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シェリーは炎王と共に元来た廊下を戻っていた。リリーナは病み上がりなので、数日静養が必要なため、お付きの人にまかせ、シェリーのツガイが待機している部屋に向かっているのだ。
そこで、今回の報酬の話をするつもりなのだが、先程から外廊下を渡った先の建物が騒がしい。カイル達がいる建物になるはずなのだ。
「何だ?騒がしいな。何があった。」
炎王も気になったようで、炎王が廊下を通るということで、頭を下げ道をあけていた鬼族の女性に尋ねている。
「はい!ア、アフィーリア姫様が客人に言いよっているようでして・・・。」
いきなり炎王から話し掛けられたことで驚いたのか、若干声が上ずっている。そして、その女性が言うにはアフィーリアがカイル達にいいよっていることらしいのだが、何か文句でもあったのだろうか?
客室の為、庭が見渡せる作りの部屋なので、外廊下からは見えないようになっていたはずだ。
しかし、女性の言葉を聞いた炎王は大きくため息を吐き
「はあー。またか。」
と言っていることは、よくあることらしい。何やらアフィーリアと思われる甲高い声が響いている。『妾が言っておるのじゃ。』とか『妾はこの国の王族じゃぞ。』とか聞こえることから権力で相手を従えようとしているみたいだ。
「リア姫、いい加減にしろ!」
部屋に入るなり炎王がアフィーリアを諌める。シェリーが炎王の横から部屋を覗き込むと、円卓を囲み椅子に座ったカイル達4人を背に黒髪金目の頭に白い角が2本生えたアフィーリアが振り返っているところだった。
もしかして、あの4人に権力で何かしら従えようとしていたのだろうか。オルクス以外は王族であり、公族であり、教会を束ねる支配者だったりする。そして、オルクスも権力というものに興味がない。そんな彼らに何を言っていたのだろう。
「だって、いい男が4人もいたら、一人ぐらい妾の彼氏になってくれてもいいじゃろ?」
・・・。どうでもいいことだった。シェリーは炎王の背中を押してさっさと交渉をしようと別の円卓を指す。
「あ!シェリー来ていたのかえ?」
アフィーリアは炎王の後ろにいたシェリーに気が付き近寄ってきた。
「アフィーリア、私は仕事で来ているので、あそびに・・・」
シェリーはアフィーリアを視てしまった。リリーナに『真理の目』を使用して、そのままにしていた。それで、アフィーリアを視てしまったのだ。シェリーはフルフル震え膝から崩れ落ちる。
「佐々木さん!」
「「「「シェリー!」」」」
どうしたのかと皆がシェリーに近づこうと立ち上がったとき、シェリーもゆらりと立ち上がりアフィーリアに近づいて行く。
そして、アフィーリアの胸ぐらを掴み。
「アフィーリア。貴女がルーちゃんのツガイってどういうこと?」
シェリーのハラワタは煮えくり返っていた。いつだったかルークにツガイをあてがったとあの謎の生命体が言っていた。それが炎国の王太子の姫だなんて!わがままアフィーリアだなんて!一体あの謎の生命体は何を考えているんだ!
シェリーの母親であるビアンカが一国の姫であるが故にシェリーが苦労したことくらいわかっているはずなのに、それでも敢えてルークのツガイをアフィーリアに決めた理由を説明してほしいものだ。
「番!妾の番を知っているのか?ルーちゃん様と言うのか?」
アフィーリアは胸ぐらを掴まれているにも関わらず、キラキラした目でシェリーを見ている。
「クソ神!出てきて説明しなさい!私のルーちゃんのツガイがアフィーリアなんて私は認めない!」
いつも淡々と話すシェリーが取り乱しながら話している。溺愛するルークのツガイがアフィーリアであることが許せないようだ。
「シェリー。ルーちゃん様に会わせるのじゃ。」
「私のルーちゃんに会わせるわけないでしょ!母親が一国の姫であることで私がどれだけ苦労したと思っているの!炎王!」
シェリーは今度は炎王に詰め寄り、炎王がビクリとし一歩下がる。
「な、なんだ?」
「私の母親と同じ自分自身では何も出来ないアフィーリアをルーちゃんに会わせることはありません。絶対です。」
「リア姫が何も出来ないってことはないと思うぞ。」
「この国で金髪が異質であるように、他国で黒髪がどういう扱いをされるか忘れられたと?」
「あ・・・。」
炎王は今思い出したかのように声を漏らす。
「酷いところでは石を投げられ、魔術で攻撃をされる。だから外に行くのが嫌。洗濯は手が荒れるから嫌。料理も作れない。そんな母親の子供がまともに生きていけると?」
「いや、ルークくんがこの国に・・・っ。」
炎王は再びもう一歩下がる。シェリーの目が揺らめき炎王を睨みつけている。
「今、騎士になるために学園に通っているルーちゃんにこの国に来ればいいと?人族でしかないルーちゃんに鬼の国に来いと?巫山戯てます?」
その言葉と共にシェリーの魔眼の力を炎王にぶつけた。




