異世界転移と精霊と(2)
ベットウさんの後について歩いて行くと、森の端が近かったようで数メートル先はひらけているようだった。逃げてたら森から出れてたのかと思ったが、反対側に逃げてたらアウトだよな。
「ア・・・・ドゥ・・・・ボ・・・」
何か聞こえる、これは・・・。
左方面から耳なじみのある歌が聞こえて、歩を止めた。
「どうされた?」
「しっ!少し待ってください。」
息をひそめて歌のより聞こえる方向へ進む。
これは俺がここに来る直前に聞いていた曲だ。耳にイヤホンしてたから車の接近に気づかなかったんだよな・・・。
どうやら茂みの中の様で、膝をつき低い木をかき分け覗き込む。そこには見慣れたスマホが落ちていた。
「よかった〜」
「それがヒロキ殿が探されていた物ですか。魔道具ですか?」
「魔道具では無いですよ。これはスマホといって電気で動く電化製品ですよ。」
音楽が鳴っていると言う事はあのままだったって事だよな。壊れてないかロックを外して画面を見ると通知が来ていたので、キャンセルしてホーム画面を見ようとしたがとじることが出来なくて壊れたのか焦る。
ーシステムに新しいアップデートが見つかりました。ダウンロード致しますか。
ーはい
普通なら詳細が分かるボタンがあるはずだがそれは無く、選択肢もひとつしかない。
「えっ壊れた?困ったな。これしていいのかな・・・『はい』しか選択肢ないんだけど。」
「ダウンロード開始・・・10%・・・50%・・・」
「うわっ、えっ、うそっ」
普通なら音声で始まるはずのないダウンロードが行われ始めて、さらに焦る俺は電源を切ろうとしたがそれすらも反応しない。
「続いてインストールを始めます・・・50%・・・」
インストールに関しては同意すら求められなかった。
「再起動はじめます。シャットダウンまで5秒・4秒・3秒・・・」
スマホが光はじめて宙に浮く。光が繭のようにスマホを包み人型を成していく。
光が落ち着いた先にはスマホサイズの女の子がいた。
「えっ・・・俺のスマホは?」
「私が、U phone Ⅺ、シリアルナンバー30004567982」
「えっと・・・俺のスマホ?」
そう言った俺の言葉に同意してうなずく。いや目の前で変わったとしてもすぐ信じられるものじゃないと思うんだ。
とりあえず女の子をしげしげと見つめる。
髪が足元まである黒髪に前髪が目もとを隠す長さで表情は分からない。服はスマホカバーと同じメーカーのロゴが入った、やはり同じレザーのジャケットを着ている。スマホと違うのはレースのスカートになるような物はつけてなかったことや、ましてや少女でも無かったことくらいである。
「人差し指を出して。」
反射的に指を出したら、指の先に少女が小さな口をつけた。
「何する・・・うわっ!」
ビックリして指を引くと目の前にちょうど少女の頭の上だが、スマホサイズの画面が出てきた。そこには見慣れたアプリのアイコンが並んでいた。
『ステライズ仕様にアプリをアップデートする必要があります。一部の機能が条件を満たされるまで使用不能になります。現在使える機能をナビゲートいたしますか?』
「は、はい。お願いします。」
『マップと通話とカメラが現在使用可能です。』
「えっ、たった3つだけ?それにどうやって使うんだ。」
画面に触ろうとするんだが、指がすり抜ける。
「頭の中で画面に向かって強く念じて下さい。」
通話、通話〜と念じる。
『一度で大丈夫です。誰と通話しますか?』
そこに出ていたのは、
「宮様?ベットウ・・・」
『残念ながら、どちらもレベルの高い相手のため先に同意を得る必要があります。まず相手と会って同意を取り付けて下さい。』
「なんて使えねぇ。」
「呼びました?それにしてもヒロキ殿は異界の客人でありながら精霊使いでしたか〜。宮様も喜ばれることでしょう。」
「精霊使い?気になるけど、まずは現状把握だよな。ベットウさん通話して良いですか?」
「通話ですか?良いですよ。口で話したほうが早そうですがね。」
『ベットウより同意意思確認。通話致しますか?』
はい。と念じると頭の中に、トゥルルル〜という電子音が鳴り始める。
『ヒロキ殿ですか?不思議な音が頭に鳴ってビックリしました。通常の通話の魔法と違う様ですね。』
『ベットウさんですか?通信の魔法があるんですね。ご協力ありがとうございます。終了しますね。』
ベットウさんが繋がっていると身振りで教えてくれた。そして、通話終了と念じるとファンという音と共に終了した。
『一度同意を得れた相手には、再度同意を得る必要はありません。』
「ありがとう。えっと次は・・・。」
「あっヒロキ殿、申し訳ないが宮様も心配されていると思うので屋敷へと向かいたいのだが。」
「すみません。ちょっちょっと待って下さい。」
このまま画面を出したままなのは不便なので、スリープ状態にするにはと考えていると。
『スリープに入ります。』
「また使う時は言って。」
そう言ってスマホは俺の肩に腰掛けた。
「ヒロキ殿は精霊殿と見つめ合っていましたが、どのように意思疎通されているのですか?」
「このくらいの四角い物や文字が並んだ画面が見えませんでしたか?それに言葉喋ってましたよ。」
「先ほどの言葉は、異界語ですよね。サクラ様の故郷の言葉として一部のものは勉強しておりますが、見つめ合っているときは何も聞こえてませんよ。それに画面もなかったですね。」
まじか、人形のような少女とただ見つめ合う成人男性ってただのやばいやつだよな。異世界転移物で良くある不思議な力を使える嬉しさよりも、精神的にくるキリキリしたものが強いんだけど。ましてや肩に乗せてるとか痛い・・・。
「大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。早く参りましょう。」
「えっ、そうですか?確かに血の気がひいてきたような・・・」
「あっヒロキ殿・・・」
森を出て、少し遠くに建物が見えたくらいの所で俺は意識を無くして倒れ込んだのだ。
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