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オリバーは裏庭に横たわり、人形のように抵抗しなくなったエルフの長の前に立つ。
この様になるまで、オリバーは魔術を一切使わず、エルフの長をボコボコにし、シェリーに傷を癒させるということを繰り返していた。
魔術が魔導術が得意な魔導師が魔力を一切使わずに魔導術に長けたエルフをボコボコにしたのだ。お前などに魔術で相手をする価値などないと言わんばかりに。
その立ち姿は今までよくわからない液体が掛かった長い衣服が、今では相手の血で染まっているので殺人者にしか見えない。
「お前達は聖女の言うとおりに動けばいい。それだけだ。わかったな。」
「はい。」
あの傲慢なエルフの長が素直になるほど、事を繰り返したのだ。オリバーは振り返り
「スーウェンザイル。」
スーウェンに呼びかけるが、呼ばれたスーウェンは若干逃げ腰である。
「は、はい。」
「コレを元のところに返して来なさい。それで、聖女の指示に従う体制を作るように言いくるめて来なさい。」
「はい。」
スーウェンはオリバーの言葉に従い、エルフの長と共に転移をした。そして、オリバーはシェリーの方に歩いて来て、
「昨日、不機嫌な様子で戻って来たと思ったら、朝から騒がし過ぎる。シェリー・・・シェリー君か?」
オリバーは落ち着いて見たシェリーに首を捻り、シェリーを観察するように見ている。
「ああ、久しぶりと言えばいいのか。シェリー。お詫びはカレーでいい。」
オリバーはやはりシェリーの違いが分かるようだ。カレー・・・この前作ったはずだ。鍋いっぱいに、もう食べてしまったのか?
「先日の鍋いっぱいのカレーはどうしました?」
「ない。」
もしかして、毎日カレーを食べていたのだろうか。
「はぁ。スパイスを買ったばかりなのに、わかりました。作っておきます。それから応接室の壁は直してください。」
そう言って、シェリーは風通しの良くなった応接室に戻って行った。
裏庭が見える応接室の場所にユーフィアとクストが裏庭での様子を見ていたのか、壊れた壁のところに立っていた。
「シェリーさんのお父さん?ってすごく美人ねルーク君によく似てるのね。」
ユーフィアのその言葉にシェリーは鳥肌が立ってしまった。あのオリバーが父親だなんて嫌過ぎる。あのクソ勇者が父親であるのも否定するが
「ユーフィア違うぞ。こいつの父親は・・・。」
クストが訂正しようとするのを睨んでやめさせる。
「応接室に風穴が空いてしまったので、リビングにどうぞ。」
シェリーはその風穴の空いた壊れた壁から中に入り、ユーフィアをリビングに誘導する。しかし、ユーフィアは付いて来ずに立ち止まったままだ。
「どうかしましたか?」
「あの、シェリーさんのお父さんに謝っておきたいの。朝から騒がしくしてしまったから・・・。」
確かに今日の予定にユーフィアの訪問は無かった。
「お好きにどうぞ。」
壁の直しに来たと思われるオリバーがこちらにやってきた。
「朝からご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」
ユーフィアはそう言ってオリバーに頭を下げる。そんなユーフィアを見たオリバーは
「コルバートの魔女か。魔武器を作った魔女。」
「え、ええ。」
「神に選ばれた魔女。神に気に入られすぎるとシェリーのようになるから、程々にしておくと良い。」
酷い言われようだ。オリバーは室内に入り、壁を元通りに戻す。相変わらず手際がいい。
それはそうだろう。佐々木が破壊行動を起す度に呼び出され、直させられたのだから。
「カレーを宜しく。それじゃ、おやすみ。」
壁を直したオリバーはカレーの要求を念押しのようにして、地下に戻っていったが、溶けた扉はそのままだった。
「それで、ここで話の続きをしますか?それとも場所を移しますか?」
しかし、ユーフィアは場所を移動するかどうかよりも気になる言葉があったようでシェリーに近づき
「カレーが!カレーがあるのですか!食べたいです。」
「師団長さんみたいなことを言わないでもらえますか?」
何故。夫婦そろって食べ物を要求されるのだろう。シェリーの言葉にユーフィアは真っ赤な顔になってしまい俯いてしまった。
「だって、ホッとしたらお腹が空いてしまって、カレーなんて聞いてしまったら、思わず・・・。」
確かにもう6刻の鐘がなっていたので、正午を過ぎている。カレーの元となるスパイスを手に入れようと思えば炎国に行かなければ手に入らない。ギラン共和国に輸出もしているようだが、それは全て共和国内で消費されてしまい、他国に売られることはないので、手に入らないのだ。
「メール機能を持った通信機でもを作ってもらいましょうか。」
シェリーはカレーを作る代わりに、ユーフィアに携帯電話の作成を交換条件として提示をした。もちろん通信相手はルークである。




