコニコしながら一本一本水を汲んでいるが、そもそも普通は訓練で四肢が無くなる程の怪我を負うことなんて皆無と言っていいだろう。それに、オリバー作傷薬が一般的に販売されているので、普通の怪我ならそれで十分なはずだ。
そんな強力な神水など宝の持ち腐れになることだろう。
シェリーはご機嫌で神水を亜空間収納の鞄に仕舞っている。
そして、斜め上を見ながら、新たにできた道を探す。あった。中央付近に何も無い空間があるとは思っていたが、そこに部屋のような空間が存在している。そこに向かってシェリーは進んで行った。
目の前には血のような赤い大きな扉が壁に埋まっている。この先に目的のモノがあるはずだ。
シェリーは扉に手を掛け両開きの扉を開け放った。中は何も無い空間だ。ただ、岩の壁と天井が存在しているだけの空間だった。
シェリーとカイルが中に入ると扉がバタンと閉まり、部屋の中央付近に陣が光りながら形成されている。
何かが召喚されてくるのだろう。シェリーは黒刀を構え、カイルも大剣を構える。
陣の光が強くなり、光が収まった後には、一人の男性がその場所に立っていた。
「あ・・・なぜ?なにが?」
その人物を目にしたシェリーが狼狽え始めた。目の前の人物は煌めくような金髪にシェリーと同じ桃色の瞳。その瞳はシェリーたちを睨んでいるように鋭い視線を向けている。
「ルーちゃん?」
13歳のルークではなく、20歳前後と思われる姿なのだが、その雰囲気はシェリーの知っているルークではなく、荒み歪んだ雰囲気を纏っている。
そのルークから魔力の高まりを感じたかと思えば、辺り一面に火の矢、風の刃、氷の剣が潜在していた。それが、一斉にシェリーとカイルに向かって攻撃してきた。
シェリーはその攻撃を往なしながら、混乱しながらも考える。目の前のコレはなんだと。
カイルがルークに攻撃していいかとシェリーに視線を向けているということは、ルークだがルークではない何かということかと結論づけ、シェリーは攻撃を避けながら、ルークに近づいて行き、スキルを使って思いっ切りぶん殴る。
殴られたルークは壁までぶっ飛んで行き、そこにはマスターリッチが倒れていた。この王の嘆きダンジョンの表側のラスボスだ。
「よくも私のルーちゃんに化けてくれたわね。」
シェリーは笑いながら怒気を纏い、倒れたマスターリッチに近づいて行く。
その姿をみたカイルはマスターリッチを可哀想な子を見る目で見ていた。
マスターリッチは顔を横にブンブン振りながら、自分は悪くないアピールをしているが、シェリーにボコボコにされる未来は決定されたのも同然だった。
塵のように消えていくマスターリッチを見つめながら、まだ腹の虫が収まらないのかシェリーは壁を蹴っている。そして、この空間に響くような大声でシェリーは叫んだ。
「アリス!さっさと示しなさい!」
するとシェリーが蹴っていた壁が光だし、壁が無くなった。いや、壁がこの部屋を鏡のように映し出したのだ。しかし、そこにはシェリーもカイルも映っていない。映っているのは黒髪の碧目の耳の長いエルフの少女が映し出されていた。
『怒っちゃった?怒るよね。でも、知りたかったのでしょ?気になっていたのでしょ?無くなってしまった未来。なので、その未来のルーク君を再現してみました!パチパチパチ。』
「未来のルーちゃんがあの姿に?」
『どうだった?でも、よかったね。そうならなくて。まぁ。どちらの未来が良かったなんて本人次第だけど。』
向かい合っている二人は会話をしているようで、会話はしていない。なぜなら、アリスは2千年前に殺されているのだから。だから、これはアリスという少女が未来に向けて残したものだ。
『それじゃ、今回は・・・まずはおめでとうって言っておくかな?揃っちゃったんだよね。番。』
その言葉にシェリーはアリスが映し出されている壁を殴る。
『殴っても無駄ね。』
「いつもながら、貴女の未来視は恐ろしいですね。」
『褒めても無駄ね。』
「褒めてません。」
シェリーは真顔で言葉を返した。
 




