142(挿絵あり)
降り立った地面から見上げれば、3メル程の大きな扉が、来るものを拒むかのように閉められ、黒い外壁は圧迫感さえ感じる。いや、黒い壁と思っていたが、赤黒く変色した血が城の外壁を染めているのだ。
レガートスが大きな扉の前に立つと、中から扉が重々しい音を響かせながら開け放たれた。中も地下道かと勘違いしそうなほど薄暗く、灯り火は燈してあるものの殆どが闇に吸収されているが如く、周囲を照らしてはいなかった。
案内役と思われる人物が灯り火を手に持ち、中から出てきた。その人物を先頭にイリア、ノートル、大きな包を持ったブライが城の中に入って行き、シェリー達はその後に続きレガートスは一番後ろから付いてくる形となった。まるで獲物を逃さないよう、捕食者に挟まれる形で奥へと進んでいく。
玉座の間と言っていいところまで誘導されてきたが、その広い室内も薄暗く、室内の全体像が把握できない。しかし、その玉座の間には溢れかえるほどの吸血鬼の者達がいることだけは、把握できた。
そして、一番奥の高い壇上には一人の人物が玉座に座っていた。黒く長い髪を無造作に流し、顔色が悪く不機嫌そうに眉をひそめ、青い目は来訪者を睨むように鋭く眼光が光っていた。
ルナティーノ・トールモルテ。モルテ国の王である。
シェリーは視た。王の狂源はなんであるかを視た。
先頭のイリアが止まったにも関わらず、そのまま歩き続け、モルテ王がいる壇上の下まで来た。
周りにいる吸血鬼共は騒ぎだし、イリアも後ろの方で何か言っているようだが、聞こえないし、シェリーは聞く気もない。
「お初にお目にかかります。モルテ王。お話をする前に失礼します。」
シェリーは周りの吸血鬼共が動き出し、背後からはレガートスが迫って来ようがお構いなしに聖魔術を施行した。
「『呪術浄化』」
術の発動と同時に多くの吸血鬼がシェリーを排除しようと攻撃を仕掛けてきた。しかし、カイルが剣では無く物理的に殴り飛ばすことで吸血鬼共を制し、剣で斬っても意味をなさないことは経験済みであるため、グレイとオルクスもそれにならうかのように素手で対処をした。スーウェンはシェリーの周りに結界を張り、吸血鬼をシェリーに近づけさせないようにしている。
「下がれ!」
突如として、広い空間に低く響き渡る声がその場を制した。その言葉に従い吸血鬼どもは元の位置に瞬時に戻る。まるで、今までの乱闘などなかったかのように
「で、お前は何をしに来た。黒の聖女。」
玉座には先程と何も変わらないモルテ王が座っていた。
見た目的には何も変わってはいない。しかし、シェリーの目には先程と全く違う事が示されていた。
玉座の間に入りシェリーが視たものは、何か分からなかったのだ。そう、シーラン王国とモルテ国の間にいた黒い球体と同じく、文字化けしたものがシェリーに示されたのだ。
ルN∀ティィィィーノォォォ・ΤΘール ∑θR⊃テェェェ
jョ⊂Τ∣異常:∀ーκ⊂ノォォォォ呪ィィィ
という感じで、名前から文字化けがされていたのだ。世界に認識されないモノを見せられて何がわかるというのだろう。あの謎の生命体に文句を言いたいぐらいだった。
状態異常と思われる欄に呪いの文字があったため『呪術浄化』を行ったが、正解だったようだ。今のモルテ王はシェリーの目にはきちんと認識されている。
しかし、その実態に問題があった。一番それが表れているのが称号だ。
ルナティーノ・トールモルテ
4528歳
種族:始祖
メインジョブ:不死の王
サブジョブ:魔導師、剣王
Lv.ーーー
HP ーーーーーーーー
MP ーーーーーーーー
STR ーーーーーーーー
VIT ーーーーーーーー
AGI ーーーーーーーー
DEX ーーーーーーーー
INT ーーーーーーーー
MND ーーーーーーーー
LUK ーーーーーーーー
番:アイラ・クォード
称号
王族の頭部を持つ者、聖人の肉体を持つ者、神の生吹を与えられた者、魔王のなり損ない
不死者であるがゆえにレベルも基本ステータスも存在しないのか表示がされなかった。
番はあの謎の生命体が手を加えたのかアイラになっている。
そして、問題の称号だ。頭部と肉体が別人だと言っている。それを神が蘇らせたと・・・一体何の為に。一番の問題は『魔王のなり損ない』という称号だ。あの状態のままだと魔王化したのか。それとも王が狂い出した1000年前に何かがあったのか。1000年前と言えば、4番目の聖女が存在しており、暴君レイアルティス王が暴れ、エルフの王が死んだときぐらいだろうか。シェリーはその辺りの情報はあまり持っていない。
あの謎の生命体が言っていた、視ればわかるという言葉はどれを表しているのだろう。
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モルテ王挿絵
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