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シェリーが目を覚ますと・・・珍しくスーウェンが目の前ので寝ていたが、何か違和感がある・・・覆うような膜?結界?しかも、シェリーを包み込むようように術が組まれている。
その結界に触れようと手を伸ばせば、その手を掴まれてしまった。
「おはよう。シェリー。」
どうやら、後ろからカイルがシェリーの手を掴んだようだ。シェリーはカイルの方を向き結界を指しながら
「これは何ですか。」
「結界だね。シェリーおはようのチュウは?」
「見ればわかりますし、しません。・・・。」
シェリーの視界には黒い前髪が映り込んでいる。長い横の髪をつかんでみても黒色だった。
「あ、ペンダントはシェリーが自分で取っていたからね。」
どうやら邪魔になって、またしても無意識に取ってしまったようだ。シェリーはペンダントを探すために起き上がろうとすれば、カイルの方に抱き寄せられ
「シェリー。愛しているよ。」
と言われ、口付けをされた。
カイルから解放されれば逆に引き寄せられ
「おはようございます。今日はいい天気なので、街に出てデートをしましょう。」
とスーウェンから言われながら口付けをされた。二人して、朝から意味が分からない一言が付け足されているとシェリーは怪訝な表情になる。
「で、コレは何ですか?」
と今度はスーウェンにシェリーは尋ねる。
「結界です。」
二人とも全く同じ回答だった。
「見ればわかりますが?」
「あ、シェリーおはよ。」
グレイがドアから顔を覗かせ、部屋に入ってきた。グレイが近付いたとき結界は解かれたが、魔力の痕跡からどうやらカイルとスーウェンの両方の魔力が感じられたため、二人して何やら複雑な結界を作っていたようだ。シェリーが起き上がり、ペンダントを探そうとしていると
「シェリー。今日はどうする?デートする?」
と言いながら、グレイもシェリーに口付けをしてきた。なぜ、デートをしなければならないのだろう。
「冒険者ギルドに行って依頼完了の報告に行くだけでデートはしません。」
「え?でも今日一日、自由にしていいって言われたけど?」
それはブライかノートルにでも言われたのだろうが、シェリーはそのようなことは言っていない。
「シェリー。ブライが呼んでいるが起きているか?」
と言いながらオルクスが入って来たが、もしかして今日も見張りをしていたのだろうか。
「起きていますが、なんですか?」
「国境の森の大量の魔物の死骸について聞きたいんだと。」
「魔物の死骸の以外のなにものでもありませんが?で、私のペンダントは何処に消えたのですか?」
先程からシェリーが寝ていた周りを探して見たが一向にペンダントが見つからない。
するとカイルがニッコリと微笑みながら
「今日ぐらい付けなくてもいいと思うよ。」
その言葉にシェリーのこめかみがピクリと動き
「ふざけてます?返してください。」
「ほら、またシェリーがいきなり消えてしまうかも知れないからね。」
「はぁ。ですから消えていません。」
シェリーの言葉に4人が詰め寄ってきて
「雨が降っているのに部屋からいなくなることを消えたと言ってもいいよな。」
「気配も何もありませんでしたからね。」
「窓はないよな窓は。」
オルクス、スーウェン、グレイがシェリーの昨日の行動に対して非難する。
「という事だから、今日はこのままで過ごそうね。」
カイルが決定事項のように言うが、シェリーは首を横に振り、拒否反応を示す。これが家の中でオリバーが作った結界の中なら許せたことかもしれないが、今は家でもなくオリバーの結界もない。そんなところで、いつ人の目に付くか分からない状態で黒髪のままいることには耐えられなかった。
「シェリーの黒髪は綺麗だからこのままでいいと思う。」
グレイがシェリーの黒髪に触れながら美しいと褒める。
「お主人様はそのままが一番いいと思いますよ。」
スーウェンもシェリーの今の姿がいいと言う。
「俺は黒の色は好きだぞ。だから、このまま外に出ても大丈夫だ。」
オルクスもシェリーの黒い髪が好きだと言う。
しかし、シェリーの耳には褒め言葉として届いてなかった。マルス帝国のときは必要があったため納得して、黒髪のまま外に出ていたが、今回はただ4人が黒髪でいることを強要してくるように捉えられた。
「はぁ。そんなことを言われるくらいなら、髪を斬ります。」
ルークに長い髪の方がいいと言われ伸ばして来たが、黒髪を人の目に晒すぐらいなら短く斬ってしまったほうがましだ。
シェリーは氷でナイフを作り髪に刃を入れようとした腕をカイルに止められてしまった。
「シェリーはオリバーさんが作った結界の中じゃないと安心出来ない?この部屋にいるのもダメなのかな?」
カイルはシェリーに何処までが許容範囲か尋ねる。どうやら、4人はシェリーがペンダントの効力に頼らないようにしたいらしい。
「ダメです。」
