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番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―  作者: 白雲八鈴
12章 不穏な影

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 シェリーはカイルから返してもらったペンダントをつける。艶やかな黒髪は煤けた金髪に、美人な容姿は平凡に、豊満だった体格は普通の体格に変わった。そこまで変える必要があるのかと思うほどの変わりようだ。


「そういえばさっき後で機能を追加してもらったと言っていたけど、もしかして最初は黒髪がルークと同じ金髪に変わるだけだった?」


 カイルがシェリーに尋ねる。


「そうですが?」


「それは今、持っていたりするかな?」


「・・・。私の鞄も返してください。」


 シェリーはカイルの質問に答えず、亜空間収納の鞄を返すように言う。シェリーの鞄の中にはペンダントの予備があるため、鞄ごと取り上げられていたのだ。


 カイルはシェリーの鞄を自分の収納鞄から取出し、シェリーに返すかと思えば鞄の口をシェリーの方に向け


「そのペンダントを出して」


 と言ってきた。カイルは亜空間収納の鞄の中に髪の色だけが変わるペンダントがあると確信していた。


「嫌です。」


 シェリーは否定をする。ペンダントが鞄の中に無いという否定ではなく出すことに対しての否定だった。


「なぜかな?ここにはシェリーを知っている番しかいないし、認識阻害をする必要はないはずだよね。髪の色を変えることで人の目が変わるのなら、今の魔道具じゃなくてもいいよね。」


「人の目が変わるから嫌なのです。」


 おかしなことをシェリーは言い出した。黒髪だと人の目が変わると言い、ルークと同じ金髪でも人の目が変わると言った。


「そうだね。付けてくれたら、この前来たサリー女史から貰った騎士見習いの服を試着したときのルークの写真があるけど?」


「何で?私はサリーさんから貰ってないですが?」


 いつの間にかカイルはサリーと何かしら交渉をしてルークの学園での写真を手に入れたようだ。


「どうする?いるかな?」


 シェリーは格闘していた。ルークの写真は欲しいが、初期の頃のペンダントを付けるのは嫌だ。



 そして、格闘した結果シェリーはカイルの膝の上で写真を手にしていた。やはり、自分自身より弟愛の方が勝ってしまったのだ。

 美人で金髪のシェリーは黒髪のシェリーと全く印象が変わっていた。重い色の髪で声を掛けがたい雰囲気の美人から、儚げで守ってあげたくなる雰囲気にガラリと印象が変わってしまった。多分、煌めくような金色の髪とピンクの目を縁取る長いまつ毛が儚げに見えるのかもしれないが、無表情がデフォルトのシェリーが優しい笑顔で微笑んでいるのが一番の影響力かもしれない。


 ダイニングスペースに場所を移動し、カイルはシェリーの金色に輝く髪を触り遊んでおり、オルクスはカイルの横でテーブルに寄りかかりシェリーを眺めている。


 そして、グレイとスーウェンが戻ってきた。部屋に入って来た瞬間二人はシェリーに駆け寄り


「金髪のシェリーだ。こっちも可愛い。一体どうしたんだ?」


 グレイは床に膝を付き赤金のしっぽは勢いよく振られ、シェリーを仰ぎ見ている。


「一瞬、番の気配が消えて心配しましたが、こういう事だったのですね。とても、似合っています。」


 スーウェンはシェリーの金色の髪を一房を持ち上げ口付けを落とす。


 そして、部屋の外で固まっている人物が1人。


「聖女様。癒やしの聖女様がいらっしゃる。」


 何か用があったのかノートルが部屋の入り口で呆然と立っていた。入り口から進まなくなったノートルを不思議に思ったのか、横からブライが顔を出してきた。


「ビアンカ様」


 二人の反応を耳にしたシェリーは舌打ちをする。


「ちっ。だから嫌だったのです。」


 そう、煌めく金髪にピンクの目をしたシェリーは討伐戦当時の聖女ビアンカを思わせる容姿なっていた。

 黒髪だとそこまで思われないのだが、髪の色素が薄くなった途端、ピンクの髪のにピンクの目をした16歳当時のビアンカと金髪にピンクの目をした18歳のシェリーは人の記憶には同じように映るらしいのだ。


「聖女様。今から死の国に行く私共に加護をお与え下さい。」


 ノートルが転がるようにシェリーの足元に(ひざまず)き加護を願った。


「ビアンカ様いつこの国にいらしたのですか。」


 そう言いながら、ブライが部屋に入ってきてシェリーに敬礼の姿勢を取る。


 その二人の姿を見たカイルは


「こういう事?これは流石にダメだよね。」


「そんなに似ているのか?その聖女に」


 オルクスはグレイに尋ねる。


「え?髪の色が全然違うし、最近会ったけど、親子だなってぐらいしか思わないけど?」


 グレイの言葉を引き継ぎスーウェンが


「何度か挨拶をさせていただきましたが、聖女ビアンカ様より勇s・・・すみません。」


 シェリーにとって嫌いな人物の名を出そうとしたスーウェンをシェリーは睨みつける。誰かにも言われた言葉だが、シェリーは決して認めたくない事だ。


「私は聖女ビアンカではありません。」


 そう言いながら、シェリーはペンダントを外し、黒髪のシェリーに戻る。


「だから、嫌だっと言ったのです。第5師団の人たちが『迷子の幼女を保護をしなければ』と言って、追いかけてくるし、王都を巡回していた第6師団の人たちは『小さい聖女を確保しろ』と言って追いかけてくるし、散々な目にあったので、コレは使いたくなかったのです。」


