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「本当に手合わせをするのか?」
訓練場らしき場所に連れてこられたが、シェリーの目の前にいる炎王はこの場にいても渋っている。
「報酬にしては安いものだと思いますよ。」
「はぁ。確かに金銭は掛かっていないが、コレってただの憂さ晴らしだろ?」
「それが何か?」
「憂さ晴らしって認めるのかよ。」
そんな二人を遠巻きにいるのは、先程までここで訓練していた鬼族の兵達とシェリーのツガイ達だ。
鬼族の兵達の反応は初代様が戦うと言うことで興味津々の者、シェリーを不可解そうに見る者、どう見ても人族にしか見えないシェリーをあざ笑う者、様々だった。
「諦めて構えてください。でないと本気で死にますよ。」
そう言いながらシェリーは先程ドワーフの親方から受け取った黒い刀を取り出した。それを見た炎王は
「は?・・・何だそれは。魔剣か?意思を持っている?」
まだ、鞘から抜いていないのにもかかわらず、刀の特性を言い当てた。
「親方さん曰く、狂剣一歩手前だそうです。」
と言いつつシェリーは刀を鞘から抜く。
「どう見ても狂っているだろ!ファブロのヤツ何を作ったんだ!」
「刀。」
そうシェリーは答え、炎王に斬りかかる。そのシェリーの刀をどこからともなく取り出した長剣で弾いた。いや、片刃の反りが強い剣なので大太刀だろう。
「見た目の話じゃねぇ!」
シェリーは弾かれた刀を構え直し、炎王に再び斬りかかる。数度打ち合うが、両者の力は同等なのか拮抗している。
傍目から二人の刀技を見てみても速すぎて目に追えない程なのだが、残像と刀のぶつかる音で両者の間で決定打がないとわかるぐらいだ。
そして、シェリーが刀を構えスキルを発動させる。
「『裂刀』」
シェリーがスキルを発動し刀を振り斬った瞬間、炎王は跳躍し、シェリーから大きく離れ距離をとる。シェリーと炎王の間に風が吹き抜け、炎王がいた場所の地面には大きくえぐれていた。
「本気か!ヤバすぎるだろ!『氷雪の天地!』」
シェリーの攻撃に命の危機を感じた炎王は魔術を発動させる。炎王の周りから徐々に地面が凍りつき・・・いや、空気でさえも凍りつき、辺りにはキラキラと光るダイヤモンドダストが煌めき始めた。シェリーの吐く息も白くなってきている。
「『白き業火の灰燼』」
シェリーの白き炎が凍りついた世界を溶かしていく。しかし、炎王の作り出した白き世界が白き炎を侵食していく。2つの白がせめぎあう。その力の渦は高く広がり、天をも貫いた。そして、2つの力は爆散し白き灰が、白き雪がこの炎国に降り注ぐ。
「その魔術、凶悪過ぎません?」
白き灰が降り注ぐ中、シェリーは炎王に尋ねる。
「その言葉そっくりそのまま返す。」
白き雪が舞い降りていく中、呆れ顔の炎王が答える。
シェリーは黒い刀を鞘におさめ炎王に礼をする。
「手合わせありがとうございました。」
「はぁ。こんなにヒヤヒヤしたのは久しぶりだ。まさか、レベル124で俺とまともに打ち合えるとは思ってもみなかった。」
炎王はやはり、シェリーと同じように人や物の詳細を見ることができるようだ。
「努力はしていますので・・・?」
努力でレベルの差が埋められるはずが無い。そして、シェリーは最近常時開きっ放しにしているマップ機能で、ここに近づいて来る人物がいることに気がついた。それもすごい勢いで近づいてくる。とても嫌な予感がし、慌てて炎王に向かって言う。
「炎王。用件は済みましたので、帰らせていただきます。」
シェリーの突然の帰る宣言に炎王はニヤリと笑い。
「ルークくんはもう学校に通っているから、今までみたいに急いで帰る必要ないよな。今日は泊まって行くといい。」
「お断りします。」
そう言ってシェリーはここから出るために歩き出そうすれば、腕を掴まれ。
「温泉もあるぞ。」
「知っています。公衆浴場に行きました。」
「ここにあるのは俺がこだわり抜いて作った温泉だから、公衆浴場とは違うぞ。」
「いい加減に離してください。わざとらしい足止めも必要ないです。」
炎王はシェリーが何に焦っているのか、わかっているようだ。シェリーの目線が炎王と空中を行き来する。
「会うぐらい良いだろ?」
「くっ!」
シェリーは掴まれた腕を炎王に押し付けるように近づけ、体を回転させ炎王との場所が入れ替わる。
「あ。そう来たか。」
シェリーと炎王の場所が入れ代わり、炎王の背中越しに見えるのはアフィーリアに似たその男性の黒髪の間から2本の角が出ており、金色の目は炎王越しにシェリーを捉えていた。
補足
炎王と呼ばれながら氷属性を使っていますが、間違いではありません。炎国は温泉があることから火山がある国となります。火の国の王という意味の炎王となります。
彼自身の名に漢字を当てるなら別の文字になりますが、彼の物語ではないので省きます。




