161
本当にこの世界の人達はツガイのことになると人が変わったようになるのは何とかならないものだろうかと、シェリーは頭が痛くなってきた。
一番の課題は目の前の人物だ。一国の王太子という立場の人物に対してどう対処すべきか、とても悩むところだ。
いざとなれば殴ってもいいだろうか。斬るよりはマシなはずだ。
相変わらずシェリーの脳内は力のゴリ押しでなんとかしようという答えに行き着いた。シェリーは意を決して言葉を紡ぐ。
「王太子殿下に「リオンだと言っただろ?」ちっ。」
意を決して話しだしたにも関わらず、王太子に邪魔をされたことに対して思わず舌打ちをしてしまった。
「リオン様にお話が「敬称もいらない呼び捨てでいい。」ギリッ。」
呼び名如きで一々話を遮らないで欲しいと目の前の王太子を睨み付け、炎王を睨みつける。この王太子の横槍を入れさせないようにしろという意味を込めた視線だ。
「はぁ。リオン、黙って佐々木さんの話を聞きなさい。でないと佐々木さんが機嫌を損ねて帰ってしまうぞ。若しくは、刀の試し斬りで斬られるか、燃やされるか。」
炎王は先程の憂さ晴らしの手合わせの嫌味だろうか。最後の言葉はいらないように思える。
「はい。」
やはり、炎王の言葉は聞く耳を持つようだ。しかし、シェリーの帰りたいゲージは赤く点灯している。もしこれ以上話の腰を折るようなら自分だけ帰ろうと決意し、再び話し出す。
「リオン様にお話があります。一つはアフィーリア姫のツガイが私の弟だとわかりました。しかし、私はアフィーリア姫を弟とつがわす事には反対です。
なぜなら、この国では金色の髪は異質であり、私が住んでいる国では黒髪が異質だからです。他国の黒に対しての異常なる態度は炎王もご存知なことなので、耳にしたことはあるかもしれません。
ですので、アフィーリア姫には最低条件として一人で下町で暮らせるようにということを突きつけました。このことは炎王にも了承は得ていますので、それができるまで絶対にこの国から出さないようにお願いしたいのです。」
「確かに我々黒を持つ者たちは5千年前から白き神を崇める者たちから迫害され、この島国に逃げて来たと教えられたが、5千年も前のことだ。未だに黒が迫害されているというのか?」
「それはカウサ神教国のことですね。4千5百年前に滅びましたが、滅んだ原因が黒を纏う者たちであったため、未だに語り継がれている話になります。黒は魔人の色だと、そして悪災を招いた黒の悪魔の色であると。」
「だったら、アフィーリアと弟くんがここで暮らせ「リオン!それ以上は口にするな!死ぬぞ!」」
炎王が慌てて王太子の言葉を止めた。王太子は炎王と同じ事を口にした。シェリーの怒りを買った同じ言葉を口にしてしまった。炎王は伺い見る。シェリーの目が揺らめいている事に危機感を覚え、炎王がシェリーを落ち着かせる言葉を必死でさがしていると隣に座ってる緑の白髪の女性が言葉を発した。
「王太子殿下。ラースをこの国に住まわす事に私は反対です。」
「ラース?」
王太子は女性が言った言葉の意味がわからないようだ。
「ああ、ラースはこの国には来たことはありませんでしたね。そこのエンさんのお気に入りの少女以外は。
そして、ラースは危険です。一人で十万の神兵を殺したそうですし、あの暴君レイアルティス王の猛攻も撃退したラースです。そんなラースをこの国に置くことはなりません。」
きっと彼女はその話を耳にするほど長く生きており、ラースの一族の危険性というものを熟知しているのだろう。その時を生きた人物からの言葉は重い。
「ラースと言うのは国の話では無いのか?」
この国から出ることのない王太子の知識にはラースという言葉は国の名前しか無いようだ。
「ラースと言うのはピンクの魔眼を持つ者たちの総称だ。やはり、この国から出ないと言うのは知識の偏りがみられるな。」
炎王は王太子を見ながら他国との外交が極端に少ないこの国の欠点を述べる。炎王のその言葉に王太子はシェリーの揺らめく目を見る。
「魔眼。」
「と言うことですので、王太子の提案は却下します。」
緑の白髪の女性がそう言葉を締めくくった。シェリーの魔眼が発動される危険性は去さったが、シェリーの苛つきは収まりそうにない。
もう、帰ろう。王太子にツガイ云々の説明も面倒だ。どうして避けていたのに自らそんな事を言わなければならないのだ。
シェリーは魔石をそっと取り出す。その行動にカイルは気がついているが、何も言わずにいる。
そして、魔石を床に落としながら立ち上がり、シェリーは炎王に向かって言う。
「炎王。そういうことなんで帰ります。」
「え?佐々木さん、待ってくれ肝心な事を言ってくれていない。」
「は?なぜ?私には必要の無いことですが?それで・・ちっ!『転移!』」
シェリーはメイルーンの家のリビングに戻ってきていた。しかし、シェリーの視界には黒い前髪が映り込んでいた。