 第5師団詰め所が崩壊したあと、隣接していた第6師団の軍兵に連れられ、半泣き状態で帰ってきたシェリーを見て、やはりナオフミと同じ黒髪に問題があるのかと思ったオリバーが自分とルークに似た髪質に変える魔道具を作ったのだ。

 しかし、癒やしの聖女と言われたビアンカと、それなりにモテていたナオフミの子供である幼いシェリーはどちらの特徴も容姿として現れ、子供ながら美人だった。そんなシェリーに麗しの魔導師と言われたオリバーの髪質を加えると、妖艶な美幼女が出来上がってしまったのだった。

 その妖艶な美幼女が外に出れば、幼女命である第5師団の変態どもは買い物に一人で出掛けていたシェリーを迷子の子供と勘違いして追いかけだし、討伐戦に参加し、聖女ビアンカを垣間見て容姿を知っていた巡回兵はビアンカに似ている幼いシェリーの保護をしようと動くことになった。

 門兵の第5師団数名と警邏を担っている巡回兵の第6師団数名が一人の幼女を追いかけ回すという構図が出来上がってしまったのだ。それは、幼いシェリーのトラウマにもなるだろう。


 黒髪に戻ったシェリーを見たノートルは


「ひっ。黒い悪魔。」


 と呟きシェリーから距離をとった。その言葉を聞いたオルクスがノートルの頭を掴み床に押し付ける。彼が王族であろうが関係がない。先程シェリーから聞いた言葉をノートルが呟いたのだ。


「うっ。」


「貴様、先程は聖女に加護を願ったクセに、髪の色が変わっただけで黒い悪魔と言ったのはどういうことだ!」


 オルクスの動きに付いて行けなかったのか、ノートルの護衛を兼ねて部屋を訪ねてきたのであろうブライが慌てて、オルクスに駆け寄り


「ちょっと、待ってくれ!ノートル様は王族なんだ。この方に手を出せば、お前を斬ることになる。それと、この方はラースの嬢ちゃんが勇者と同じ黒髪だったとは知らなかったんだ。」


「知らなくても人に言ってはいけないことぐらいわかるよな。」


 オルクスの尻尾が苛立ちを現しているかのように床に叩きつけている音が部屋の中に響き渡っている。


 『黒い悪魔』勇者ナオフミの番狂いを表した言葉だ。グレイも勇者の名として上げたが、それは人から聞き及んだ名と幼い頃大人気(おとなげ)ないナオフミに、しつこく追いかけ回されたトラウマから出てきた言葉である。しかし、ノートルの怯えようはまるで狂った勇者を見てきたような反応だった。


 シェリーはいつものペンダントにつけ直し、いつもの煤けた金髪に平凡な顔になる。


「オルクスさん。ノートルさんを解放してください。狂った勇者を見た人達は大抵こういう反応するか、攻撃的になるかどちらかです。そういうものです。扉の外にいる方、ノートルさんを部屋の外に連れて行ってください。」


 シェリーの言葉にオルクスは渋々ノートルを離し、それを見たブライはほっとため息を吐く。小声で『やっぱ俺じゃ無理だ。アンディウムの方が適任だったんじゃないのか?』と言っている。

 そんな事を言っているブライの横を通り、第4師団の兵がノートルを連れて部屋を出ていった。


「ブライ師団長さん。アンディウム師団長さんは白だからダメですよ。それから用件を言ってください。」


「俺の独り言に答えなくていい。アンディウムがダメなことぐらいわかっている。はぁ。」


 ブライはため息を吐き出し、シェリーを見る。その姿はいつもどおりの姿だ。情報としては知っていた。勇者と癒やしの聖女様の子供だと、そして勇者と同じ黒髪だと。シェリーが連れている弟のルークがあれ程の美少年なのだ。姉のシェリーが美人じゃないほうがおかしいのだ。


「シェリー・カークス。朝の件も先程のノートル様の言葉もすまなかった。」


 そう言ってブライは頭を下げる。


「いいえ。大体そのような反応をされることはいつものことですから、さっさと用件を言ってください。」


 シェリーは謝るよりさっさとここに来た用件を言えと言っている。その言葉を聞いたブライは項垂れる。


「きびしー。・・・はぁ。聞きたい事があったのだが、森の件だ。何があったんだ?部下に聞くところによると大量の魔物を蹴散らしながら、ある方向に一直線に向かって行ったと報告があったのだ。そいつも大量の魔物に足止めされて追いつけなくって後で白い炎が上がった辺りに行っても何もなかったと報告されたのだ。一体何があったのだ?」


 そうやら、シェリーの後を追跡していた第4師団の部下がいたらしい。


「冒険者ギルドの方にも報告してもらいましたが、よくわからないモノでした。以上。」


 シェリーは端的に結果を答えた。


「以上って全くもって意味がわからないから!こっちも報告を上にあげなければならないから、何があったか教えてくれないか?」


「グレイさん。あれを出してください。」


 シェリーは昨日グレイが拾った石を出すように言う。その言葉にグレイはテーブルの上に赤黒い石を一つ置いた。


「白い炎でこんがり焼いて出来上がった石です。」


「料理が出来上がったみたいに言わないでくれるか?コレがなんだ?気味が悪い色の石にしか見えないが?」


「ですから石です。持ち帰ってもらってもいいですよ。だたの石ですから。」


「え?よくわからない物を焼いたんだよな。それともタダの石?」


「ブライ師団長さん、私の話きいていました?」


 シェリーは苛ついたように言う。その言葉にオルクスが動き、赤黒い石を掴みブライの手に握らせ、首根っこを掴み部屋の外に放り出した。ドアの外からブライの叫び声が聞こえてくる。


『俺の扱い酷くないか!』


 確かに酷いかもしれない。



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