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翌朝、廃墟の王都の外でブライ達と別れることになった。シェリーはイリアに渡されていた書類を再びイリアに返し封筒の中をチラ見したイリアが『真っ赤・・・。』と呟いていたが、無視をする。
「陛下に何か言付けはあるか?」
ブライがシェリーに聞いてきたが、何も問題がなかったので特に言うことはないと思ったシェリーは
「何もありません。問題なくモルテ王にアイラ嬢を押し付けることができましたと言うぐらいですか。」
シェリーの言葉にブライが声を大きくして
「は?問題なく?どこがだ!問題だらけだったじゃないか!」
シェリーは首を傾げ、不思議そうに
「暴君のようにモルテ王がシーラン王国を強襲せずにアイラ嬢を引き取ってもらえました。問題ないではないですか。」
「くっ・・・。陛下にはありのまま伝えさせてもらうからな!」
「どうぞ。」
そして彼らは、シーラン王国への帰路についた。そして、シェリーは亜空間収納鞄から魔石を一つ取り出す。
「炎国へはどうやって行くのですか?私は行ったことがありませんので、転移はつかえません。」
そこにスーウェンが炎国への行き方を聞いてきた。
「転移で行きます。炎国は転移で入国する場所を指定されていますので、そこに転移をします。」
そうシェリーは言いながら、魔石を地面に落とした。地面に落ちた魔石から光が放たれ、転移の陣が形成されていく。陣が完成されたと同時にシェリー達の姿はモルテ国から消えた。
転移で降り立ったところは木の板の壁に囲まれた10帖程の部屋で石の円状の台の上だった。正面には木の扉があり、そこから部屋の外に出られるようだ。
シェリーはその扉から部屋の外に出て、右側を見る。そこには事務机のような人が一人座れる机が一つ置いてあった。その机に座っている人物はいるのだが、シェリーからは頭しか見えない、なぜならその人物は机の上で突っ伏して寝ているからだ。
シェリーは事務机の足を勢いよく蹴飛ばす。その振動で机に突っ伏しいた人物が飛び起き椅子を後ろに倒しながら立ち上がった。
「申し訳ありませ・・・ん?」
その人物は黒髪赤目の長身の男性だったが、その黒髪からは白い二本の角が出ていた。
「金髪の嬢ちゃんか、驚かすなよ。てっきり上官かと思ったじゃないか。」
「仕事中に寝ないでください。」
「だってさー。転移の間って嬢ちゃんぐらいしか使わないじゃないか。暇なんだよ。」
黒髪の男性が言うように炎国には殆ど一般人は入国しない。特に転移で炎国に来ようと言う人は皆無と言っていいだろう。なぜならここは黒を纏う鬼の国だからだ。
一般人以外なら入国してくることはよくある。それは島国の炎国と大陸の端にあるギラン共和国を行き来する商船だ。数日毎に行き来する商船はギラン共和国で一番の老舗であるフィーディス商会の船であり、オルクスが以前シェリーに話していたとおり、初代炎王が理事を勤めているので頻繁に出入りが許されているにすぎないのだ。
なので、頻繁に他国から入国者はシェリーぐらいなのである。
「はぁ。手続きお願いします。入国理由は炎王からの要請で、5人入国です。」
「はいはい。初代様からの依頼と。5人・・・5人!」
男性はシェリーを見て後ろの四人に視線を向けた。
「じ、嬢ちゃん。まさか、王太子殿下は捨てられたのか?」
その言葉にシェリーは怪訝な表情になり
「王太子殿下は一度しか会っていませんし、拾ってもいません。」
どこまで王太子の奇行が噂として広まっているのだろうか。シェリーの言葉を聞いた男性はふるふる震えながら立ち上がり
「上官に報告をしなければ!」
と言って走って行ってしまった。一体何を報告をすることがあるのだろうかと思いながら、シェリーは事務机の横にある戸を横にスライドさせた。
外に出るとそこは町の賑わいが溢れていた。異国情緒と言えばいいのだろうが、シェリーには懐かしさを感じさせた。
木と土壁で作られた建物が整然と建ち並び、黒光りする瓦が屋根を覆っている。その町並みは古い城下町を思わせる雰囲気である。
行き交う人々はほとんどが黒髪であり、着物に似た衣服をまとっていた。
一番近い感じで言うと室町〜戦国時代の衣服に似ている。カラフルな柄の着物の裾は邪魔にならないように膝下ぐらいの長さであり、男女共に幅の短い腰紐で衣服を留め、袖も邪魔にならないように短かった。
今いるこの周囲は店を構えた建物が建ち並ぶ区画のため余計に賑わいがあるのだろう。
なぜ、そんなところに転移入国管理の建物があるのかと言えば、炎王がシェリーの為に転移の間を作ったためである。そして、シェリー用事が全てここの区画で済むためだ。
炎王とシェリーの仲を疑ってしまうほどの親密さだが、炎王はシェリーとの取引にそれなりの需要度をおいている。
シェリーからすれば、ただのSクラスの魔物の魔石だが、炎王からすればこの炎国に存在しないSクラスの魔物の魔石なのだ。




