異世界転移と精霊と(3)
外が明るくなっているのが分かる。でもまだ春先で朝は寒くて布団から出たくない。まだこのまどろみのなか暖かくて気持ちの良い布団に潜り込んでいたい。・・・今日は何限だったっけ、えっと2限からだったはず。今何時だ?スマホどこに置いたかな〜妙にリアルな夢みて、なろう読みすぎだろ俺。
「スマホ、スマホどこだ〜」
「ここ・・・起きて。」
目を瞑ったまま携帯を探している俺の顔を叩く小さな手、手!
「夢じゃなかった」
「おはよう。あるじ。」
「あっおはようございます。」
布団から起き上がって、スマホだった少女と正座して向かい合う。
「あるじは体内の魔素を使い切ったからたおれた。」
「魔素?」
「スマホの機能を使うのにあっちでは電池がひつようだった。こっちでは魔素がひつよう。自分を動かす分の魔素は自分で吸収できる。でも、あるじがアプリを使うにはあるじの魔素がひつよう。」
「どうすればいいんだろ・・・」
「ベットウと通話したらいっきにへった。どうもレベル差が問題あるらしいことはわかるけど、私も通信機能が限定すぎてしらべられない。」
「えっとスマホ・・・スマホってずっと呼び続けるの変かな。たしか呼びかけると応答してくれる機能の名前がSuiだからスイはどう?」
「スイ、スイ・・・。今日から私はスイ。あるじよろしく。」
「こちらこそ、スイがいて助かったよ。」
目元は相変わらず見えないけど、喜んでいるのがよく分かった。
トントン
「はい?」
「声が聞こえましたもので、お目覚めになられましたのならこちらにお着替えになってお声がけ下さい。」
「ありがとうございます。」
扉の外から声をかけてきた女性から渡された服を広げて、俺はすぐに扉の外に声をかける。
「すみません。これの着方教えてくれますか。」
女性(こちらの屋敷で仕えている侍女だそう。)に着せてもらいながら、気合を入れて覚える。次からは何とか自分で着れそうなくらいの枚数で良かった。
「この色、あまり着ないから慣れないな。」
「あるじ良く似合う。さくらいろ。」
中の着物は薄い黄色で、外側は桜色の袍を着た自分の姿を鏡で見たけど意外なほど似合ってると思う。
宮様と朝食を一緒にとることになったけど、ご飯のどを通るかな。結構迫力ある人だったよな。
「こちらでございます。宮様がお待ちです。」
「色々とありがとうございました。」
着付けからすべてやってくれた侍女のお姉さんにお礼を言って、すでに開かれている戸より部屋に入った。
それにしても、何度も角を曲がって宮様の部屋へと至った訳だけど、一人で帰れる自信は無いな。
「体の調子はいかがかな?別当より突然倒れたと聞いておる。」
「ご心配おかけしてすみません。起きたら大変気分が良くなりました。」
「それはよかった。さぁ、こちらへ座るがよい。」
宮様に勧められた椅子に座ると、食べ物が運ばれてきた。
グゥ〜〜〜
「あっす、すみません。」
「よい。昨日から何も口にしてないのであろう。話は後にして食べなさい。」
目の前に用意されたのは、修学旅行にいった時に旅館で朝出された様な、日本の朝ごはんだった。
いつもはパン食だから新鮮だな。焼き魚が熱帯魚のような模様なのは気にしないことにした。それより食べ始めたら空腹である事が辛い。
「はぁ、満足した。御馳走様でした。」
「うんうん、子供は良く食べ、良く寝なければな。」
「俺、成人してますけど。」
「確か日本は成人が20歳だったかな。私にしてみれば子供だ。」
エルフの様に見えるし、テンプレ通りな歳かもしれない。聞いてもいいのかな、流石にあったばかりの人だし・・・やっぱり気になる。
「あの、失礼な事は承知でうかがいます。おいくつなんですか?」
「いくつだったかな・・・たしか500はこしてたと思うのだが。」
「・・・・」
予想はしていたが、江戸時代より前かよ。日本史は苦手だったけど江戸時代が1600年頃なのは覚えていたんだ。
「さて、ヒロキ殿だったかな。昨日は手荒にして悪かった。ここ数年、世界の情勢に急激な変化があってね、こんな辺鄙な国にもネズミが紛れ込むから困ったものだよ。」
怖い、笑顔が怖い。壮絶な笑顔を口元に浮かべるから、そこしれない恐怖に身がちぢまる。
「すまない。おびえさせてしまったようだ。たしか、肩に乗っているお嬢さんが精霊だったね。異界語とはいえ意思疎通できる精霊とは珍しい。」
「あっはい。スイと言います。ほらスイも。助けていただいた上に休ませていただいてありがとうございます。」
「昨日はあるじを助けてくれてありがとう。」
肩にいたスイはテーブルに移動して、宮様にカテーシをする。
「君があの変わった音を出していたのだろう?」
「そう。あるじが弱いからあそこで死なれると困る。」
「やっぱりスイだったのか、助かったよ!ありがとう。」
掌でスイの頭を撫でると、あっ髪がぐちゃぐちゃになった。
「むぅ。嬉しいけどひどい。」
一生懸命両手で髪を整える様は小動物の毛づくろいの様で可愛らしい。
「本当に精霊使いの様だね。助けた御礼として、ちょっとお願いごとを聞いてもらえないかな。」
そうきりだした宮様に、タダで助けてもらうなんて良い話はやはりないのかと思った。
「俺に出来ることなら。助けてもらってなんですが、危ないことは嫌です。」
「心配しなくても危なく無いと思うよ。私が知る限り誰も害を受けた事はない。お願いというのは、この国に居る精霊と話をして欲しい。」
「スイの様ににほ・・異界語を話さないのですか?」
「いつも微動だにしない。せいぜい額の宝石の色が変わるくらいだね。会った方が早いと思うから行こうか。」
「行っても話せないかもしれませんよ。」
「スイ殿はどう思っている?」
「あるじは話せるよ。もちろん私も特別なのはたしかだけど。」
「だそうだよ。お願いしていいかな?」
「わかりました。スイが言うなら。」
そういって、宮様が部屋から出て行こうとしたので慌てて後を追いかける。また何度も角を曲がって外に出ると門をくぐり敷地を出た。
「どちらへ行くのですか?」
「この国を治めている帝の所に行く。帝は私の兄の何代だったかな・・・忘れたが子孫だ。そこに例の精霊が祀られている。」
宮様の所から出た時から見えていた大きな門に宮様が入っていく。門の前に警備の者が居たが、宮様も俺も顔パスで入れた。
「こちらだ、すでに今日行く事は伝えてある。」
「俺が承諾すると思っていたんですか?」
宮様はニヤリと笑って何も言わなかったけど、承諾させる気だったのは間違いなさそうだ。
再び建物の中に入って角をいくつ曲がっただろうか、たどり着いた先はとても立派な木が中央に生えている中庭だった。