168
「勇者召喚を行ったことには、別の意図があったのかもしれませんが、召喚した者が魔道具に使われている文字を使えることがわかり扱き使われているのでしょう。
以前一度私は貴女に言いましたよね。世界からの恩恵を受けている為に貴女は魔道具を作れているのだと、しかし、世界から喚ばれていない者がこの世界に来た場合はどうなのでしょう。
私は想像もできませんが、魔力は存在するのでしょうか?言葉ははなせるのでしょうか?どうなのでしょうね。」
「え?でも、一度お会いした関西弁の勇者の方はこちらの国の方と普通に話をされていましたし、魔力もとても多く持っていましたよ。」
「クソ勇者の関西弁は言語翻訳スキルでこちらの世界の人達と問題無く会話が可能になっています。あのクソ勇者自体には問題がありますが、世界から勇者として存在できる様に各種能力が与えられています。」
「クソ勇者・・・。でも、魔力がなければ魔道具の陣が描けません。」
「元になるものさえあれば、後は貴女が量産するために用いた方法を取り入れればいいのです。これは貴女が始末を付けなければならない事ではないのですか?」
ユーフィアはブルリと震えた。マルス帝国であった事を思い出したのだろう。
「わ、私があの帝国に手を出せばきっと家族や領民の首を送り付けられることになります。あの時、あとに・・・。」
ユーフィアは顔を手で覆い泣き出してしまった。横にいたクスト魔道具を引きちぎり、シェリーに掴みかかろうとしたが、カイルに阻まれてしまった。
「クソ餓鬼!いい加減にしろよ!黙って聞いとけば、8年前と同じくユーフィアを追い詰めやがって!」
8年前、それはシェリーが赤の病に罹り、ルークが奴隷としてさらわれてしまった年であり、シェリーがマルス帝国で最大のコートドラン商会を壊滅させた年でもある。
そのときクストとユーフィアも共にそこにいた。
その後、ユーフィアが行ったことに対してサウザール公爵が警告を送り付けてきたのだ。
「切り落とされた手首が送られて来たと聞きました。」
シェリーがユーフィアが言いどもってしまった言葉の続きを言った。親しい者の手首だったと。シェリーの言葉に対しクストは咆哮を上げ、カイルを制してシェリーに殴りかかろうとするが、それもカイルに止められてしまった。
「銀爪!邪魔をするな!」
「シェリーを傷つけられるのはこっちも我慢がならない。」
一触即発になるかというその時、シェリーが柏手を打つように二回手の平を打った。何か空気が変わったかのように手のひらが叩かれた音の余韻だけが響いている。
「ユーフィアさん、いつまで逃げているのですか?家族を置いて領民を置いて、ご自分だけこの国に来て幸せですか?私は置いて逝ってしまった人達に二度と会う事が叶いません。後悔ばかりが残るのです。」
シェリーのその言葉にユーフィアがハッと顔をあげる。その瞳からはハラハラと涙がこぼれ落ちていた。
「お膳立てはしましょう。別にサウザール公爵と向き合えと言うつもりはありません。貴女が残した呪いに対する解呪する機会をもう一度用意しましょう。貴女が逃げ出した事で犠牲になった人に手を差し伸べる機会を用意しましょう。その代わり作って欲しい物があるのです。どうですか?」
シェリーは提案を持ちかける。ユーフィアのトラウマに対してそれを解消させる機会を与えるので、シェリーの望む魔道具を作って欲しいと。
ユーフィアはシェリーの言葉に戸惑いを見せる。一見、ユーフィアの方に利がありすぎるように思えたのだ。
「何を作るのでしょう?」
「人形を一体。」
「人形?何のです?私、それも専門外ですが?」
「別に立体映像でも構いませんよ。まぁ、私には理解出来ませんが、初恋の君らしいです。」
シェリーのその言葉の一部にカイルとグレイとオルクスが反応し、シェリーに詰寄って来た。
「「「初恋の君って誰!」」」
「私ではありません。その人物は見たことも会ったこともありませんから。でも、貴女はこれから会う機会があるはず。それで、どうされますか?」
ユーフィアはシェリーに頭を下げ
「私にもう一度、機会を下さい。以前の様に何も準備も無く思いつきで行くのではなく。私の負の清算をする機会をください。」
そんな姿のユーフィアを見てシェリーは満足したように頷き
「契約成立です。そろそろスーウェンさんが結果を持って帰って来る事でしょう。」
シェリーは斜め上の空間を見ながら、そう言っているがその顔は怪訝な顔つきに変わっていた。
そして、先程スーウェンがいた場所に転移陣が展開され、スーウェンが戻って来たのだが、もう一人付いてきていた。
深い緑の髪に青い目の中性的な容姿のエルフがスーウェンの横に立っている。スーウェンの父親であり、エルフの族長であり、全ての教会の頂点に立つ教皇、その人物である。
誤字を訂正致しました。ご指摘ありがとうございます。




