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この炎国の中枢の担うところは町の中心部にあった。広く大きな敷地には8つの門があり、そこを通らなければ入れないように高い塀で囲まれていた。門から入れば、様々な政治を行う建物があり、その奥には更に高い塀と門が行くてを阻み、王族の住まう敷地となるのだ。
しかし、シェリーは一番手前にある門で足止めをくらっていた。炎王からの通達が行き届いていないのか、通してもらえないのだ。
確かに、いつも炎王に用がある時は、シーラン王国にいる青鳥人の外交官である彼女と共にここを訪ねるので、ここの検問で引っかかる事はなかった。しかし、今回はそうではなく、他国からの訪問者という形をとっているのだ。
「はぁ。ですから、初代の炎王に呼ばれたのです。」
「この中に他国の者を入れるなという通達だと何度も言っているだろうが!初代様に近づこうとする不届き者め!」
このやり取りは3回目である。なので、シェリーは諦めた。炎国には来たという痕跡は残せたので帰っても問題ないだろう。きちんと通達をしていない炎王が悪いのだ。
「それでは、炎王に佐々木が来たとだけ言っておいてください。絶対に言ってください。じゃないと私が約束を破ったみたいになるので、炎王が悪いときちんと言っておいてください。」
「え?」
シェリーは踵を返して元来た道を戻っていく。
「シェリーよかったの?」
カイルが聞いてきたが
「あれ以上、あそこに居座っても時間の無駄です。どうせ、南方の商人の問題で他国民を入れるなという通達を彼は律儀に守っているだけでしょうから。それなら、買い物だけして帰ります。」
「それだと、ドラゴンの解体は終わってないよな。」
グレイが残念そうに呟く。
「そうだよな。シェリー。また炎国に来るか?」
オルクスは親方の作った剣がそこまで欲しいのだろうか。
そうして、シェリーは先程いた商業地区で爆買いをしていた。最近消費率が激しくなってきたので余計に買う量が増えている。
「醤油をここからここまでと、味噌を1樽、米を5俵と」
「ちょっと待ってくれ、いつもながら突然来て大量に買っていくが、今日は多すぎないか?倉庫から出して来るから時間をくれ。」
そう言っているのはこの店の店主の鬼族の男性である。
「まだ、スパイスの注文をしていませんが?」
「ああ、おい!手が空いたらこっちに来て、お得意様の嬢ちゃんの注文を受けてくれ!」
その呼びかけに『はーい。』と奥から鬼族の女性が出てきた。
「あら?シェリーちゃん、久しぶりね。何がいるのかしら?」
「ここからここまでのスパイスを全部ください。」
「・・・買いすぎじゃないのかしら?在庫が無くなってしまうわ。」
「私の在庫も無いのです。」
最近、二回も連続でカレーを作った為にシェリーの手元にあるスパイスが無くなってしまったのだ。購入するそのスパイスの大半もオリバーの胃袋の中に収まってしまうのだが。
「じゃ、このまま蓋をして渡してしまっていいわよね。」
「構いません。」
「前も言ったのだけど、できれば事前に来る日を教えて欲しいわ。」
そう言いながら、鬼族の女性は壺いっぱいに入っているスパイスに蓋をしてシェリーに受け渡していると、外が騒がしくなってきた。
最初はざわめきだけだったのだが、途中から悲鳴が混じっている。いや。恐怖による悲鳴ではなく、歓喜の黄色い声に近い。
まあ、シェリーには関係がないことなので、精算をする。あとは、奥から店主が残りの商品を持ってきてもらうだけなのだが、そこにいきなり店の引き戸が開けられ
「ここか!」
という大声が店の中に響き渡った。
シェリーが振り向けばそこにいたのは、炎王だった。
「し、初代様!」
店の鬼族の女性は跪いて頭を炎王に下げる。他の従業員もその場にいた客も同じ様な姿勢を炎王に対して行っている。
「なんで来ないんだ!入国してからどれぐらい経ったと思っているんだ!」
どうやら入国管理官の方から連絡は行っていたようだ。
「行きましたが?門の検問の方から他国の者は中に入れるなと言う通達が出ているとの一点張りで中に入れてもらえませんでしたよ。」
「あ?」
「私が訪ねるということを伝達してもらってなかったようでしたので、買い物だけして帰ることにします。」
炎王が目の前に居るにも関わらず、シェリーは帰ることが決定事項だと言い切った。
「なぜ、帰るんだ。」
「伝達不備。時間の無駄。私暇じゃないのです。多分そのうち薬が教会経由で出回るのでそれで対処してください。以上。」
「俺が悪かったから機嫌を直してくれ、欲しいものを何でもあげるから。」
その炎王の言葉にこの場にいた鬼族の者達が目を見開き驚いている。あの初代様が色付きの、たかが人族に許しを乞うていると。
「じゃ、取り敢えず紅茶が無くなりそうな物が幾つかあるのでそれをお願いしたいですね。あと、珈琲豆も」
「オーケー。じゃ、行こうか。」
炎王はシェリーに早く来てもらおうとするが
「まだ、商品が揃っていないので、待ってください。」
そのシェリーの言葉を聞いた従業員たちは慌てて動き出す。商品が揃わないかぎり、初代様を待たせてしまうと