シェリーのトラウマは相当根が深そうである。カイルがシェリーに青いペンダントを見せながら
「じゃ、今日一日このままで、いつも通り過ごすのと、コレを付けて俺たち4人がべったり離れずに過ごすのと、どちらがいい?」
シェリーにとって究極の選択肢を突きつけられたのであった。
シェリーは黒髪のまま過ごすことを選択した。ペンダントを付けて4人べったりとは、いつもと変わらないではないかと思い、カイルからペンダントを取ろうとしたのだが『お風呂も一緒に入ろうね。』と笑顔で言われ、ペンダントを取ろうとした手を下ろしたのだった。
そして、今日は外には出ないと言い、ギルドへの報告は誰かが行くようにとも言った。
4人はそれに納得し、シェリーが朝食の用意をしているところに乱入者が入って来た。
「いつまで待たせる気だ!」
どうやら、ブライがドアの前で待ち続けていたらしい。昨日、結界を張ったはずなのになぜ?とシェリーは思ったのだが、佐々木とシェリーが元に戻った時に消えてしまったようだ。
「何、お前たちだけメシを食べy・・・魔じn」
ブライがシェリーを見て何かを言いかけたが、それ以上の言葉を口にすることができなかった。なぜなら、オルクスとグレイがブライの首元に剣を突きつけ『出ていくか、首が落ちるかどちらがいい。』と問うていたのだ。
「斬殺は後始末が色々面倒なので、他の選択しにしてください。」
とシェリーが朝食の配膳をしながら真顔で言っている言葉を聞いて
「燃やしましょうか。」
とスーウェンが言い。
「首を折るほうが早くないかな?」
と言うカイル。生存する選択肢がいつの間にか無くなっていた。
「いやいや。俺、ドアの前で半刻待ったから!お前ら俺の存在知っていて無視をしていただろ。」
未だに剣を突きつけられているブライが叫んでいる。
「あと、昨晩お前たちがやらかした後始末はきちんとしろよな!」
シェリーは首を傾げる。あれか大量の魔物の死骸を始末しろと言っているのか、しかし国境の森と言えば・・・
「大量の魔物の死骸は森に食べられていっていると思いますが?」
魔物の死骸は森に吸収されているはずだとシェリーが言う。なぜなら、国境の森の一部はダンジョン化されており、死んだモノはいつの間にか森の中に消えてしまっているのだ。
今回の依頼もダンジョンからのスタンピードを疑った依頼だった為、いくら弱い魔物の大量の発生を示唆されていても、Bランク以下の冒険者に任すことができず、実質SランクのシェリーとSランクのカイルにニールが依頼を押し付けたのであった。
「あ、魔人かと思ったらラースの・・・アッブネー。マジで剣を刺して来るなよ!」
ブライのシェリーに対する発言でグレイとオルクスが突きつけていた剣をブライに刺したが寸前でブライが躱し、なんとか頭と胴が離れなくてすんだ。
「そっちじゃない。いや、その魔物のことも聞きたいが、そこの4人が暴れた後始末だ!」
4人が暴れた?いつ、暴れたというのだろうか。シェリーには全く記憶がない。
「その件は後で直しに行きますよ。」
とスーウェンが言っていることから、何かシェリーの知らないことがあったようだ。
朝食の用意ができたので、シェリーは一人席に座り食事を始めようとするが、カイルに抱えられ膝の上に座らされた。
「ちっ。」
「じゃ、いただこうか。」
というカイルの言葉にスーウェンはさっさとカイルの隣に陣取り、グレイは剣を戻しカイルの向かい側に座る。オルクスはブライに『命拾いしたな。』と言ってグレイの隣に座る。
「ちょっと待て!なぜ、話の途中で食べ始めようとするんだ!」
「今日の糧を得られた事を感謝します。」
「女神様に感謝を」
「良き食事にありつけた事を神に感謝します。」
「いただきます。」
4人がそれぞれ食事の挨拶をし食べ始める。
「無視か!また、無視なのか!」
「ブライ師団長さん、うるさいです。聞きたいことはさっさと聞いて出て行ってください。」
酷い言われようである。ブライは項垂れながら
「また、後で聞きに来る。」
と言って出ていった。あまりにも酷い扱いをされたので、心が折れたのだろうか。
「それで、暴れた後始末というのは何ですか?」
とシェリーが4人に尋ねるが、返ってきた答えは
「直しますから大丈夫です。」とスーウェン。
「あれだ。ちょっと力が入りすぎただけだ。」とオルクス。
「大丈夫。大丈夫。」とグレイ。
「シェリーが気にする事はないよ。」とカイル。
それぞれが、答えてくれたが全く持って答えになっていない返答だった。シェリーはため息を吐き、聞き出すことを諦めた。
食事の後はそれぞれ別行動を取ることとなり、カイルは冒険者ギルドに行って依頼の完了を報告に行き、グレイとスーウェンは後始末に行き、オルクスはシェリーと共に宿に残った。というより、部屋から出ないと言っているシェリーの見張りの為に残ったのだろう。
そして、オルクスはシェリーの膝枕をしてもらいながら、放心状態になっていた。




