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ルナティーノとアイラが去った後の室内はどこからともなくため息が立ちのぼる。あの姿のルナティーノは相当ヤバかった。
シェリーは思い通りというか、それ以上の成果を得ることができ、問題児のアイラを引き受けてもらい、満足できる結果となった。
ここにはもう用がなくなったので、入ってきた扉に向かって行くと途中で、イリアに声を掛けられた。
「シェリーちゃん!シェリーちゃん!ちょっとだけこっちに来て!」
未だに座り続けているイリアが手招きをしている。腰でも抜けたのだろうかと思いシェリーはイリアに近づいていくと耳を貸すように言われ、イリアの側によると『お漏らししちゃった。』と言われた。ああ、きっとあの神力に耐えられたかったのだろう。
シェリーは魔術で乾燥させてあげると、涙目で感謝された。全て、あの謎の生命体が悪いのだ。
「もう、何回も命の危機を感じたんだからね。」
と言われたが、さてそんなに何回も命の危機があっただろうか。あったとしても、あの謎の生命体ぐらいだけだと思うが。
「もう、俺はお前の付き添いはしたくない!クストが言っていたとおり、命がいくつあっても足りん!」
ブライにも苦言を呈された。
「はぁ。早く国に帰りたいです。」
ノートルはなぜかフラフラしている。どうしたのだろう。
シェリーはそんな三人を置いて、玉座の間から出ようとしたときに、またしても引き止められてしまった。
「聖女様。」
声を掛けられ振り返れば、レガートスを始め、吸血鬼達が床に片膝を付き頭を下げていた。
「この度、モルテ国に施していただきました神の慈悲、王に番を与えて戴きましたことに感謝を申し上げます。そして、白き神の意を知ることができ、我々の方が白き神を裏切っていた事を知ることができました。ありがとうございます。」
「はぁ。感謝されることはありません。私は私の成すことの為に動いているだけです。それから、あの存在は想定外です。そもそも、一部の者達が行ったことを全ての者達に負わすことではありません。
あなた達に直接手を差し伸べたのは死の神モルテ様であり、闇の神オスクリダー様だということを忘れてはなりません。」
「はい。」
シェリーはふと思い出す。
「そう言えばアークとは何ですか?」
シェリーは知らなかったが、あの謎の生命体とルナティーノは知っていたならば、この者達も知っているかもしれない。
「アーク族のことですか?」
「アーク族?」
「はい。神の加護を持つ者しか行けない空域にある空飛ぶ島にいる白い翼をもつ白い種族です。」
白い種族?
「それはあの存在と関係があったりします?」
「はい。神の代行者と宣言しております。今は、騎獣を使うのが一般化していますが、昔は空を飛ぶには自力で飛ぶしかありませんでした。」
だから、エリザベートは毎回浮遊して現れるのかと納得する。
「自力でその空域に達して初めて行ける島です。今では訪れる人はいないでしょう。それに、地上に居る者達を虫けら同然の扱いをされます。唯一、受け入れられたのが魔女エリザベートです。」
「それはどうしてですか?」
「恐怖です。エリザベートは2千年前でしたか3千年前でしたか、浮遊する島を地上に落としているのです。落とされた住人は二度と空へ戻る事が出来なかったと聞いています。」
白い翼と言われて思い出されるのが、アンディウムだが、まさか・・・。
「それって、今はメイルーンと呼ばれていますか?」
「ええ。そうですね。」
確かに地図上で毎回不思議な形だと思っていたのだ。平野に突然山形の都市が存在する。余りにも人工的に作られた山だと、そして、所々にある地下空洞。これはシェリーのマップ機能をもって初めてわかることだった。その空洞をダンジョンマスターである陽子が利用してダンジョン化をしているのだが。
それが、エリザベートが落とした浮遊する島だとすると、相当の大きさの島が落ちたと思われる。
「そのアーク族は空に行かない限り問題はありません。」
「そうですか。ありがとうございます。」
またしてもこの世界に意味不明の存在が居ることがわかった。何?その自分のコピーを作ってみました的な種族は。
シェリーは廃墟の王都で唯一泊まれる宿にアイラが詰め込まれていた馬車で戻って来た。何故か道の所々で馬車にむかって頭を下げている吸血鬼を見かけたが、見なかったことにした。
ブライには明日はこのまま炎国に向かうと言っているので、彼らとは別行動をとることになり、やっと行動を監視されることから解放されるのだった。




