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ダンジョンマスターのユールクスのこだわりで作られた3階層にいたシェリーは1階層まで戻っていた。
3階層からも列車が出ており、1階層まで戻ることができるのだ。
そして、シェリーとカイルは再び赤レンガの建物の前にいる。
「シェリーはこの場所を知っているのかな?」
カイルはユールクスが言っていた言葉が気になりシェリーに聞いてみた。ユールクスが異世界を模したというこの不思議な場所をシェリーは知っているようだという言葉だ。
「ダンジョンの1階層ですが?」
「そうではなくて、この風景をシェリーが知っているようだったとダンジョンマスターが言っていたけど、ここが何処を模したのか知っているのかな?」
「ちっ!」
シェリーはユールクスにイラッときた。シェリーが気を失っている間にいらない事をカイルに言ったようだ。
「ここが何処を模したなんて、どうでもいい事ではないのですか?ユールクスさんのこだわりと言うだけです。」
「じゃ、言い換えよう。この街の何が嫌なのかな?」
何が嫌?
全て、全てがシェリーをイラつかせるものだった。
もしかして、自分は病院にいるのではないのだろうか。ただ夢を見ているだけなのではないのだろうか。
家に帰れば家族が自分の帰りを待っていてくれているのではないのだろうか。
行き付けの喫茶店に入れば、いつも通りマスターが珈琲を淹れてくれるのではないのだろうか。
期待を持ってしまう心が存在し、そして、それが裏切られる。残るのは虚無感のみ。
「では、逆に質問します。ここにユールクスさんがセイルーン竜王国を再現していたらどうですか?」
シェリーのその言葉を聞いてカイルは理解した。己が生まれ育った国を形だけ模されたとしたら、それは己にとって何も無いのと同じではないのだろうか。
「ごめん。」
「分かってくれたならいいです。」
話が終わったのを見計らってか、添乗員姿の小旗を持った女性のレイスが赤レンガの壁から出てきた。
『裏ダンジョンに行かれるお客様。ご準備はお済みでしょうか?』
レイスの女性はシェリーとカイルに聞いてきた。
「少し待って下さい。」
そう言ってシェリーは赤いブローチの様な物を取り出した。それは赤い魔石に金色の装飾が施され、魔石の中にはラース公国の紋章が浮かび上がったものだった。
それにシェリーの魔力を流すと魔石が仄かに光り出した。
『シェリーミディア様どうかされましたか?』
魔道具と思われるものから、男性の声が流れてきた。
「ダンジョンの掃除の為に魔眼を使いますので、許可を下さい。許可してくれますよね。」
シェリーは魔道具に向かって言った。
『・・・最近、よく使っていらっしゃいますよね。炎国でも今いらっしゃいますギラン共和国でも使用していますよね。』
「何か問題でも?」
『問題です。』
「ちっ。こっちも色々問題があるのです。レベル1ぐらいいいじゃないですか。」
『いいえ。何の為に管理していると思っているのですか?』
「じゃ、ナディア様に許可をもらえばいいですか?別にあなたの許可でなくてもいいですよね。」
『あ。ち、ちょっとお待ち下さい。』
『シェリーちゃん。今、ギランにいるのよね。』
別の人物に代わったようだ。
「そうですが、なんですか?オーウィルディア様。」
現在、大公代理を努めているオーウィルディアの声だった。
「リュエルに代われないかしら?」
リュエル・・・
「ギルドマスターですか?今はダンジョンにいるので無理です。」
『そうなの?『王の嘆き』にいるの?Sランクの『青の炎』が借りれないかと思ったのだけど・・・。』
「クソ勇者では駄目なのですか?」
『ナオフミはこの前シェリーちゃんが言っていたイアール山脈の魔物の討伐をお願いしているから、いないのよ。ビアンカも一緒に行ってしまったから・・・はぁ。』
「何が起こっているのですか?」
『次元の悪魔が3体出現したと報告があったのよ。あたし一人じゃ流石に対処できないわ。放棄された町に出たらしいから、今の所、街への直接被害は無いのだけど、それも時間の問題よね。』
次元の悪魔が3体それは流石にオーウィルディア一人では対処が難しいだろう。しかし、シェリーはユールクスの依頼を受けている身だ。今すぐラースに向かう事はできない。
「1日持ちますか?」
『1日ね。ギリギリかしら?はぁ。こんなことになるとわかっていれば、ナオフミを公都に留めて置いていたのに。』
「いないクソ勇者を当てにしても仕方がないです。1日で裏ダンジョンの掃除をしますので、魔眼の使用許可もらえますよね。その後、ヴァンジェオ城に転移します。」
『え?裏ダンジョン?掃除?どうい』ブチッ
シェリーは通信を強制的に切った。これ以上は時間の無駄だと言わんばかりに




